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70 神聖魔法の素質

 偽使者が着用していた「偽装の魔法具」は「オーグ魔法具店」が作った物だと直ぐに判明した。

 魔法具の特殊性から、オーグ魔法具店では一つ一つに見て分からないシリアルナンバーを入れており、そこから販売店も分かった。それはベルナント共和国の本店だった。


「しかし用意周到な奴だ。本店で購入した者は既に殺されていたよ」


 アルマー子爵家の屋敷に来てくれたニコラスさんが苦々しい顔で教えてくれる。購入者は中堅の冒険者で、一か月以上前に殺されていたそうだ。


 俺が安静にしていた五日間でそこまで分かったらしい。今回の事件では冒険者ギルドに協力を依頼し、ベルナント共和国のギルドが動いている。冒険者が殺されているので積極的に協力してくれているようだ。


「逆に言うと、ファンザール帝国とベルナント共和国は容疑者から外れるって事ですかね?」

「そうとも限らない。そういう風に見せかけているだけかも知れないからね」


 リューエル王国の王城が襲撃され、国王や国の中枢を担う人々が殺されれば、その使者を派遣したファンザール帝国と戦争が起こってもおかしくない。と言うより、ほぼ間違いなく戦争になるだろう。


 そんな未来は回避された訳だが、それを画策した者が居るのは間違いない。


 ……あーこわい。国同士の争いや政治の話は権謀術数が渦巻いていて、余り近付きたいとは思わないよね。


「まぁ、ここから先は私達の仕事だ。アロ殿、兎に角元気になって良かった」

「ありがとうございます」


 ニコラスさんはお見舞いに来てくれていたのだ。ベッドから出て普通にしている俺を見て彼は驚いていたが、その後に凄く喜んでくれた。


「またそのうち城に呼ばれると思うから」

「ええぇ……」

「フフッ。そんな嫌そうな顔をしないでくれたまえ」


 そう言ってニコラスさんは颯爽と帰って行った。


「ベルナント共和国、か……」

「ベルナント共和国がどうしたの?」


 私室に戻ると、そこで本を読んでいたミエラに聞かれた。


「うん。次の目的地が共和国の北東辺りなんだよね」

「そうなんだ……でもまだ行っちゃダメだよ?」

「もう完全に回復していると思うんだけど」


 ミエラから、ちょっと頬を膨らませながら軽く睨まれたので目を逸らす。そこにコリンがやって来た。


「全く、目を離すとすぐ歩き回るんだから! アロ君、いくら自分で神聖魔法を使えるからって、まだ万全じゃないんだからね?」

「……え?」

「だから、まだ万全じゃな――」

「そうじゃない。コリン、今俺が神聖魔法を使えるって言った?」

「え? うん、そう言ったけど」


 コリンは何を言ってるんだろう? 俺は神聖魔法を使えないのに。


「いや、俺使えないよ?」

「そんな筈ないよ。だって、ボクの障壁の魔法陣、見えてたでしょ?」

「うん」

「神聖魔法の魔法陣って、神聖魔法の素質がないと見えないんだよ?」


 そんなの初めて聞いたんですけど。


 いや待てよ。前世で、対魔人用の魔法具を作ろうとした時、術式の重要な部分が分からなくて完成に至らなかった。あれは……知識として知っている神聖魔法と、実戦で使うそれが違ったからだ。そして、俺の周りには神聖魔法を使える者が居なくて、魔法陣をちゃんと見た事がなかった。


