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73 魔族領

「うむ、龍神クトゥルス様じゃ」


 一瞬その場が静かになる。


「「「は?」」」

「じゃから、(わらわ)達が信仰しておるのはクトゥルス神と言ったのじゃ」

「「「ええーっ!?」」」


 俺、ミエラ、コリンが驚きの声を上げた。まさかこんな近くに龍神様の事を知っている人物が居るとは。


 一応、義父様と母様にもサリウスが魔族である事は伝えている。一緒に暮らす以上、黙ってる訳にいかなかったからね。


「サリウス、魔族はみんな龍神様を信仰してるの?」

「皆という訳ではない。じゃが信仰する者は多いのじゃ」


 サリウスによれば、邪神が世界を蹂躙した後、現在の魔族領に魔族を導いたのが、龍神から宣託を受けた一人の女性で、後に「龍巫女」と呼ばれるようになり、今に至るまでその血は受け継がれているらしい。


 魔族にとって龍神は、種族滅亡の危機を救ってくれた善神のようだ。


「それで、さっき俺がどうこう言ってたのは?」

「龍巫女様が数年前に神託を授かったのじゃ。龍神の試練を受ける者が現れ、混沌を鎮め、世界に安寧を齎すであろうと」

「それが俺だって?」

「断言は出来ん。可能性の話じゃ」


 龍神の試練……悪い予感しかしないのは俺だけだろうか。


「龍巫女様に会えばはっきりすると思うのじゃ」


 はっきりさせなくても良くない? クトゥルス様も、別に試練の事なんて言ってなかったし。


「アロ君、その龍巫女様に会うべきだと思う」


 俺の気持ちとは逆に、コリンからそんな事を言われた。


「なんで?」

「神託が真実だと仮定すると、その龍神の試練を受けないと混沌――つまり邪神の事だと思うんだけど、それを倒すのが難しいんじゃないかな?」


 うぐっ!? 俺が目を逸らしたかった部分を正面から指摘された。サリウスの言葉で薄々は気付いていたんだよ、薄々ね。


 しかしなぁ。次の宮殿(パレス)のことは勿論、王城の爆破未遂とその犯人についても気になっている。まぁ爆破未遂の方は俺達が関わることではないかも知れないけど。ただ、次の宮殿(パレス)はベルナント共和国で、目的を果たしたら少し行きたい所もあるんだよね。


「サリウス、龍巫女様ってどこに居るの?」

「魔族領の北部にある神殿じゃ」


 クトゥルス様の神殿か……もしかしたら、そこでならもう一度クトゥルス様と会って話を聞けるかもしれないな。それに俺が「龍神の試練を受ける者」って決まった訳じゃないし。


「うん、決めた。次の宮殿(パレス)は少し後回しにして、先に龍巫女さんに会いに行ってみよう」


 さて、行くと決めたは良いがどうやって行こう? 今回はさすがに戦闘はないだろうから、皆で行く必要はないと思うんだけど。


「それなら妾が案内するのじゃ!」


 まぁそうなるか。サリウスが居ないと場所が分からないからなぁ。


「私も行く」「ボクも」「もちろん拙者も行くでござる」「俺も行くぜ」「パルも!」「私だって行くのだわ!」「ディーネも!」「シルも行くの!」


 なんで皆行きたがるんだよ。遊びに行くんじゃないんだから。


「今回はほら、危ない事ないと思うし」

「王城だって危なくないと思ってた」

「うっ……それは」


 ミエラがド正論を言い放った。そうか。皆俺の事を心配してくれてるのか。


「魔族領、久しぶりでござるなー!」

「俺は初めてだ」

「ねぇねぇ、どんなとこなの?」


 心配してくれてる……んだよね……?


 まぁいい。ビッテル湖の時と同じで、ピルルに乗ってサリウスに案内してもらい、場所を確定したら皆を迎えに来るか。


「アロ。くれぐれも気を付けてね?」

「母様……はい、気を付けます」


 義父様からはポンポンと肩を叩かれ、母様はぎゅっと抱きしめてくれた。


「アロ。もしその『龍神の試練』とやらを受ける事になっても、その場で受けるな。一度戻って儂らに相談するんじゃ」

「分かったよ、じいちゃん」


 じいちゃんは俺の懸念をちゃんと分かってくれていた。皆で行って俺が試練を受けると、皆がここに帰るのが大変になっちゃうからね。そういう事情は、あのクトゥルス様なら理解を示してくれそうに思える。


