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白絹に金糸で小花の刺繍が施され、小さなビジューの輝く花嫁衣装を纏う。
三日間過ごした皇宮の部屋に別れを告げ、神殿から付き従ってくれた侍女に手紙を託す。最期、五歳の時に別れた両親に手紙を送るのは許されるのだ。
手紙を渡して微笑むと涙を湛えた目で頷き返してくれた。
あの手紙が届くことはないのかもしれない。心の中で謝罪をし、私は歩みを進めた。
*
皇太子とは別の馬車で再び皇宮から婚礼式が行われる神殿へ。十一年過ごした神殿とも今日でお別れ。
再び歓喜に湧き上がる人々の間を縫って馬車はゆるゆると進む。
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列柱で支えられた巨大な神殿の、白く大きな扉を正装の騎士が両側から開ける。
まばゆい光に満ちた広い聖堂の両側にはシルバーを基調とした衣装に身を包まれた、たぶん貴族であろう人々。皆、顔の半分を隠す仮面をつけており表情を窺い知ることはできない。
最奥の真ん中に白くて大きな女神の像。周囲には煌びやかなクリスタルの蔦と百合の彫刻。
白い祭壇の前には皇太子リヒャルトが立っている。黒い正装に金の刺繍で縁取られた黒いマントをまとったその人は、白い光の中で一際存在感を放っている。
結婚式に似つかわしくない黒い衣装は喪服。
不思議な高揚感と冷静さを持って祭壇を見上げる。
わたくしは一人、参列者の視線を受けながらベールで顔を隠して進んでいく。
三日前に顔を合わせただけの男性と形だけの儀式を行い、声に出すのも虚しい宣誓をする。
そして口づけ。
わたくしの唇を包み込むようなあたたかな感触。心臓がぶるりと震えた。
揺れるあなたの鳶色の瞳。胸に広がる黒い想い。
あなたは今日から一年後、聖女ではない正式な伴侶を迎えることとなる。そしてこの国は変わらず存続するのだろう。
でもごめんなさい。
わたくしはこの世界を終わらせる。抜けるように青い空、穏やかで透明な空気。舞う白い花、笑顔の人々。
この完璧な日に世界を終わらせる。




