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67 二人目のじいちゃん

 とうとう叙勲式の日がやって来た。……はぁ、気が重い。別に国を守ろうとか、武勲を立てようなんて考えはないので、断れるものなら断固として断りたい。でも、母様と義父様が凄く嬉しそうなんだよなぁ……。あんな顔を見たら断れないよね。


 侍女の皆さんに朝から身なりを整えられて精神的に大ダメージを負いながら、子爵家の馬車で登城する。義父様と母様ももちろん一緒だ。


「アロ、今日はしっかりね!」

「……はい、母様」

「アロの年齢で叙勲されるなんて滅多にない事だよ。私はそんなお前を息子に持って誇りに思う!」

「は、はい、義父様」


 母様からはギュッと両手を握られ、義父様は馬車の天井を仰いで涙を堪えている。そうこうしているうちに馬車は中央区へ入り、王城の前に停まった。


 当たり前だが、相変わらずの威容を誇る城の入口では、前回も案内してくれたニコラス・ベンジャール宰相補佐官が出迎えてくれた。こちらも当たり前だが相変わらずのイケメンである。


「陛下が式の前に少しお話されたいとの事です」


 何だろう、俺怒られるような事してない……よね? だが、ギルマスのマイルズさんの耳にも入っていたくらいだから、国王の耳にもビッテル湖で起きた件が届いている可能性はある。と言うか、それくらいしか思い当たる事がない。


 前回と同じルートで国王が私的な客を迎える部屋に向かう。二回目で道順を覚えられるとは思えない複雑さだ。


「陛下、アルマー子爵家ご一行をお連れしました」

「入れ」


 国王と会うのも二度目ともなれば、そんなに緊張しない……訳がない。俺の顔を見た途端、陛下が「はぁ~」と大きな溜息を吐けば尚更である。


 促されてソファに座ると、挨拶もそこそこに核心を突かれた。


「ファンザール帝国とゲインズブル神教国から使者が来てな。帝国北部で起きた事件について、両国が正式に謝意を表明すると言ってきた」


 …………良かったー! 何か文句を言われるのかと思ったよ。


「アロ。誤魔化しも謙遜も要らん。何があったか話せ」

「お父様。その前に人払いをしていただけますか?」

「むっ? うむ、シャルちゃんが言うならそうしよう」


 陛下、もう人目を憚らず「シャルちゃん」って言っちゃってるな。大丈夫なの?


 陛下の指示で、侍女や文官は部屋から出て行った。残されたのは陛下とニコラスさん、それに俺達だけだ。


「アロ。本当の事を全て話しなさい。転生の事も含めて」

「母様? それは俺と母様の事もですか?」

「そうよ」

「……分かりました。陛下、少し長い話になりますがよろしいでしょうか」

「うむ。聞かせよ」


 俺は全てを語った。シュタイン・アウグストスとして生きていたこと、邪神を封印したこと。1500年後に転生し、母様と前魔王の子として生まれたこと。じいちゃんに助けられたこと。母様と別れて冒険者になったこと。魔人のこと。邪神の眷属のこと。そして数年後に邪神の封印が解けること。


