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76 転移陣の設置場所

 昨夜は色々と気になってあまり眠れなかった……。だが、朝顔を合わせたミエラは普段通りで、夕べの事が夢じゃないかと思えてきた。

 いかんいかん。やるべき事に集中せねば。


 朝食の後、転移陣をどこに置くか皆の意見を聞いてみる。


「王都東の森にはあまり強い魔獣が居ないでござるよ」

「そうだよな。鍛錬と素材狩りにいいとこねぇか?」


 アビーさんとレインは武器の習熟とお金稼ぎを兼ねたいようだ。


「アビーさん、咢の森はどう?」

「おお! あそこなら、少し奥まで行けば強めの魔獣も出るでござるな!」


 という事で、咢の森付近が決定。


「龍神の神殿にも置くといいのじゃ」

「置いても大丈夫?」

「問題ないのじゃ!」


 サリウスが問題ないと言うので、神殿前の広場にも設置する事にした。


「他にも……ワイバーンの狩場近くに設置しようか?」

「うん。弓の練習に良さそう」


 アムリア大山脈の、ワイバーン生息地近くに設置。ピルルと飛んでいる時に五体仕留めた辺りである。


 その他には、俺が気になる場所に設置する事にした。東西の国境付近、ビッテル湖、今度訪れるベルナント共和国。転移陣は登録した魔力でしか起動しないので勝手に使われる心配はない。ミエラ、アビーさん、レイン、コリン、サリウスの五人を登録するつもりだ。


 その日は設置型転移陣の作成と、携帯できる紙の転移陣(スクロール)作成に没頭する。設置型が予備を含めて十個、スクロールは、家族と仲間の分十二枚と、国王陛下や王妃様達の分を考えて合計で三十枚作る事にした。


 設置型の魔法陣は、対となる魔法陣と双方向で移動出来るようにすれば良い。起点となる屋敷の裏庭に設置する魔法陣だけは、行き先を必要なだけ登録しなければならない。

 行ったことのある行き先については、俺の転移魔法から必要な術式の部分を転写するだけでOK。行ったことのない場所は登録できないので後回しだ。


 紙の転移陣(スクロール)は、どこにいても屋敷の裏庭を転移先に指定するので同じ魔法陣を描いていくだけである。こっちは簡単なので二時間くらいで終わった。


 転移の準備をしているうちに、屋敷にシェルターを作ろうと思い立った。使っていない部屋を用いて、今の俺で可能な限り強固な障壁を展開する。その部屋に居れば「原初の炎(オリジン・フレイム)」級の攻撃魔法を受けても安全、そういうコンセプトで魔法具を作る。


 壁四面・床・天井に「魔法障壁(シールド)」を八重に展開する魔法具を作った。魔晶石だけで120万シュエル分かかったが、皆の安全には代えられない。

 屋敷の空室で一番大きな部屋にその魔法具を設置し、ミエラに使い方を教えて皆にも伝えるよう頼んだ。


「アロ……過保護?」

「……そうかもね。出来るだけ心配事をなくしておきたいんだよ」


 障壁の強度を説明するとミエラからは半ば呆れられたが、簡単に壊れる障壁よりずっとマシだ。過保護と言われようと、俺が居ない間の守りを出来るだけ固くしたかった。


「パル、ピルルを連れて行ってもいい?」

「うん、いいよ」


 昨日は泣かれてしまったが、今日はいつもの笑顔を見せてくれた。内心ほっとする。


「今日は、東西の国境付近とワイバーンの狩場に行ってくる」

「私も一緒に行っていい?」

「うん、俺はいいけど……ピルル、俺とミエラの二人が乗っても大丈夫?」

「ぴるるぅ!」


 これは大丈夫という事でいいんだよね? 


 という事で、また昨日訪れた草原に転移してピルルに大きくなってもらった。


「アロ、何でわざわざここに転移したの?」

「ん? 人目につかない方がいいかなって」

「……アロを探しに行く時、お屋敷から大きくなったピルルに乗っちゃった」

「あ、そうなの?」


 一週間以上経つけど騒ぎにはなってない。もしかしたら、義父様や陛下が騒ぎを抑えてくれてるのかも知れないなぁ。


「うん、俺が言うのも何だけど、その時は緊急だったから仕方ない。もしかしたら誰かに迷惑を掛けちゃうかもだから、緊急じゃない時は、面倒だけどここからピルルに乗ってもらおうかな」

「うん、分かった」


 それならここにも転移陣を設置しておけばいいよね。


 大きくなったピルルによじ登る。サリウスと違って、ミエラはさっさと一人で登ってしまった……。お尻を持ち上げるチャンスだったのに、なんて思ってないよ? 気を取り直してミエラの前に乗る。


