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53 王都の冒険者ギルド

 新たに二人の精霊が仲間になった翌日、ディーネとシルの歓迎も兼ねて、夕食はワイバーンのお肉を盛大に食べようという気分になった。昨日は精霊招集で魔力が枯渇する寸前だったので、それどころではなかったのだ。


 まず、昨日ピルルと共に狩ったワイバーンを解体してもらうため、王都の冒険者ギルドに行く事にした。

 冒険者ギルドは東の商業区の外周部辺り、「東1」門の近くにある。


 王都に着いてからバタバタしていたので、冒険者ギルドに行くのは初めてである。


「ちょっと冒険者ギルドに行って来るね」

「あたしもいきたい!」

「私も行こうかな」

(あるじ)さま! ディーネも!」

「シルも!」


 一人で行くつもりだったが、パル、ミエラ、ディーネ、シルが付いてくると言う。さすがに子供(ディーネとシルは違うのだが)だけと言うのは不味いだろうとの事で、俺達に負けず劣らず幼く見えるアビーさんも一緒に来てくれる事になった。……ちゃんと保護者に見えるかは大いに疑問ではあるが、気持ちは嬉しい。


 王都の冒険者ギルドはベイトンの倍以上の大きさで、重厚な石造りの3階建てだった。木製の両開き扉を押して開くと、ガヤガヤとそれなりに聞こえていた声が一瞬で消え、しんと静まり返る。


 午前中のそれほど早いとは言えない時間でも、そこには結構な数の冒険者が居た。正面には横に長いカウンターがあり、今は8人の職員がその中に立っている。冒険者と職員から向けられる視線は、半分が訝しむもの、半分が好奇を隠さないもので、僅かだが微笑ましく見守るような視線も混じっている。


 まぁ、ここに子供が(アビーさんもいるけど)集団で来る事なんて滅多にないと思うから注目を集めるのも仕方ないよね。


 俺は「買取」と上に看板が掛かった右端のカウンターに向かった。周囲の視線が俺達を追うように一緒に動く。


 パルは俺の服の裾を掴んで俯きながら付いて来る。ガタイの良い大人の男ばっかりだから苦手なんだろう。ディーネとシルはニコニコと笑顔を振り撒きながら歩いている。ミエラとアビーさんは平常運転だ。


「素材の買い取りをお願いしたいんですが」


 そう言って、カウンターにシルバー・ランクのタグを置いた。


「えっ!? あ……かしこまりました。素材は何でしょうか?」

「ワイバーンです」

「え?」

「ワイバーンです」


 買取カウンターの中の女性職員は俺達が冒険者とは思っていなかったに違いない。タグを見て驚いていた。それでも迂闊に情報を声に出さなかったのはさすがプロと言うべきだろう。


「…………本当に?」


 職員さんが俺達を一通り見まわして確認してきた。


「はい。どこに出せばいいでしょうか?」

「えーっと、爪や牙じゃなくて丸ごと?」

「そうです」

「っ!? そ、それなら解体場に回ってもらえますか!? そこの扉から行けますので!」


 職員さんが俺から見て右の方、カウンターの横の扉を指した。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、他の皆が職員さんに向かって一斉にぺこりと礼をした。職員さんは「はわわぁ」と声にならない声を出している。幼いパルとディーネ、シルの可愛さにやられたのだろう。


 扉を抜けると、石の床と大きな木のテーブルがいくつも並んだ広い場所だった。俺達が来たのに気付いた20代半ばくらいの男性が近付いて来る。


「何かご用かな?」

「ワイバーンの買い取りをお願いします」

「……1体丸ごと?」

「あー、えーっと、今日は2体で」

「2体!? 君達が狩ったの!?」

「ま、まあそんな所です……」


 ベイトンのギルドでも最初はこんな感じだったなぁ。ベイトンの解体場主任だったガストンさん、元気かな? そんなに昔の事でもないけどちょっと懐かしく思いつつ、魔法袋からワイバーンを2体取り出す。


