56 新たな仲間
昨晩はお肉に興奮し過ぎて、皆にコリンの事を話すのをすっかり忘れていた。
軽めの朝食の後、リビングに集まった皆にコリンを仲間に加えて良いか相談する。とは言っても、ミエラ、アビーさん、レインはコリンを知っているが、他は会った事がない。
「そのコリンというのは女か!?」
「いや、まあ、男だよ」
「なら妾は別に構わんのじゃ」
真っ先にサリウスが意見を述べるが、一番後に、しかも殆ど強引に仲間(?)になったサリウスの意見は、俺にとっては然程重要ではない。……って言うか女だったら何か文句があるのだろうか?
「私は別に良いと思う」
「拙者も」
「俺もだ」
コリンに会った事のあるミエラ、アビーさん、レインは仲間にして良いという意見。
「アロ兄ぃがいいっておもうひとならいいよ!」
「ぴるっ!」
パルは俺に任せてくれるって感じ。ピルルは……多分よく分かってない。
「グノエラ、ディーネ、シルの三人は、コリンに会った事がないから分からないよね?」
「アロ様が決めればいいのだわ!」
「ディーネもグノエラちゃんと一緒なの!」
「シルも一緒なの!」
それは俺に対する信頼の証か、それとも考えるのが面倒臭いのか……。
「イヤな奴だったらぶっ飛ばせばいいのだわ!」
「ディーネもぶっ飛ばすの!」
「シルもぶっ飛ばすの!」
君達がぶっ飛ばしたら死んじゃうから。やめてあげてね?
「うん、まあ最終的には一緒に戦ってみて決めようかな」
「えっ?」
「え?」
レインが俺の言葉に反応した。
「いや、アロと一緒に戦うってどんだけレベル高いんだよ」
「アロ殿の戦いについて行ける者なんて殆ど居ないでござる」
「そんな事ないで――」
「「ある!」でござる!」
ミエラとグノエラとサリウスがこくこくと頷いているが、俺のレベルなんてまだまだだと思うんだけどなぁ。
「ま、まあいいや。とりあえず、湖の宮殿にコリンも連れて行こうと思う」
「という事は、邪神や転生の事も話すの?」
「一緒に戦う仲間になるなら、いずれ話さなきゃいけないからね」
ミエラの問いにそう答えた。
自ら大声で喧伝するつもりはないけど、別に秘密にしなきゃいけないって訳でもない。じいちゃんなんか俺の知らない所でポーリーン様にぽろっと明かしたらしいし。
という事で、屋敷の侍従さんにお願いしてマクファレン家に行ってもらった。時間があれば今日にでもこっちに来て欲しいとコリンに伝える為だ。
マクファレン家も子爵位で、屋敷はそれほど離れていないらしい。俺達が皆で押し掛けると向こうの家に迷惑かも知れないし、ここでしか出来ない話もある。
叙勲式までまだ一カ月近くあるから、その前に次の宮殿から必要な物を回収してしまおう。コリンの都合が合わなければ俺達だけで行っても良い。
「アロ、湖に沈んでるって件は?」
「ああ、それなら問題ないよ。ディーネが来てくれたからね」
「ディーネにお任せなの!」
「シルも手伝うの!」
ディーネとシルが「シュピッ!」と手を挙げる。何故かその横でパルも手を挙げていた。
「あたしも!」
「そうかそうか。うん、シルとパルにも手伝ってもらおうかな」
そう言えばシルは森の精霊って言ってたけど、どんな能力があるんだろう。いずれにしても無理はさせられないよね。
パルはもう、居てくれるだけで十分助けになる。何と言っても俺達の癒しだからな。
「ミエラ、説明するより見た方が早いから楽しみにしてて?」
「うん、分かった」
ディーネに任せれば問題ないと言われても、いまいち納得出来ていないミエラに告げた。
見た目は5~6歳の可愛らしい幼女だもんなぁ。ピンと来なくても仕方ない。
「アロ殿、次の宮殿には何を隠したのでござる?」
「あそこは、確か『レーヴァテイン』と『グレイプニル』だったと思う」
「レーヴァテイン……ではレインに?」
「そうだね。本人が望めば」
「望むっ! 望みますっ!!」
俺とアビーさんの話に耳を欹てていたレインが食い気味に割り込んで来た。
「じゃあレインに使ってもらおう」
「くぅ! 有り難き幸せ!」
「大袈裟だなぁ、もう。アビーさんには『グングニル』を使ってもらおうと思ってるから、もう少し待ってね」
「っ!? グングニル、でござりゅか!?」
アビーさんが興奮して噛んだ。嚙んだ後に赤くなって照れているのが微笑ましい。
「ふぅ。グレイプニルは当然アロ殿が使われるのでござろう?」
「あれは魔力がかなり必要だからなあ。今の俺で使えるか微妙だけど」
自信なさげに言うと、アビーさんとレインがぶんぶんと首を横に振った。
「アロ、本当に気付いてないのか?」
「何に?」
「アロ殿、落ち着いて聞くでござる。今のアロ殿の魔力量は、シュタイン陛下の時を大きく上回っているでござるよ」
「……え?」
アビーさん、レインの目を見ると、真剣な目で見つめ返された。グノエラとディーネに助けを求めると、二人ともコクコクと頷いている。
「……うそん」
前世の俺を知っている四人が言うならそうなのだろう……だが、どうして魔力量が増えたのだろうか?