「よし! ピルル、GO!」

「ビルゥ!」


 まずは東の国境付近へ。もし西側から魔人、或いは他の何かが攻めてくるとして、アムリア大山脈から連なる山越えをされると騎士団の対応が遅れる。騎士団は山間の街道を警戒しているからだ。

 俺達が警戒するべきは山越えだろう。上空から見て他と比べて標高が低い場所で、尚且つ斜面がなだらかな場所を探す。何か所か見つけたが、俺ならここを通るな、という一か所に絞った。


 一度着陸して確認し、場所を覚える。


 次にアムリア大山脈を目指して北上する。ワイバーンの狩場を設定する為だ。前回は空で狩ったが、地上から弓で狙える場所を探す。遠くにワイバーンの姿が見えるがこちらには近付いて来ない。もしかしたらピルルを怖がっているのかも知れないなぁ。


「ミエラ! 良さそうな場所はある!?」


 振り返って大声で尋ねる。ミエラは少し身を乗り出すようにして地上を見ている。ここまでミエラは俺の後ろに乗ってるけど、俺にしがみついたりしていない。「危ないからしっかり掴まって」とか言う度胸は俺にはない。ピルルの背中は広くて、羽毛に埋まるから体は安定するんだよね……。ぴったりくっついてくれればいいのに。


「アロ、あそこ!」


 ミエラが指差す方を見ると、開けた岩場があった。大きな岩がゴロゴロしていて、身を隠すのにも都合が良さそうだ。弓で射ったワイバーンが落下した後、回収しに行くのもそれほど大変そうじゃない。


「良さそうだ! ピルル、あそこに降りてくれる!?」


 旋回しながらピルルがゆっくりと降りてくれる。上から見た時より広く感じるな。


「ここが良さそうだ」

「うん!」


 周囲の景色を目に焼き付け、この場所をしっかりと憶えた。


「ピルル、疲れてない?」

「ビルッ!」


 ピルルは元気に返事してくれた。問題なさそうだが、無理はして欲しくない。


「ちょっと休憩してから行こう」


 魔法袋から水や軽食を取り出すと、ピルルはわざわざ馬サイズになってくれた。岩場に腰掛け、ミエラと一緒にサンドイッチを食べる。もちろんピルルにも、水と生肉をあげた。


 三十分程休憩してから、今度は西の国境を目指す。


「ミエラ、あそこ! マルフ村だよ!」


 じいちゃんと出会い、ミエラと出会った場所。森の南に小さい村が見え、あっという間に過ぎ去った。遠く左の方に見えていたベイトンの街もすぐに見えなくなる。

 ただ真っ直ぐ飛ぶだけなら、ピルルは恐ろしい程の速さを出せるようだ。かなり高空だし、比較対象がないから具体的な速さは分からないんだけど、一時間も掛からずに西側の国境近くまで来た。危うく隣国まで飛んで行くところだったよね。


 実は、リューエル王国の西には南北に広大な荒地が広がっている。通称「死の大地」と呼ばれているそこは、前世で邪神イゴールナクと激しい戦いを繰り広げた場所だ。その時に使った極大魔法や眷属が使った魔法の影響だと思うのだが、草木一本生えない荒涼とした場所になっている。人はおろか魔物や魔獣すら生息していない地域だ。


 この「死の大地」が国境になっており、ここを超えた先に南からベルナント共和国、ホッジス王国、チェラーシク連邦国の三国が並んでいる。いずれもリューエル王国やファンザール帝国と比べると小国だ。


 「死の大地」を右手に見ながら、北から南へとゆっくり移動する。主要な街道の近くにはリューエル王国騎士団の砦があり、山や森などもないから見通しは良い。やがて南の方に高い山が見えてきた。あれが「蒼竜山」だろう。キリクさん達勇者パーティがワイバーンを討伐しに行った場所だ。


「転移陣、要らない気がする……」


 こちら側の国境線は、基本的に開けた場所なので奇襲を受けるというのが考えにくい。蒼竜山に連なる部分は山や森になっているが、そこはかなり険しい場所だったし、割りと近くに砦もある。


 適当な場所に降りてもらい、ミエラに俺の考えを聞いてもらう。


「こっちは俺達が警戒する必要がないと思ったんだけど」

「私には難しいことは分からないけど、『死の大地』を超えて進軍するのはかなり大変そうだと思った」


 だからこそ、リューエル王国と西側の三国はお互い干渉していないのだろう。「死の大地」を超えて行き来するのは、相当逞しい商人くらいのものだ。

 魔人だと軽々超えてくるだろうが……言い方は悪いけど、わざわざリューエル王国に攻めて来るより、西側三国を標的にするだろう。


「うん。こっちの国境には転移陣は要らないね。ここからだと、次の宮殿(パレス)までそれほど遠くない筈だから丁度いいや。ここから帰ろう」


 目印になる木の形を覚えて、王都の屋敷に転移で戻った。

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