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66 弟への想いを滾らせるサリウスさん

SIDE:サリウス


 リューエル王国の西には蒼竜山から続く山脈を挟んで三つの小国がある。一番南に位置するのがベルナント共和国。ここは、旧アウグストス帝国の帝都跡に作られた国だ。シュタイン・アウグストスが遺した数々の魔法、魔法具の研究・発展に勤しんだ人々が興した国でもある。


 現在では、大陸随一の魔法具を作る国として、小国ながら一目置かれている。


 そんなベルナント共和国でも最高の魔法具を作り出しているのが「オーグ魔法具店」。世界各地に支店を置く大店である。


 サリウスが初めてアロ達と出会った時、偽装の腕輪や「隔壁柱(セプタム)」、「転移門(ゲート)」といった魔法具を見たアロが、「魔族には相当優秀な魔法具の作り手が居るようだ」と感心したのだが、それらの魔法具はこのオーグ魔法具店が生み出したものであった。


 実は、魔族領にもオーグ魔法具店の支店があるのだ。


 そして、リューエル王国の王都フロマンジュールにも、当然のようにオーグ魔法具店の支店があった。


 今日、サリウスは貴族区に近い西区にあるその支店を一人で訪ねていた。


「これはいらっしゃいませ、サリウス様」

「うむ。頼んでいた物は届いたじゃろうか」

「はい、丁度昨日届きました。こちらでございます」


 支店長が恭しく差し出したのは黒い革張りの小箱。サリウスの小さめの手にも乗るくらいの大きさである。


「開けてみてもよいか?」

「勿論でございますとも」


 蓋を開けると、そこにはミスリルで作られたアンクレットが入っていた。細身のチェーンには精緻な魔法陣が刻まれ、わざと光沢が出ない加工が施されている。


 そしてもう一つ同じ物が。いや正確には、そちらには魔法陣はなく逆に光沢がある。


「うむ。素晴らしい出来じゃ」

「ありがとうございます」


 魔法陣が刻まれた方は、サリウスがアロにプレゼントする為に作らせた物だった。


 魔力を可視化出来るサリウスは、アロが左手首に着けている腕輪が彼の能力を抑える物だと分かっていた。更にそれがアロの姿を人間に偽装している事も。


 「北東2」門で魔人を撃退した時、アロの戦いを見ていたサリウスは、腕輪が文字通りの枷になっているのでは、と感じた。あの時腕輪を外す事が出来れば、アロは恐らく一瞬で魔人を倒していただろう。だが周囲に人の目が多かった為、腕輪を外して戦えなかった。


 この時のアロは目立ちたくなかっただけなのだが、サリウスはそう考えた。


「愛すべき可愛い弟、アロ君が思い切り戦えるようにするのは、姉である(わらわ)の務めなのじゃ!」


 暴走気味のブラコンを患っているサリウスはそう思い、オーグ魔法具店フロマンジュール支店に赴き、偽装の魔法具を注文した。

 姿を変える魔法具が大っぴらに店頭に並んでいる訳がない。悪用されたら大変である。まぁずっと偽装の腕輪を装着しているサリウスは既に悪用していると言えなくもないが、ブラコンなだけで罪を犯している訳ではないからギリセーフだろう。


 という事で、偽装の魔法具は身元を確認した上で受注生産であった。

 アロは両手首に腕輪を着けているし、首からは冒険者タグを提げているので、残るは指輪かアンクレットだったのだが、さすがに指輪はないだろうと変な所で常識が仕事をした。それで出来上がったのがアンクレット型偽装の魔法具である。


 足首の装身具は魔除けになるとも言われている。邪悪なものは地を這って足元から来るイメージがあるからだ。それにあやかって、偽装の他に状態異常耐性まで組み込んだ。


 もう一つの光沢のあるアンクレットは単なる装身具。これはサリウスが、アロとお揃いで身に着ける為だけに作った。


 代金は既に魔王のポケットマネーから支払い済みである。二つでワイバーン一体分したが後悔はない。


「アロ君、喜んでくれるじゃろうか……」


 期待と不安が入り交じりながら、サリウスは屋敷に戻るのだった。





SIDE:アロ


 騎士団の演習場から帰ったら、パルのフライング・アタックで出迎えられた。


「おかえり、アロ兄ぃ!」


 うんうん、パルは可愛いなぁ。最近容赦ない勢いで突撃してくるから、俺も瞬時に「身体強化(ブースト)」を掛けられるようになった。全てパルのおかげだ。


「あ、頭を使い過ぎたでござる……」

「熱が出たかも知れねぇ……」


 馬車から降りてもアビーさんとレインはフラフラしている。魔人や邪神の眷属と戦った時よりダメージがあるように見えるのは気のせいだと思いたい。


 ミエラとコリンも出迎えに来てくれた。


「あれ、そう言えば今日、精霊達を見てないな」

「三人なら裏庭にいるわよ? お花畑を作るとか」

「なんだって!?」


 嫌な予感がした俺は、お腹のパルを抱きかかえて裏庭にダッシュした。


「いい感じに出来たのだわ!」

「きれいなの!」

「気持ちいいの!」


 そこには、一坪ほどのスペースに極彩色のミニ庭園が生まれていた。


「これは?」

「アロ様、お帰りなのだわ!」

「「(あるじ)さま、おかえりなの!」」

「ああ、ただいま。えっと、このちっちゃい花壇? はどうしたの?」


 とても美しいし、スペースもささやかで、心配するような事はなかったかな?


