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男性側の幹事である篠原が言った通り、彼女の前にはワインのボトルが置いてあり、隅っこで静かにちびちび飲んでいる。
なるほど噂になるほど可愛いのに、どこか残念な感じだ。
黒い艶やかな髪の毛をサイドでゆるくまとめ、後ろへさらりとおろしている。夢の中よりも少し短いかな。白い肌が際立って見え、受付にしては化粧が濃くない。
気がつくと鈴野と楽しそうに話している。
目が合った。怯えた目をしている。……逸らされた。
なんだよ。
俺はまだなにもしていない。
その後も何度か目が合うけれど、席が離れすぎている。
*
「結城さんは二次会どうするんですか?」
次は二次会に移動という話になり、それを口実にやっと話しかけることができた。
いきなり声をかけたからか、彼女の肩がビクッと揺れる。
近くで見ると思ったより小さい。大きな瞳、長いまつ毛。
本当に夢で見た女性なのか、それとも他になにか俺たちの間に接点があったのか。
「席が離れていて話ができなかったから二次会行くなら……。」
「いっ、いえっ、明日予定があるので帰りますっ。ではまた!」
ばっと身を翻し、彼女はミントグリーンのスプリングコートをはためかせながら駅の方に走って行った。
あの後ろ姿、似ているような気がする。
「ええ、蓮花、帰るの?」
ほかの受付の女性たちや鈴野の声も聞かず、彼女は人混みの中に紛れて姿が見えなくなった。
逃げられた……?
「樫井さん、なにをしてくれているんですか。結城さん帰っちゃったじゃないですか。」
鈴野が不満げに口を尖らせている。
「俺のせいかよ。」
「なんかすごいびびってたじゃないですか。なにかしたんですか?」
「なにも……。」
うん、なにもしていない。どちらかといえば俺だってびっくりした。それに……あれは夢だ。
「あー、でも二次会どうしようかな。」
「俺、帰るわ。人数減るから鈴野は出ろ。じゃあな。」
「えっ、ちょっと樫井さん!」
明日は土曜日か。開けてない引越し荷物を片付けるか。
***
いつもの時間、いつもの悪夢。
ただ、細い首に手をかけると、その人の目は少し泣きそうだった。
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