「……何と言うことだ……」


 陛下は一言も口を挟まず最後まで俺の話を聞くと、呟くようにそれだけ言った。


「……ではアロは、儂の本当の孫ということか」

「ええ、そうよお父様。間違いなく私がお腹を痛めて産んだ子です」


 母様の言葉を聞いて、陛下はますます沈痛な顔になった。


「そうか……シャルロット、それにアロ。二人には苦労を掛けた。王としてではなく、シャルロットの父として、二人とも済まなかった」


 陛下……いや、おじい様はそう言って頭を下げた。


「アロよ。お前には出来るだけの事をしてやりたいと思う。何か望みはないか?」


 えーっと、勲章をお断りしても? 駄目か。駄目だよな、やっぱり。


「陛下。私の望みは邪神を滅ぼす事です。しかし、その前に魔人や眷属に襲撃されれば、国と民に危険が及びます」


 義父様を見ると力強く頷いてくれた。


「義父様には既に話したのですが、魔人に効果が期待できる魔法具を開発しました。具体的に申し上げると、盾と槍に神聖属性を付与する魔法具です」


 一度言葉を切って、陛下が理解してくれているか確認する。


「その魔法具を量産し、騎士団や兵に配備して頂けないでしょうか?」

「うむ。それは儂の方から頼みたいくらいじゃ」

「ありがとうございます。それと……可能なら、友好国だけでもそれを輸出し、配備するよう説得して頂きたいのです」


 俺の言葉に、陛下は目を丸くして腕組みをした。


「我が国だけではなく、他国にも魔人を退ける力を与えよ、と?」

「その通りです」


 陛下は目を瞑って眉をひそめる。しかし、一瞬後には目を開けて大笑いしながらこう言った。


「わーっはっはー! さすが儂の孫! 大賢者にして大帝国の祖、シュタイン・アウグストスの生まれ変わりに間違いない!」


 えーと、これ大丈夫なやつ? それとも怒られるやつ?


「気に入った、気に入ったぞ、アロ! 私利私欲とは正反対、こやつは世界の事を考えておる。よし、お前の言う通りにしよう。儂が意地でも周辺国にその魔法具を配備させてやるぞ!」


 大丈夫なやつだった。でも、おじい様に変なスイッチが入ったかも知れない。


「叙勲式が終わったら、このニコラスと詳しい話を詰めてくれ。ヴィンデル、お主の力も借りるぞ?

「「御意」」

「そうじゃ、アロ。公式の場では陛下と呼べ。しかし、身内しかおらん時は『おじいちゃん』と呼ぶのじゃ」

「分かりました、陛下」

「あ?」

「お、おじい様」

「うむ!」


 こうして、俺に二人目の「じいちゃん」が出来た。一人は元勇者、一人は国王である。

 ……じいちゃん達、強過ぎだろ。





「アロ・グランウルフ・アルマーに『プロスタシア勲章』を授け、褒賞として白金貨一枚を与えるものとする」


 初めて足を踏み入れた謁見の間。左右にずらりと貴族が並び、正面に陛下、王妃様、宰相が並んでおり、国王達の横にはルーナスさん達近衛騎士が控えている。

 ニコラスさんが口上を述べ、陛下が俺の胸に勲章を付けてくれた。


「有り難き幸せ」

「今後も国の為、世界の為に尽力せよ」

「はい!」


 謁見の間は万雷の拍手が鳴り響いた。これは物凄く意外だ。俺みたいな子供が勲章を授かるなんて、(ねた)みや(ひが)みの嵐かと思ったのだが。

 ああ、なるほど。これは両親の人望だな。俺への拍手と言うより、義父様と母様への祝福なんだろう。でも、俺は自分への称賛よりその方がずっと嬉しい。


 後ろに下がり、義父様にこっそり尋ねる。


「義父様、白金貨っていくらですか?」

「フフフ。一億シュエルだよ」


 いち……おく? それってワイバーン何体分? あ、ワイバーンで換算するとあんまり大したことないな……。


 いやいや、それは金銭感覚おかしいって! そ、そうだ。サーベルウルフで換算すると……めんどくせぇ。


 義父様と母様に挟まれてくだらない事を考えていると、ふと俺に注がれる視線に気付く。あれは帝国の使者だな。叙勲式に参加していたのか。俺がその視線に気付くとサッと目を逸らされた。しかも三人の使者全員の視線に……敵意を感じた。


 何かがおかしい。


 俺がビッテル湖で魔人と邪神の眷属を倒した事を、感謝じゃなくて恨んでいる?


 いや、それなら態々リューエル王国まで来る意味がない。ここまで来て俺を殺す? 殺したいくらい恨むような事だろうか? それこそ邪神の眷属じゃあるまいし。


 標的は俺じゃない? ……だとしたら、一番考えられるのは……陛下?


 その考えに至った時、奴らの手首に見慣れた物を見付けた。あれは()()()()()だ。


 三人が懐に手を入れた。謁見の間に武器は持ち込めないが、暗器なら分からない。だが、彼らが手にした物はそれより遥かに危険な代物だった。あれには見覚えがある。


 極大炎魔法を封じ込めた魔法具。それが、魔力に呼応して光を放っていた。


 次の瞬間、謁見の間は目も眩む光に包まれた。

ブックマークして下さった読者様、ほんっとうにありがとうございます!!

これだけでご飯三杯は食べられます……嘘です、執筆を続ける原動力になります!

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