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69 大好きだよ

SIDE:アロ


 体が温かい。最初に感じたのはそれだった。何か温かいものに包まれている感じ。次に、背中が痛かった。ゴツゴツと固い物が当たっているのが不快だった。


 そして、頬に雨が当たっているように感じた。不思議な事に、その雨は温かい。こんな優しい雨なら、ずっと打たれていてもいいかなぁ。


 そして、頭の後ろに感じる温かさと柔らかさ。顔を挟む何かの柔らかさ。


(……ロ……ア…………アロ!)


 誰かが……いや、ミエラが呼んでる。そっか、ミエラが起こしに来てくれたのか。もう朝なの? うん分かった、起きる。起きるから、もう少し寝かせて……。


「アロ!!」


 ミエラの声がはっきりと聞こえ、俺は目を開けた。そこには、上から覗き込むミエラの顔が逆さまにあった。その目は真っ赤になって、鼻も赤くなって、涙でグチャグチャになっていた。それでも、俺はその顔が世界で一番可愛くて、世界で一番愛おしく感じて、思わず頬に手を伸ばした。


「アロ! よがっだ……めがざめだ……」


 俺はミエラに膝枕されていた。ミエラが両手で俺の頭を支えてくれていた。俺の右隣にはコリンが苦し気な顔をしてぶっ倒れている。左隣にはでっかいピルルが蹲っていた。


「コリン……」

「コリンが、魔力がなくなるまで治癒魔法を掛けてくれたの」

「そっか……何でこの場所が?」

「ピルルがね、海と森に挟まれた岩場に居るって教えてくれて。この前アロと来た、ここだって思ったの」


 ピルルが……何で俺の居場所が分かったんだろう? いや、今はいいか。


「ミエラ……探しに来てくれて、ありがとう」

「ううん」

「コリンも……って、後でお礼を言おう。ピルル、ありがとう」

「ビルゥ!」


 ミエラは泣き止んで、俺の頭を優しく撫でてくれていた。波の音と、海からの風が心地いい。


「ミエラ、心配掛けてごめん」


 そう言うと、ミエラは一瞬「キッ!」と俺を睨んでから微笑み、体を屈めて唇にキスをした。


「いい。アロはそういう人だと思ってるから」

「俺……ミエラのこと、大好きだよ」

「私も。アロが大好き」


 太陽が傾き、西の空が茜色に染まっている。東の方は薄い青色で、俺達の正面は二つの色が混ざり合い、ピンクから紫の空が広がっていた。この景色は、この瞬間だけ見れるものだろう。


 ミエラはもう一度体を前に倒して、俺の唇に唇を落とした。ミエラのサラサラした銀色の髪が海風に靡き、夕陽を反射する。空色の瞳も紫がかって見えて、いつもより大人っぽく感じた。





 ようやく体を起こせるようになったので、コリンを抱えてピルルの背中に乗せる。まだ魔力が回復していないから転移は使えない。ミエラを前、俺が最後尾でコリンを挟むようにした。


「ピルル、重いかも知れないけど頼む」

「ビルッ!」


 ピルルの声は「任せとけ!」と張り切っているように聞こえた。


「ピルル、帰りはそんなに急がなくても大丈夫よ」

「ビルルゥ?」


 何言ってるの? 来る時もそんなに急いでないよ? ミエラの言葉にはそんな風に返している気がしてニヤニヤしてしまう。


「アロ……見えないけどニヤけてるでしょ」

「何で分かるのさ……」

「何年一緒に居ると思ってるのよ」


 そんな会話をしていると、ピルルがぐんぐん速度を上げた為に風切り音で何も聞こえなくなった。それでも、ミエラが上機嫌なのが伝わってくる。ああ、俺もずっとミエラと居るから、彼女の気持ちが何となく分かるんだな。


 30分くらい飛んだ所で、だいぶ魔力が回復してきた。これなら王都まで転移出来そうだ。


「ピルル! あの草原辺りに一度降りてくれる!?」


 街道から逸れた開けた草原を示すと、ピルルはそこにゆっくりと舞い降りた。太陽は今日最後の仕事に取り掛かり、世界を橙色に染め上げている。


 ミエラと二人でコリンを下ろし、ピルルに小さくなってもらった。膝を突いて、草の上に寝かせたコリンに左手を添え、同じく膝を折ったミエラと右手を繋ぐ。対象と触れている方が、転移のかかる魔力量が僅かに少なくて済むのだ。


「じゃあ屋敷の裏庭に転移するよ」


 一瞬の暗闇と浮遊感。直後にアルマー子爵家の見慣れた裏庭に居た。ほっとした途端、脚に力が入らなくなる。


「あれ?……」


 俺はそのまま、裏庭の芝生の上で再び気を失ってしまった。





 次に目が覚めた時、俺は自分のベッドで寝ていた。窓の外はすっかり暗くなっている。


 ベッドは結構大きな物だが、左右からミエラとパルに挟まれ、小脇にディーネとシルがうまいこと嵌っていた。ミエラの向こうにはグノエラが、パルの向こうにはアビーさんとサリウスが横になっている。サリウスはベッドの端でギリギリ耐えていて時折「うーん……」と唸っていた。


 枕の傍には、床に座ったコリンが上半身だけもたれかかって眠っていた。暗闇に目が慣れると、窓の近くに置いてある椅子にレインとじいちゃんが座り、腕組みをして目を閉じている。