「なっ!? ほとんど傷がないじゃないか!」

「あ、それで肉を分けて欲しいんですけど」

「お、おう! どこが欲しいんだい?」

「この辺とこの辺を……2体合わせて100キロくらい」


 柔らかい脇腹部分と、赤身の肩甲骨周りを示す。


「ひゃっ!? どうやって運ぶ……そうか、魔法袋があるんだもんな。分かったよ。その分は査定から引いて良いんだよね?」

「はい」

「じゃあギルドの方で待っててくれる?」

「よろしくお願いします」


 俺が男性に礼をすると、また皆も一斉に礼をした。男性が「ほわぁ」と溜息のような声を出している。この人も幼い3人組パワーにやられたようだ。


 ギルドの方に戻り、入口近くの椅子やテーブルが並んでいる場所に腰を落ち着ける。


「おい。ここはガキの遊び場じゃねぇぞ」


 身長2メートル、二の腕の太さがミエラの腰くらいある男が俺を見下ろしながら言った。


「あ、はい、そうですね。知ってますよ」


 出来るだけ穏やかに返事した。


「ああっ!? 知ってるならさっさと出て行けっ!」

「いや、ここで待つように言われたので」

「なんだと? 口の減らねぇガキだな! 痛い目に遭いてぇのか!」


 周囲の冒険者達はニヤニヤして見てるだけで何も言わない。


「うーん……王都の冒険者って程度が低いのかな?」

「なんだと!?」


 目の前の男を含め、俺の言葉が届いた範囲にいる男達が俄かに気色ばむ。


「こんな小さい子たち……小さい子を怖がらせて、冒険者以前にそれで大人と言えますかね?」


 言い直したのは、ディーネとシルの二人は全く意に介さずそこら辺を走り回って遊んでいたからだ。自由だなぁ。パルだけが俺の後ろに隠れるように怯えていた。


 パルを怖がらせるなんて許せん。俺は立ち上がって男達を睨んだ。


「アロ殿。殺気が漏れているでござるよ」


 アビーさんが俺の前に立って肩に手を置いた。


「ごめん、アビーさん」


 アビーさんは俺に向かってにっこりと笑ってから、最初に因縁を付けて来た男と向かい合った。


「拙者はアビー・カッツェル、ゴールド・ランクでござる。文句があるなら拙者が相手になるでござる」


 アビーさんが名乗りを上げると、あちこちで「アビーって『旋風刃のアビー』じゃねぇか?」「まさか『血塗れアビー』かよ?」などと声がする。そう言えばアビーさんってそういう二つ名があったな。


「けっ! 有名人を騙れば怖気づくとでも思ったかよ?」


 最初の男は、そう言ってアビーさんの肩に手を掛けようとした。次の瞬間、男はその場で宙に浮いて背中から床に叩き付けられた。


 アビーさんが首に掛かった金色のタグを掲げる。


「信じられないならどんどんかかってくるでござるよ?」


 アビーさんもこう見えて割と戦闘狂なところがあるからな。俺を止めたのも、自分がやりたかっただけの可能性すらある。


「何を騒いどるんだっ!」


 ギルドのホールにドスの利いた声が轟いた。


「ギルマス!?」


 職員の誰かが洩らした声のおかげで、その人がここのギルドマスターと判明した。しかしデカい。さっきの男もデカかったが、このギルマスは人間離れしている。身長2.5メートルくらいあるんじゃなかろうか? 縦だけじゃなく横にもデカい。


「お前は……アビーか。それにそっちは、噂の『魔人殺し』か?」


 おいおい、ちょっと待て。知らない間にまた変な二つ名が付きそうだぞ。


「おいお前ら、よく聞け! このガキは普通のガキじゃねぇ。この前出た魔人を一人で倒したっつーバカみてぇに(つえ)ぇガキだ! 死にたくなけりゃちょっかい出すんじゃねえっ!」


 ギルマスが一喝すると、冒険者達は青い顔をしてギルドから出て行く。アビーさんに投げ飛ばされた男は、仲間らしき男達に担ぎ上げられて出て行った。


「まったく……子供に因縁つけるたぁ、ただのゴロツキじゃねーか……」


 ギルマスが大きな溜息と共に吐き出した言葉に、俺も大いに共感した。


「すまなかったな。俺はマイルズ。マイルズ・ゲートウッドだ」


 言葉と共に差し出された右手は冗談みたいにデカかった。俺は両手で握り返して名前を告げた。


「アロ・グランウルフ・アルマーです」

「やっぱりお前がそうか。あの魔人を倒したっていうのは本当の話か?」


 ここで誤魔化しても、叙勲式が終わればどうせバレるだろう。


「あー、まあ……そうですね」

「そうか。付いてこい」


 ……はい?


 ワイバーンを売って肉をもらうという単純な話だった筈が、何故かギルマスに連行される羽目になった。なんでだ。


 スタスタと歩くマイルズさんの後を皆で付いて行く。二人の精霊だけが凄く楽しそうだった。

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