 初めてコリンの魔法障壁を見た時から魔法陣は見えていた。でも、他の魔法でも魔法陣は見えるから、それが普通だと思っていた。


 前世では間違いなく神聖魔法は使えなかった。という事は、つまり……。


「サリウス?」

「呼んだかえ?」


 嘘だろ? 冗談で呼んでみたらドアの直ぐ外に居やがった。


「ちょっとお聞きしたいのですが」

「何なのじゃ!? そんな余所余所しいのはイヤなのじゃ!」

「いや、返事が早すぎてちょっと怖かったから」

「た、た、た、たまたま傍を通っていただけじゃ」

「なるほどね」


 むしろその嘘を信じたい自分が居るよ。


「まぁいいや。あのさ、サリウスのお父さんって神聖魔法使える?」

「これっぽっちも使えないのじゃ!」


 清々しくきっぱりと断言された。


「だよね。ありがとう」

「もう終わり!?」


 いや、使えないだろうと思ってたけど、念の為に確認しただけです。


「アロ君?」

「アロ?」

「ん? ああ大丈夫。神聖魔法が使えるなんて思ってなかったから」

「そうなの!?」


 今度はコリンからびっくりされた。


「私、アロなら何でも出来るって思ってた」


 ミエラの為なら何でも出来るに決まってるじゃないか。


「あー。コリン、神聖魔法教えてくれる?」

「も、もちろん! 今から?」

「その前に確かめたい事があるから、また後でお願い出来る?」

「分かった!」


 母様は、この時間はリビングで読書している事が多い。一階に下りると、やはりリビングで母様を見付けた。


「母様、今よろしいですか?」

「あらアロ。大丈夫よ、どうしたの?」

「お聞きしたい事があるのですが、母様は、もしかして神聖属性をお持ちですか?」

「ええ、持っているわよ? あら……アロに言ってなかったかしら?」

「いえ、お聞きしたけど忘れていたのかも知れません」


 母様に礼を言って私室に戻った。前世で使えなかったから、神聖魔法は使えないと決めつけていた。どうやら母様からの遺伝で、今世では使える素質があるようだ。


 いやぁ、コリンが仲間になる前から、何だか対魔人用魔法具の作成がサクサク進むなぁとは思ってたんだよね。まさか俺にも神聖魔法が使えるようになっていたとは思ってなかったよ。


 それから、コリンに神聖魔法とは何かを教えてもらった。


「神聖魔法は、自分の魔力を神に捧げる事で発現する魔法なんだ。魔力を直接火や水に変換する魔法とは根本的に違うんだよ」

「魔力を捧げる神って決まってるの?」

「ボクの場合はハトホル神だけど、特に決まっている訳ではないよ」


 んー、じゃあ同じハトホル神でいいか。


「アロ君の場合、一度神殿に行った方がいいかも。神に魔力を捧げるイメージを掴みやすいと思う」

「なるほど」

「今から行く?」

「そうだなー」


 神殿には行ったことがない。もしかしたら、うちの誰かも行ってみたいかも知れないから聞いてみよう。そう思って、一緒に神殿に行くか聞いて回ったら、母様とじいちゃん、それにサリウス以外は全員行くと答えた。

 サリウスはハトホル神じゃない神様を信仰しているから行けないそうだ。そんな悔しそうな顔するなら神殿の外まで一緒に来れば良いのに。そう言ったら「その通りなのじゃ! 一緒に行くのじゃ!」と言って結局来ることになった。


「コリン、こんな大勢で行って迷惑じゃないかな?」

「それは大丈夫。もっと沢山で来る人達も居るから」


 王都の神殿はハトホル神を祀る場所だが、荘厳かつ美しい建物なので半ば観光地のようになっているらしい。貴族区から歩いて30分くらいの北区にあるそうなので、皆でのんびり歩いて行くことにした。


「アロ兄ぃ、もうおそとあるいてもだいじょうぶ?」

「ああ、大丈夫だよ」

「よかったぁー!」

「手、繋ぐ?」

「いいの? いたくない?」

「痛くないよ」


 パルは俺の体を心配して手を繋ぐのを遠慮していたようだ。俺がパルの小さな手を握ると「むふぅー!」と満足そうに息を吐いて尻尾をゆらゆらと揺らしてくれた。


 他の皆も俺の体を気遣ってくれているようだ。パルと俺のゆっくりした歩調に合わせて歩いてくれた。


 雑談をしながら北区を進むと神殿らしき建物が見えてきた。


「コリン、あれが?」

「そうだよ!」


 まだ結構離れているが、王城と同じように輝くばかりに真っ白な事が分かる。途轍もなく大きい建造物だ。


 神殿は一定の間隔で建てられた巨大な円柱に囲まれ、円柱の上には石の梁が掛けられている。柱と梁にはびっしりと彫刻が施され、これを造るのに気が遠くなるような年月を要したのではと思わせた。

 円柱の内側には階段で上るようになっていて、周囲より一メートルくらい高い。円柱から二十メートル程内側に四角い建物があり、こちらから見える位置に大きな開口部が設けられている。


 近付くと、本殿の開口部はまるで巨人が通るかのように巨大だった。建物の壁には一切窓がないが、天井が全てステンドグラスで出来ているようだ。内部には極彩色の光が降り注いでいた。


 確かに観光地化するのも分かる。外側は荘厳だが、中は幻想的と言える程美しい。


 床は黒っぽい石材。余計な装飾品はなく、信徒が座る木の椅子がずらりと並び、一番奥の祭壇には女神の像と、それを囲む色とりどりの花があった。


 今も数十人が女神像の前で祈りを捧げている。


 女神像とその周囲は白に近い金色の光が溢れ、まるで信徒の祈りが可視化されているようだ。いや、実際そうなのかも知れない。良く見ると女神像自体が薄っすら発光している気がする。


「ハトホル神様の御姿とここの様子を見れば、祈りを捧げるイメージが掴みやすいでしょ?」

「コリン、ほんとそうだ――」


 コリンに返事をしようと振り返った途端、俺の周囲が真っ白に染まった。そこはさっきまでの神殿ではなく、どこまでも白く光る空間。


「コリン! ミエラ! パル!」


 大声で皆を呼びながら周りを見回すが、どこもかしこも白。何らかの空間に閉じ込められたっぽい。俺は攻撃を受けているのか? 転移で脱出出来るか試してみ――


「待っておったぞ、アロ。いや、シュタインと言うべきか」


 誰も居なかった筈の目の前に一人の男性の姿があった。

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