魔族と人間の混血である事が理由? そう言えば、ハーフエルフのミエラも魔力量が結構多い気がする。しかし、血が薄まれば魔力量も減るのが道理の気がするが。
それとも、幼い頃から魔力操作の訓練を続けてきたから? いや、それならじいちゃんなんかそれこそ化け物級の魔力量があってもおかしくない。
うーん……分からん! 魔法や魔道具については研究を重ねてそれなりに知識もあると自負しているが、前世でも元から魔力量が多かったせいか、魔力量について深く考察した事がなかった。
ちょっと考え込んで難しい顔をしていたのだろう、両肩をぽん、と叩かれた。
「悩んでも仕方ないのだわ!」
「主さまは悩まなくていいの。そういうものなの!」
グノエラとディーネがにこにこしながらそう言った。
そうだな。魔力量が多いからって困る事は……あるっちゃあるが、事戦いにおいては有利でしかない。因みに困る事とは、魔力の察知能力に長けた敵に気付かれやすい事だ。
まぁそこは……腕輪の能力でももっと強化するか。
「ただいま戻りました」
そんな話をしていると、マクファレン家に使いに行ってくれた侍従のアベルさんが戻って来た。
「ああ、ありがとうございました」
「いえ、とんでもない。それで、コリン・マクファレン様がお見えになりました」
もう来たのかっ!? 暇なのかな?
「アロ君! 来いって言われたから、ボク急いで来たよ!」
リビングに案内されたコリンは、少し顔を上気させてそう言った。
凄いな……俺と身長は変わらないのに、何故か子犬のようなウルウルした瞳で見上げられている気分になる。こいつ、何か変な魔法使ってない? 「魅了」とか。
「ああ、お呼び立てしてごめん。じいちゃんから、コリンを仲間に入れたらって提案されたものだから」
「そう、そうなんだ! アロ君の仲間にしてもらえたら、って思って……もちろん迷惑でなければ、だけど」
うん。性格はこの上なく常識的なんだよな、コリンは。うちではミエラが常識人枠だが、他のメンバー達が自由と言うか破天荒だ。パルの為にも、もう少し常識人が居てくれた方がバランス的に良いと思う。
俺? 俺はもちろん常識人枠だよ?
「迷惑じゃないよ。パル、グノエラ、ディーネ、シル。こちらがさっき話してたコリンだよ」
「は、はじめまして」
「はじめましてなのだわ!」
「「よろしくなの!」」
パルと精霊達がコリンに挨拶して、彼も挨拶を返した。
「ちょっと待つのじゃ!」
「どうしたの、サリウス」
「男と聞いたが、えらく可愛い女の子ではないか! 話が違うのじゃ!」
サリウスさんや。そこは非常に「せんしてぃぶ」な話題なのだよ。もうちょっとこう、「でりけーと」で「ないーぶ」を包み込むように話をしなきゃ。
「あ……ボク、こんな見た目だけど男なんです」
「なんじゃと!?」
当のコリンはサリウスのデリカシーのなさにも平気そうだった。むしろ「えらく可愛い女の子」に見られて嬉しいまである。
「そ、それは失礼したのじゃ。許して欲しいのじゃ」
「いえ、大丈夫ですよ。よろしくお願いします」
こういった如才なさもコリンの長所だろう。
「……アロ君の所、女の人が多いんだね?」
「うん? あー、グノエラとディーネとシルは精霊だから」
三人の精霊を除けば、男は俺とレイン、コリン。女はミエラとアビーさん、そしてパル。ちょうど三人ずつだ。……ピルルは雄か雌か分からない。サリウスは……仲間と言って良いのか、未だに疑問だ。
「精霊!? なるほど……そうなんだね」
何が「なるほど」なのかは良く分からないが、兎に角コリンは納得したようだ。
「それでコリン。早速なんだけど、明日時間ある?」
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