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18 ワンダル砦(北側)②

 ワーデル副団長はすぐに会ってくれた。グノエラに会いたかったからではないと信じたい。


 グノエラが精霊であることをワーデルさんは知っているので、精霊の力で障壁の地下にトンネルを掘ると伝えた。

 「地の大精霊」である事がバレなければ大丈夫だろう。


 俺とアビーさんがトンネルから奇襲を掛け、敵の障壁を作り出している魔法具のうち2つを破壊する。俺の見立てでは、6つのうち2つを壊せば障壁は消える筈だ。


 障壁が消えたら、外壁の上から弓兵と魔法使いによって一斉攻撃してもらう。その際、俺とアビーさんの事は気にしなくて良いと伝えた。


「魔法具の破壊後は自分に『魔法障壁(シールド)』を張りますので」


 ワーデルさんは俺達を心配してくれたが、ミエラとグノエラは俺達の事を信用しているのか、全く心配する様子はなかった。ちょっとくらい心配してくれても良いんだよ?


 まあ実際のところ、俺もアビーさんも「魔法障壁(シールド)」を使えるので問題ない。


 上からの一斉攻撃で魔獣の数を減らしたら騎士団と兵士による殲滅戦を開始する。

 ただし魔族については注意するように伝えた。なるべく俺とアビーさんで対処するつもりだ。

 それと俺達から離れた場所に居る魔族は、ミエラに弓で狙撃してもらう。「身体強化(ブースト)」と「威力増大(インクリース)」の重ね掛けはそんなに使えないだろうが、数発なら撃てる筈。ミエラの腕なら数発でも一人以上の魔族を倒せるだろう。


 懸念点は死霊魔法使いの存在と、魔族が何か隠し玉を持っているかも知れないという事。

 これについてはワーデルさんにも伝えている。イレギュラーが起きたら臨機応変に対応してくれるだろう。


 ワーデルさんが部下に指示を飛ばす。準備が出来たら知らせてくれるとの事で、俺達はその間少し休憩する事にした。





「ねえアロ」

「ん? どうしたの?」


 俺はミエラと二人で砦の南側を少し散歩していた。グノエラの相手はアビーさんに任せてある。


「グノエラさんとは何もなかったの?」

「えっ!?」


 そうか。ミエラは召喚した精霊と召喚主の関係を知らないのか。


「ミエラ、精霊召喚魔法について聞いたことある?」

「ううん」

「召喚に応じた精霊が実体を持つときは、召喚主の魔力を使うんだ」

「ふーん?」

「簡単に言うと、召喚した精霊は召喚主の子供みたいなものなんだよ」


 精霊は非常に純粋な存在である。寿命がなく、どれだけ長くこの世界に存在し続けても、その純粋さが穢れる事は無い。いつまで経っても幼い子供のようなものなのだ。

 召喚主に対しては、幼い子供が親に対して甘えるような感じで接する。召喚主の事を気に入っていれば、その態度はより顕著になる。


「つまりグノエラは娘みたいなもので、彼女は父親に甘えているつもりなんだ」

「そ、そうなんだ」


 ミエラはグノエラに嫉妬していたのだろうか。そこまではっきりと自分の気持ちを認識していなくても、何かモヤモヤしてたのかも知れないな。


「グノエラさんがアロにベタベタする理由は分かったけど、あんまりデレデレしないでよ?」

「え、デレデレしてた?」

「うん。そう見えた」


 あの柔らかい感触に抗える男なんてそうはいないんだよ、ミエラ……。


「き、気を付けるよ」

「ん」


 今まで周りに女の人が居なかったから気付かなかったけど、ミエラって結構やきもち焼きなのかな?


 ミエラの新たな一面を知って内心にやにやしながら、二人で砦に戻った。





 2時間後。ワーデルさんの部下が「準備が整った」と知らせてくれた。俺達4人は内壁と外壁の間に移動する。

 魔法具らしき魔力の集まりは幸いな事に移動していないので、トンネルを作ってもらう道筋は既に決めている。


「グノエラ。準備はいい?」

「問題ないのだわ! 泥船に乗ったつもりでいるといいのだわ!」


 その船じゃダメだろ。


「『掘削(エクスカベイション)』『硬化(キュアリング)』」


 ポンコツな言葉遣いとは裏腹に、グノエラが二つの魔法を唱えると一瞬で地面に穴が開いた。真っ暗で穴の先は全く見えないがグノエラが失敗する訳がない。


「よし、アビーさん行こう! 『光球(フォス)』」


 直径15センチの光球を出して先行させ、アビーさんと共に穴に飛び込む。

 トンネル内部は四角く刳り貫かれているが、二人並べる程の幅はない。高さは180センチないくらいだ。俺が先行してトンネルを走る。アビーさんも光球を出して俺との間に浮かべている。