 更に、ベッドの近くには、どこから持ってきたのか四人掛けのソファが置かれ、義父様が端っこに座ってその膝で母様が眠っていた。


 ……皆が俺の部屋に居た。


 皆に心配を掛けて申し訳ないという気持ちと、こんな風に心配して集まってくれているのが嬉しくて、零れそうになる涙を必死で堪えるのだった。





 翌朝目が覚めると、コリンから思いっ切り怒られた。


「アロ君、なんで転移なんか使ったの!? キミは死にかけてたんだよ!?」

「ご、ごめん。それと、コリン。助けてくれてありがとう」


 素直に謝って礼を言うと、コリンは毒気を抜かれたように呆けて小声で呟いた。


「……まったく、そういうとこだよ……」

「えっ?」

「なんでもない! とにかく、五日間は安静にしておくこと!」

「ハイ、ワカリマシタ」


 その後、コリンとミエラが俺を発見した時、どのような状態だったか教えてくれた。一言で表現すると、体の前面が大火傷を負っていたらしい。右腕の肘から先は炭化しかけ、生きているのが不思議なくらいだったそうだ。


 コリンが神聖魔法の使い手でなければ、いやその前に、ミエラとコリンが俺を見付けてくれなければ、あそこで死んでいたかも知れない。


「コリン、本当にありがとう。命の恩人だ」


 俺はベッドに横になったままなので頭を下げる事が出来ない。でも心を込めて礼を言った。


「うん……仕方なかったんでしょ? それは分かってる。でも、もっと自分を大切にしてね?」

「うん、分かった」


 コリン先生の診察とお説教が終わって、あの時もっと良い方法があったか考えてみるが……俺と、近くに居た母様と義父様の三人なら、問題なく転移で逃げる事が出来ただろう。でもそうすると、謁見の間に居た俺達以外の殆どの人は死んだと思う。

 全員を転移させるには時間が無さ過ぎた。例の魔法具を持ち込んだ三人と一緒に俺が転移する、という方法はあったかも知れないが、その場合でもあのタイミングでは大怪我は避けられそうにない。


 考えてみると、あの時はあれ以外方法が無かった気がする。という事は、二度と同じ事が起きないよう、せめて偽装の魔法具を検知する魔法具を開発し、城の出入口に設置して怪しい人物を排除しなければならないだろう。そうなると俺も城に入れなくなるけど、国王や城で働く国の中心人物が皆殺しに遭うより良い。


 あれ? ちょっと待てよ……。俺、あの時「減衰(ディケイ)の腕輪」を着けたままだった……? 左手の手首に嵌った腕輪を見て考える。これを着けたまま、本来の二割くらいの魔力量で「時間超遅延(カシステルクロノス)」を使ったのか?


 ……そりゃ魔力枯渇するよね。


 腕輪を外していれば、もっと強固に「魔法障壁(シールド)」を張るか、その場から素早く転移出来ただろう。ただ、あの時腕輪を外す余裕があったかどうか……多分なかった。サリウスから貰った「偽装のアンクレット」があるのだから、「減衰(ディケイ)の腕輪」を最初から外しておけば良かったかなぁ……。


 そんな事を考えていると眠くなる。死にかけた、と言うのは本当らしい。体が休息を求めている……。





 微睡から覚めると、そこに驚きの人物が居た。


「へ、陛下!?」

「違うじゃろ?」

「あ……おじい様」

「うむ。アロよ、お主の勇気ある行いで儂を始め多くの者の命が救われた。礼を言う」


 両親を死なせたくないと思ったのが一番で、陛……おじい様は二番目くらいだったから、お礼を言われて何とも居た堪れない気持ちになる。


「い、いえ、頭をお上げください。それより、せっかく授かった勲章をなくしてしまいました……」

「そんな物はまた作ればよい、気にするな。いや、もう一つ勲章を――」

「あ、それは結構です」


 危うくまた叙勲されそうになったので速攻で断る。


「ふむ、まぁ良い。まだ体調が万全ではない所悪いのだが、この件の調査を早急に進めたい。ニコラスに話をしてやってくれぬか」

「はい、大丈夫です」


 おじい様は再度礼を言うと部屋を出て行き、入れ替わりにニコラス宰相補佐官とルーナス第一騎士団副団長が入って来た。本来なら俺が城に出向かわなくてはならないのだろうが、俺の体調を気遣って、おじい様も、この二人も態々ここまで来てくれたのだ。


「ニコラスさん、ルーナスさん。ご足労お掛けしてすみません」

「何を言うんだい、アロ殿! 君のおかげでこうして生きているんだから」


 ニコラスさんがそんな風に言ってくれて、その後にルーナスさんが続ける。


「あの場にアロ殿が居なければ、この国はどうなっていたか分からない。本当にありがとう」


 そして二人が揃って頭を下げてくれた。なんだかムズムズするので早々に頭を上げてもらう。


「アロ殿。まずはあれがどんな魔法具だったか教えてくれ」

「はい。極大炎魔法、恐らく『豪火焔(フランマ)』の魔法具だと思います」


 魔法名を聞いて二人が絶句する。確かに、あれが謁見の間で炸裂していれば王城ごと吹っ飛んでいただろう。


 俺に分かるのはそれくらいで、後はニコラスさんが現時点で分かっている事を教えてくれた。


 三人の偽使者のうち、二人はその場で服毒自殺。残る一人を調べているが、恐らく「精神操作(マインドコントロール)」を受けている。ファンザール帝国に使者を送ったが、状況が判明するのに二週間程度かかると思われる。


「現段階では推測の域を出ないが、王国と帝国を争わせたい勢力があるんじゃないかと考えている。しかし余りにも証拠がない。今物証と言えるのは、残された『偽装の魔法具』くらいで……それも出所が分からないんだ」


 ん? 「偽装の魔法具」って結構珍しい物だった筈。


「それなら分かるかも知れません」

ブックマークして下さった読者様、ありがとうございます!

大好きだよ(〃ノдノ)テレ

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