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17 ワンダル砦(北側)①

「おおぅ!? もう戻ったのか! それでゴーレムの謎は……いやその前に、その美しい女性はどなたかな?」


 ワンダル砦に戻ると、ワーデル副団長が直々に出迎えてくれた。そしてアビーさんと一緒に馬に乗って来たグノエラに目が釘付けになった。正確に言うと、グノエラの零れそうなお胸から目が離せなくなっていた。


「ワーデル副団長様。こちらは通りすがりの精霊さんです」


 ダメもとで誤魔化してみる。


「精霊様!? なんとお美しい……」

「こちらの精霊さんのおかげでゴーレムの脅威はなくなりました」


 元々こいつのせいでゴーレムがいたんだけどね。


「この精霊がアロ殿の事を気に入って、助けてくれたのでござるよ」

「おお、そうだったのか!」


 これ、何か誤魔化せそうだな。


「それと、魔族を捕縛して来たでござる」


 馬には負担を掛けて申し訳なかったが、二頭の馬に一人ずつ、魔族を荷物のように乗せて来た。アビーさんがそれらの魔族をぽいっと地面に放り投げる。


「煮るなり焼くなり好きにすればいいでござる」

「よくやってくれた!」


 ワーデルさんが他の兵や騎士に向けて「南が解放されたぞ!」と告げると、「うおー!」と歓声が上がる。

 孤立無援から一転して補給と援軍が期待出来るのだ。士気も上がるだろう。


 ところで、アビーさんは俺に「カイザーと呼んで欲しいでござる」と言ったが、俺は丁重にお断りしてこれまで通り「アビーさん」と呼ぶことにした。だって可愛らしいアビーさんと巨漢の武人であるカイザーを同一視するのを俺の脳が拒否するんだもの。

 「せめて呼び捨てで」と言われたが、年下で冒険者ランクも下の俺がアビーさんを呼び捨てしたら絶対に周りが変に思う。という事で「さん」付けを納得してもらった。


 俺のことも今まで通り「アロ殿」と呼ぶように釘を刺した。人前で「陛下」なんて呼ばれたら非常に不味い。この国で「陛下」と言えばリューエル国王陛下しかいないからね。


「さ、精霊様。お疲れでしょう。私が中にご案内します」


 ワーデルさんがグノエラの手を取ろうとしたが、彼女はスッと手を引いた。


「私に触っていいのはまお……アロ様だけなのだわ!」


 こいつ、また「魔王」って言い掛けたな……。しかも色々と誤解を招く言い方をしやがって。ほら、ワーデルさんが凄い目で俺を睨んでるじゃないか。


「グノエラさん。ワーデル副団長様がせっかく案内して下さるのだから――」

「『さん』付けはダメなのだわ!? よそよそしいのだわ!」


 おい、火に油を注ぐな。ワーデルさんのこめかみに青筋が浮かんでるから。


 ミエラに目で助けを求めるが、すぅっと目を逸らされた。


「まぁまぁ。拙者達も一休みさせてもらいたいでござる。少し休んだら北を片付けるでござるよ」


 アビーさんの言葉でワーデルさんも我に返り、俺達は砦の中で少し休ませてもらう事になった。





 砦の中にある、空いている兵士の部屋を貸してもらえたので、そこで休憩した。簡素な寝台と椅子が2つあるだけの部屋だ。

 寝台に腰掛けた俺の左腕にグノエラが絡みつき、その豊かな膨らみを押し付けてくる。グノエラに対抗心を燃やしたのか、右腕にはミエラが抱き着いている。膨らみかけの柔らかさもまた良い。

 ああ、両腕が幸せです。

 アビーさんは椅子に座って俺達のことを生温い目で見ていた。


 正直、俺とミエラは馬で移動しただけなので身体的な疲れは殆どない。


「細かい事はベイトンの街に帰ってから話し合うとして……取り敢えず最低限の事だけ決めておこう」


 よく考えたら、俺が元魔王で転生者だとか、アビーさんの前世が実は男でしたとか、バレてもどうでもいい事だ。他人が聞いても「ふ~ん」で終わる可能性が高い。本気にする人なんてまず居ないだろう。


