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16 グノエラとアビーさん

「おーい、グノエラー! いるなら出ておいで!」


 ここに陣取っているゴーレムは魔物や魔獣とは違い、召喚されたもので間違いない。なぜなら(コア)がなく、それでいて再生するからだ。

 そして、召喚されたゴーレムには召喚した者のイメージが色濃く反映される。


 再度前方100メートルの位置に立ちはだかるゴーレムを観察する。


 つるんとした表面、ちょっと大きめの頭部、ずんぐりした手足。そして、ゴーレムに全く必要のない要素……顔がちょっと可愛いのだ。目もピンクだし。


 こんなゴーレムを召喚するのは――。


「なんで私がいるって分かったのだわ?」


 右手の岩陰から、この場にそぐわない、露出の多いドレスを纏った女性が現れた。


「やあグノエラ。久しぶりだね」


 腰近くまで伸ばした茶色の髪、明るい茶色の瞳は自分の名を呼んだ俺を訝しげに捉えている。


「なぜ私の名前を……その魔力の質……まさか……いえ、間違いないのだわ!」


 そう言って、茶髪の女性はこちらに走って来る。どことは言わないがボインボインと揺れて眼福……いや、目に毒だ。


 俺は馬から降り、ミエラが降りるのに手を貸す。振り返ると女性はすぐ傍まで迫っており、その目には涙が溜まっていた。


「ま“、ま”お“う”ざま“ぁ~!!」

「ぐおっ!?」


 グノエラが飛びついて来た。瞬間的に「身体強化(ブースト)」を発動して受け止める。


「ちょ、ちょっと!?」


 ミエラが俺から引き剝がそうとグノエラを引っ張るがびくともしない。俺は11歳としては低めの身長155センチくらい。グノエラは見た目20歳くらいで身長175センチのグラマラスボディ。顔の下半分以上が豊満な胸に埋まる。


「ぐぇ……い、息が……」

「魔王さまー! 私、ずっと待ってたのだわ!」

「ちょ、離しなさいよっ! アロが窒息しちゃう!」

「ハッ!?」


 グノエラがやっと離してくれた。ミエラが俺とグノエラの間に体を差し込む。


「あなた誰よ!?」

「あなたこそ、誰なのだわ!?」

「二人とも落ち着いて」


 グノエラは目の縁と鼻の頭が真っ赤になって、頬に涙の跡が残っていた。それでも、少し垂れ目がちの目はクリクリしていて、綺麗な顔は昔のままだ。


「ミエラ、彼女はグノエラ。グノエラ、この子はミエラだよ」

「魔王さまの新しい女なのだわ!?」

「お、女!? だから、魔王って誰よ!?」


 ふぅ、と息を吐き出し、俺は意を決してミエラに告げる。


「ミエラ、信じられないと思うけど、俺の前世は1500年前の魔王なんだ」

「へっ?」

「魔王さま、ちょっと縮んだのだわ?」

「縮んでねーよ! むしろ今成長してる最中だわっ!」


 真面目な話をしようとしてたのに、グノエラのせいで台無しである。


「あー、ミエラごめん。それで、彼女は俺が……えーっと、前世で召喚した『地の精霊』なんだよ」


 本当の名前は「地の大精霊・グノーム」。しかし、本人(?)が「可愛くない」と気に入らず、名前を付けるようにせがまれて付けた名が「グノエラ」であった。


 未だこちらを睨んでいるゴーレム達がちょっと可愛いのは、グノエラの趣味である。


 俺は理解出来ずに固まっているミエラに説明した。

 前世では魔法の研究に没頭し過ぎてうっかり1000年くらい引き篭もっていた事。

 久しぶりに外界に出たら戦乱の世になっていた事。

 出会った人々の為に出来る事をしていたら、いつの間にか大陸の半分の争いを平定していた事。

 俺が魔族だったから、魔族の王で「魔王」に担ぎ上げられた事。


「それで、統一して出来た新しい国を『アウグストス帝国』と定め、家臣にも恵まれてしばらくは平穏だったんだ」


 1000年ぶりに外界に出た時に出会ったエルフ族の女性、アリーシャ。俺の最初の仲間で、後に最も信頼できる家臣となり、俺がずっと愛し続けた女性。


「でもある時、突然『邪神』が現れた」


 邪神イゴールナクは12体の眷属と無限とも思える数の魔獣を従え、大陸を蹂躙し始めた。俺は邪神に対抗する為に精霊を召喚し、強力な武器を作って6人の家臣と共に邪神に挑んだ。