「じゃあ早速だけどサリウス。案内してくれる?」

「任せるのじゃ!」

「ピルル、また頼むよ」

「ぴるるぅ!」


 まだ午前中だし、今から行っても場所を確かめるくらいなら余裕だ。勿論ピルルが居るからなんだけど。


「じゃあ皆、ちょっと行ってくる」


 着替えたサリウスとピルルを伴い、いつもの草原に転移した。


「ねぇサリウス」

「なんじゃ?」

「俺、前魔王に会う気はないからね」

「……分かっておるのじゃ」


 前魔王が母様にした事を思えば、会った瞬間に殺してしまいかねない。まだ一年にも満たないが、これだけ一緒に居るサリウスに対しては情もあるし、彼女に思う所はない。だが前魔王は別だ。


「アロ君。今更じゃが父に代わって謝罪する。この通りなのじゃ」


 そう言って、サリウスはいきなり頭を下げた。


「そういうのいいって。血が繋がってるからって、サリウスまで悪く思ってないから」

「そうかえ? じゃあ一緒に風呂に――」

「入んないよ!」


 チャンスがあれば一緒に風呂に入ろうとするのは止めて欲しいが、いつものサリウスに戻ってくれて安心した。


「じゃあピルル、お願い!」

「ぴるぅ!」

「おお!?」


 淡いピンク色の光に包まれたピルルが一瞬で巨大化すると、サリウスが驚きの声を上げる。ピルルが伏せてくれるが、馬より高いのでサリウスがよじ登るのに四苦八苦する。


「ア、アロ君、押して欲しいのじゃ」


 ……この姿勢で押しやすいのはお尻だが、姉とは言え、俺は断じてミエラ以外のお尻を触るつもりはない。


「『飛翔(フライ)』」


 飛び上がって、サリウスの襟首を掴んで引っ張り上げた。


「アロ君のいけず!」

「何なんですかね、もう!」

「ビルルゥ?」


 ピルルから「もういい?」とちょっと呆れた感じで聞かれた気がして、心の中で謝った。





 飛び始めてから30分。眼下に魔族領の森が見えてきた。サリウスが必要以上に背中に押し付けてくる胸の感触にも慣れたところだ。


「サリウス! このまま北に向かっていいの!?」

「少し東寄りなのじゃ!」


 風に負けないよう声を張り上げ、ピルルにも伝えた。


 魔族領の森と言っても、森の中で生活している訳ではない。所々森が開けた場所に点々と町がある。もっと北に行けば大きな街がいくつもあるそうだ。


 そう言えば魔王城……眷属を二人倒したから、もう戻っても大丈夫なんじゃ? 後でサリウスに言っておこう。帰る気がしないが。


 サリウスが言っていた大きな街も、見えたと思ったら後ろに過ぎ去る。


「あの高い山の麓じゃ!」


 後ろからサリウスが指差す方に目を遣ると、尖った山頂が特徴の高い山が見えた。


「ピルル! あの山の近くで降ろして!」

「ビルゥ!」


 近くまで来るとピルルが速度を落とし、徐々に高度を下げてくれる。旋回して降りる場所を探すと、山道を見付けたのでそこに降りた。


「ピルル、ありがとね」

「ビルッ!」


 ここは街から離れた深い森の中。道の左右には15メートルを超える木々が立ち並んでいるが、太陽が真上にあるせいか明るい。道の幅は4メートルくらいあり、馬車でも余裕で通れそうだ。


「サリウスはここに来た事あるの?」

「あるぞ。成人の儀以来じゃが」

「……サリウスっていくつ?」

「……女性に歳を聞くのはマナー違反じゃ!」


 俺の風呂に入ろうとするのはマナー違反じゃないのか。魔族は長命だから元々年齢が分かりにくい上、今は人間に偽装してるから余計分からない。見た目は二十歳前後だから、そういう事にしておいてあげよう。


 少し上り傾斜になっている道を、ピルルを肩に乗せて歩く。山道は九十九折りになっていて、山を徐々に登っているようだ。


「もう少しの筈じゃ」


 三十分くらい歩くと急に開けた場所に出た。山の岩肌を刳り貫いた場所に、大きな朱色の建造物がある。柱や壁、屋根も全て木で作られているようだ。周辺と相俟って峻厳な雰囲気がある。


「そこで止まれ!」


 しかし、その雰囲気をぶち壊すかのように、神殿の前には武装した五十人程の魔族が並んでいた。

ブックマークして下さった読者様、本当にありがとうございます!

100日連続投稿を目指して頑張ります!(今73日目)

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