 ただグノエラは別だ。グノエラが地の大精霊グノームである事は知られない方が良い。


 なんせ精霊というのは自由奔放で馬鹿が付くほど純粋だ。召喚主の俺の事は気に入っているようだから、俺の言う事はちゃんと聞いてくれる。

 ただ、純粋って事は騙されやすいって事でもある。現に魔族に良い様に使われていたし。

 大精霊グノームの力は信じられないくらい強大だ。だからそれを利用したいと思う輩はどこにでも居ると思っておくべきである。


「グノエラは、自分が地の大精霊だってことバレないようにね」

「そんなの簡単なのだわ!」


 ……どこからその自信湧いてくるんだよ。こっちは不安しかないよ。


「アロ殿。そうは言っても、北側の障壁をどうにかするにはグノエラ殿の力が必要ではござらんか?」

「私の超巨大ゴーレムで障壁なんて一撃なのだわ」

「ああ、もちろんそうだろうとも。だけど、今回はゴーレムは使わないかな」

「何でなのだわ!?」


 グノエラがぐいぐいと胸を押し付けてくる。全くけしからん。気配を感じたミエラが「むっ」と言いながら自分の方に俺を引っ張る。


 両腕から無理矢理意識を剥がし、グノエラの方に顔を向けて出来るだけ真面目な表情にする。


「グノエラ、1500年以上も待たせてごめんね」

「べ、別に待ってなんかいないのだわ」

「ずっと待っててくれてありがとう」

「ど、どういたしましてなのだわ」


 グノエラは頬を少し赤らめて俯いた。

 精霊には寿命がない。しかし長い時を待つのは寂しかった筈だ。色んな苦労もあったと思う。だからちゃんと感謝を伝えたい。


「この程度の敵でグノエラに力を使わせるつもりはない。昔もそうだっただろ?」

「確かに。拙者も思い出したでござる。グノエラ殿はここ一番って時に力を振るっていたでござるな!」

「そうだったのだわ!」


 納得してもらえて何よりだ。


「グノエラには、ミエラの守りをお願いしたい」

「え、私?」


 ミエラには防壁の上から弓による狙撃を行ってもらう。敵がどのような攻撃手段を持っているか分からないし、俺がずっとミエラの傍に居る訳にもいかない。


「グノエラが守ってくれれば安心だから」

「任せるのだわ!」


 これで俺とアビーさんは地上で思い切り遊撃出来る。

 まずは障壁を解除する為に、敵軍の中に侵入しなくてはならない。


「グノエラ、悪いんだけど敵軍の下にトンネル掘ってもらえない?」

「……やっぱりまお……アロ様は私がいないとダメなのだわ!」


 ごめんね、休んでてとか言っておきながら。でもこの方法が一番効率的なんだよ。


 俺達は作戦を考えるために防壁の上へ行く事にした。





 外壁の上に登り下方を見渡す。想像していたより魔獣の密度が低い。


「突発的に障壁から出てこちらに向かって来る魔獣がいるのでござるな。手前の方に骸が積み上がっているでござるよ」


 アビーさんが槍の石突で壁の真下を指す。少し身を乗り出して確認すると、確かに結構な数の魔獣の死骸があった。騎士団の皆さんがちゃんと仕事をしている証拠である。


「しかし、死骸を放っておくのは不味いな」

「どうして?」

「敵に死霊魔法を使える奴が居たら全部アンデッドになるのだわ」


 ミエラの問いにはグノエラが答えてくれた。


 魔獣がアンデッドになると数段厄介になる。敵味方の区別なく襲って来るし、死の恐怖がないから逃げ出す事もない。また痛覚がないので頭を切り離すか魔晶石を破壊しないと活動を止めない。


 冒険者は魔物や魔獣の死骸を持ち帰れない時、必ず燃やす。これはアンデッドになるのを防ぐ為だ。稀に自然発生的にアンデッドに転じる場合があるから、死骸を燃やすのは冒険者にとっては最低限のマナーでもある。


「騎士ももちろん分かっている筈だけど、そこまで手が回らないみたいだね」


 散発的に障壁から出て来る魔獣には空を飛べる奴がいる。外壁上に居る魔法使いはそちらの対応に追われているようだ。


「壁の近くで死骸を燃やすのも嫌だろうしなぁ」


 煙や臭いの問題があるし、炎が上がっていたら出撃の邪魔になる。まぁ、燃えてなくても既に邪魔ではあるのだが。


 居るか居ないか分からない死霊魔法使いとアンデッドについて考えるのは後回しにしよう。今は騎士団の攻撃を阻んでいる障壁をどうにかするのが先だ。


 敵が使っている障壁については大いに心当たりがあった。縦・横300メートルに渡って物理攻撃と魔法攻撃の双方に対応するドーム状の障壁。しかも内側からの攻撃は通る。

 これは前世で邪神の眷属が使っていた「絶対防御(アポリトス・アミナ)」を再現しようと俺が試作した魔法具を誰かが改良したものだろう。巧妙に隠しているが、6か所、不自然に魔力が集まっている場所がある。


 この程度の障壁なら俺の魔法で吹き飛ばす事も可能だが、それをやると目立ち過ぎる。ここは少しグノエラの力を借りて、地道に障壁の魔法具を破壊しよう。


「よし。障壁を壊した後の事をワーデル副団長達と相談しよう」

「そうでござるな!」

「分かったわ!」

「だわ!」


 外壁の上から降りて、近くに居た兵士にワーデル副団長と面会したい旨を伝えた。

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