「アビーさん、右へ!」

「承知でござる!」


 トンネルは途中で二又に分かれた。魔法具は正六角形の頂点にそれぞれ配置されている。俺とアビーさんは別々の頂点を目指し、一気に魔法具を破壊するつもりだ。


 アビーさんと別れて1分もしないうちに突き当たりに到着した。


(この真上に魔法具がある筈)


 トンネルは地上から深さ3メートルで掘ってもらっている。地上の様子が分からないので、ここから魔法で破壊しよう。念の為10メートルくらい後退する。


「『雷撃(ブロンティ)』!」


 薄暗いトンネルに魔法陣が6つ出現し青白い光を放つ。そこから真上に向かって雷撃の柱が6本立った。「雷撃(ブロンティ)」を同時に6つ放ったのは、確実に魔法具を破壊する為だ。


――ドォウウウウン!


 轟音と共に雷撃が土の天井を突き破る。少し遅れて遠くの方から似たような轟音が響いてきた。アビーさんの魔法だろう。


 俄かに地上が騒がしくなる。「魔法障壁(シールド)」を自分の周りに展開し、雷撃で開けた穴から地上に躍り出た。


 穴は直径5メートルほど。穴の縁は土が焦げたようになっている。周囲には魔法具らしき残骸や魔獣の千切れた死骸が飛び散っていた。

 右の方をチラッと見ると離れた場所にアビーさんが出て来た所だった。


「貴様ぁ! 何者だ!」


 魔族の男から誰何される。その問いには答えず「身体強化(ブースト)」「加速(アクセラ)」を掛け、腰のロングソードを抜きながら魔族に一瞬で迫り、通り過ぎ様にその首を刎ねた。


 次の瞬間、矢と魔法が雨のように降って来た。外壁上からの一斉攻撃だ。魔族や魔獣は何が起こったのか分からずに右往左往している。その間、近くに居る敵を出来る限り減らしていく。


 ああ、素材の価値が下がる事を気にしないで良いって楽だな!


 咢の森でお馴染みのサーベルウルフにワーウルフ。マルフ村に住んでた時に森で倒したエクシベア。俺が嫌いなロックリザード。

 今世で見るのは初めてだが、大人と変わらない大きさの蝙蝠型魔獣、グレートバット。グレートバットはやたら多い。そこら中を飛んでいる。

 ワイバーンより二回りくらい小さなレッサーワイバーン。小さいと言っても翼長は10メートル近い。これも数十体は居る。


 俺は舞を踊るように剣を振るう。

 柄は軽く握り、魔獣に当たる瞬間に「身体強化(ブースト)」と「加速(アクセラ)」を掛けて威力と剣速を上げる。

 キンキン、バシュッ、バシュッと「魔法障壁(シールド)」が味方の放つ矢と魔法を弾く音が間断なく鳴っている。


 少し離れた場所で5人の魔族が集まり、この場からの逃走を図っていた。そちらに移動しようとしたら、一人の頭が弾け飛んだ。


 ミエラが矢で狙撃したようだ。


 続けざまに2人が胸に大穴を開けて倒れる。残った2人は別方向に逃げていく。

 さすがはミエラだ。弓の腕も確かだが「威力増大(インクリース)」と「身体強化(ブースト)」を重ね掛けした上で連射までこなすとは。


 ミエラの腕に感心していた時、地中から巨大なものが現れた。


(ペオリオス・コングか)


 たくさんの魔獣をどうやって砦に仕向けたのか疑問に思っていたのだ。恐らくこの巨大猿が理由だろう。首に赤い隷属紋が浮かんでいる。魔族がこいつを使役して、どこかから魔獣達を追い立てて来たのだ。


 ペオリオス・コングは4本腕の巨大な猿型魔獣。体長は20メートル近く、鋼のような黒い毛に全身を覆われている。見た目に反して動きが非常に速い上、見た目通りの膂力を持つ。砦の防壁も拳で砕くだろう。さらに、体長の2倍以上の跳躍力を持ち――


(マズい!)


 ペオリオス・コングは脇目も振らずに外壁に突進し、一気に飛び上がった。


 その先にはミエラとグノエラが居る!

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