「ママ様に断って、ここに精霊が集う場所を作ったの!」

「作ったの!」

「……精霊が、集う……?」

「土と水と草木の精霊が遊びに来るのだわ。このお屋敷のお庭がもっと綺麗になるのだわ!」

「そっかー」


 まぁ害はないのだろう……ないよね?


 深さ二キロの穴を掘ったり、永久凍土を作ったりしてないから問題なし! そう判断して屋敷に戻った。


 私室にアビーさんとレインを招いて今日の反省会を行った。一生懸命なのは良いけど、一度に全部出来るようにはならないし、そうする必要もないと伝えた。そしてこれからちゃんと魔力操作について教える事を約束すると二人は満足そうだった。


 アビーさん達が出て行くと入れ替わりにコリンがやって来た。もうすぐ対魔人用の魔法陣が完成する。これを魔法具職人が作れるように汎用性を持たせ、魔法具を量産するつもりだ。


 コリンが入って来てしばらくするとディーネとシルが来た。二人は基本的に俺にくっつくので作業が捗らない。だが、子供のような二人を無碍にも出来ないのでしばらく相手をする事にした。その間、コリンに魔法陣のチェックをお願いする。


 無邪気に俺に纏りつく精霊達をコリンが羨ましそうな目で見るが気にしない。


 そうやってしばらく精霊達と遊んでいるとドアがノックされた。


「アロ君、今良いじゃろうか?」

「サリウス? うん、いいよ」


 サリウスがちゃんとノックするなんて珍しい。そう言えばさっきまで居なかったな。彼女はなんだか遠慮しながら部屋に入って来た。


「えーっと……」

「あ、僕は少し外します」

「助かるのじゃ」


 コリンはサリウスの視線だけで何かを察したようだ。さすが空気の読める子。俺には視線の意味なんてさっぱり分からないよ。


「サリウス、この子達は良いの?」

「精霊様は問題ないのじゃ。……じ、実は、アロ君に贈り物があるのじゃ」

「贈り物?」

「う、うむ」


 そう言うと、サリウスは俺の前に両膝を突いて黒い小箱を差し出した。その姿勢だと贈り物って言うより捧げ物っぽい。


「開けていいの?」


 尋ねると、サリウスはコクコクと頷く。受け取って蓋を開けると――。


「ブレスレット?」

「アンクレットなのじゃ」

「ん……魔法陣が刻まれてる……これは、偽装?」

「そうなのじゃ! アロ君の左手の腕輪を、その、いつでも外せるようにと思って……」


 サリウスの声が段々と小さくなり、目を伏せてしまった。


 そうか。サリウスは偽装の副次効果がある「減衰(ディケイ)の腕輪」は、状況によって外し難い事を心配してくれたのか……。


「サリウス、俺の事心配してくれてありがとう。凄く嬉しいよ」

「っ!? れ、礼には及ばんにゃ」


 俺がお礼を言うと、サリウスは顔を真っ赤にして俯き、そして噛んだ。


「着けていい?」

「も、もちろん! 使って欲しいのじゃ」


 足首に着けてみるとピッタリだった。


「おお、ピッタリだ。デザインも凄くいいね」

「フフッ。アロ君が寝てる時に測らせてもらったのじゃ」

「えっ?」


 寝ている時に……?


「他に何もしてないよね?」

「し、し、し、してないのじゃ!」


 ……怪しい。


「怒らないから、何をしたのか言ってみて?」

「…………添い寝とか……アロ君の匂い嗅いだりとか」

「そ、そっか。まぁそれくらいなら」

「い、いいのかや!?」

「いや、ほら、ディーネとシルが怒っても命に係わる程じゃないから」

「ひぃっ!?」


 俺の両隣りに座っていたディーネとシルが、サリウスをジト目で睨んでいた。


(あるじ)さまに!」

「変なことしちゃ!」

「「メッ! なの!」」


 魔族は大精霊を敬っているので、サリウスにとって二人に叱られるのは俺が怒るより効果があるのだ。


 ディーネとシルは「メッ!」と可愛く注意しただけだが、サリウスは「ごめんなさいなのじゃあ~!」と叫びながら脱兎の如く部屋から出て行った。その足首に、俺が貰った物に似たアンクレットがあるのを、俺は見逃さなかった。


 まぁでも、サリウスが俺の事を想って贈り物をしてくれたのは間違いないし、その気持ちは嬉しい。これまで彼女の事を警戒していたし、いまいち信用出来ないでいたけど、それは彼女の父である前魔王がした事が原因であって、彼女のせいではないのだ。


 俺はこれまでの彼女に対する態度を反省し、もう少し優しく接しようかな、と思いを改めるのだった。

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