1 ナイトメア
私は、この世界を終わらせる
たとえ肉体が滅びようとも、『死』のあとには天国も地獄もない
でも、きっとどこかへ……
だからあなた、この世界が終わっても、どこか違う世界に生まれ変わって出会いましょう
***
朝だというのに暗い森の中。うっそうと生い茂る黒い木々の中の細い道。迫り来る黒い影。ぜいぜいと肺を痛くするほど息を荒くしながら逃げる私。
白くて長いドレスが足をもつれさせる。
黒い影が私に追いついてきて腕を伸ばし、その手を私の首に……。
***
がばぁっ。
勢いよく汗だくで起き上がり、くらりと軽い貧血を起こす。
「うぉっ。」
やばいやばいと息を吐きながら、ゆっくりと枕に頭をおろす。カーテンの隙間から朝日が差し込み、外を走る車のエンジンの音が聞こえる。
……なんだったんだ、今の夢は。怖すぎる……。
*
ただでさえだるい月曜日の朝だというのに夢見が悪く、軽くヨーグルトだけを口にしてのろのろと出社の準備をする。
ううー、体が重い。仕事、休みたい。
それでもなんとか着替えと化粧を済ませ、駅まで徒歩、電車で三十分、そしてまた徒歩。目の前の眩しく日に照らされた高層ビルを見上げる。
私が受付として勤める会社は、この複合ビルの二十階から二十五階に入っている。
受付は二十階の総合受付と私が受付をしている二十五階にある。二十五階は役員室と監査部や人事部と総務部、そして応接室と大小の会議室などが入るフロアで、その他の部署は二十階から二十四階に入っている。
二十五階への来客は主に役員の客であるため、直接このフロアにいる私たち受付に声をかけていただき、案内する。
あとは会議室を利用する社内の人たちへキーを渡したりする。
来客や会議が立て込んでいる時はバタバタするがそのほかは静かだ。
*
午前中の小さな会議がいくつか終わり、出席者がはけて昼休みに入ってすぐの事だった。
「私ももう二十七なのよ。」
一緒に受付に座る二年先輩の畠中さんが、貴重品と化粧ポーチの入ったミニトートを持ちながら立ち上がる。
「そうですね。」
私もサコッシュを手に立ち上がる。
昼休みの間、留守を任せる警備員さんにお辞儀をしてエレベーターホールに出るガラスの扉をくぐる。
畠中さんはふうっとため息混じりにこぼす。キリッとした美人の畠中さんが頬に手を当てため息をこぼすと色っぽい。
「そろそろ異動だと思うのよ。」
「……。」
「総務のどこかに横移動か、それとも……。」
「……。」
「それでですよ、結城くん。」
「はい。」
「大切なのは人脈。人脈作りをしないとね。」
ずっと言っていますよね、センパイ。
「今週の金曜日、セッティングしたから出席するように。」
「は? 急ですね。それは命令ですか、隊長。」
「うん、結城が出席することは伝達済みなので。」
「え。」
「どうせ暇でしょ。ほかの受付も来るから。」
……釈然としません、隊長。
***
翌日もその次の日も、毎日同じ夢を見て飛び起きる日々が続く。夢の中の自分と同じようにはぁはぁと息が荒い。……とてもしんどい。