「邪神との戦いは50年近くに及んだ。最終的にアリーシャを失い、俺の力が及ばず邪神を倒し切る事が出来なかった。それで、仕方なく封印したんだ」


 親友であり最愛の人であったアリーシャを失い、俺はいつか来る邪神との再戦に向けて新たな魔法をいくつか開発した。その中の一つが前世の記憶や能力を維持しながら、何年後に生まれるかを指定して転生する「復元転生(エンデュラ)」だった。


 邪神の封印はあと5年から10年で解ける。その時、今度こそ邪神を完全に滅ぼすつもりだ。


 俺が話をしている間、ミエラは口を挟まずに黙って聞いていた。グノエラさえ一言も喋らない。俺が一通り話し終わると、ミエラはようやく口を開いた。


「アロは…………私が知ってるアロなんだよね?」

「もちろん。俺は生まれた時からアロだよ。ミエラと出会った時から、これからもずっと、ミエラが知ってるアロだよ」

「ならいい」


 ミエラは俺の服の裾をずっと摘まんでいる。突拍子もない話を聞かされて不安だったのだろう。


「今の話を聞いて色々と腑に落ちたわ。アロが馬鹿みたいに強い理由も分かった」

「ミエラ、もう一つ言っておきたい事がある。俺の母様の話はしただろ?」

「うん」

「父親は、恐らく今の魔王。つまり俺は混血なんだ」

「それなら知ってたわよ?」

「えっ!?」

「だってアロ、その腕輪をお風呂でも外さないじゃない。変だと思ったからおじいちゃんに聞いたの。もうずっと前の話よ」


 あのじじい。俺に黙ってミエラに教えていたとは。


「俺の事、嫌だと思わなかった?」

「え、なんで? 私だってハーフエルフよ? 同じ混血だから、むしろちょっと嬉しかったわ」

「そっか……」

「あの、魔王さま? いい感じの所申し訳ないのだわ。向こうから何やら元気な少女が走ってくるのだわ」


 そうだ。アビーさんの事すっかり忘れてた。


「グノエラ、俺の事を『魔王』って呼ぶの禁止」

「え“っ!? なのだわ!?」

「普通に『アロ』って呼んで」

「呼び捨てなんて無理に決まってるのだわ」


 何でそんな事で自信満々なんだよ。


「仕方ないからアロ様って呼ぶのだわ」

「様も要らないけど……まぁ取り敢えずそれでお願い」

「任せて欲しいのだわ!」


 ……不安である。


「アロ殿―! ミエラ殿―!」


 アビーさんは声を上げながら走って来るが……後ろに土埃がかなりの勢いで上がってるな。見る見るうちにこちらに迫っている。

 そしてよく見ると、槍は背中に担ぎ、両腕で小脇に何かを抱えている……人? いや魔族だ。あの人、魔族を二人抱えながら物凄い速さで走っているね。


 ミエラがドン引きしている。分かる、俺もドン引きだもの。


「何か情報が得られるかと思い、生け捕りにしたでござる……って、あなたはグノーム殿では!?」

「その名前は好きじゃないのだわ」

「これは失礼、グノエラ殿。久しいでござるな」


 え? え? 二人は知り合い?


「という事は……やはり、アロ殿は拙者の見立て通り『シュタイン陛下』でござったな! 陛下、ようやくお会いできました。拙者、150年ほどお待ちしていたのでござる」


 アビーさんは地面にぽいっと魔族を投げ捨て、片膝を突いて俺の前で俯いてしまった。


「ちょ、ちょっとアビーさん!?」

「う“ぅ……拙者、もう陛下とは会えないのかと……」


 乾いた地面にアビーさんの涙が落ちてシミを作った。とうとうアビーさんは地面に突っ伏して泣き出してしまう。

 ちょっと待って! 俺が凄く悪者に見える。ミエラの視線が俺に刺さってるし。


「魔王さま、ここは『大儀であった』って労う所だわ」


 こいつ、早速「魔王」って呼んでるじゃん。


「いや、そう言われても、アビーさんに『陛下』呼びされる謂れがないんだけど?」


 そう言うと、アビーさんがガバッと顔を上げた。涙と鼻水でせっかくの美少女が酷い事になっている。


「陛下、拙者をお忘れですか!? 陛下の忠実な家臣の一人、カイザー・ブレインでござるよ!?」


 …………は? カイザー? あの「槍王」の?

 カイザーと言えば、身長2.2メートル、横にも大きな巨漢の魔族で槍を使わせたら右に出る者がいなかった。邪神との戦いでも、数多の敵を屠った頼りになる武人だったのだ。言うまでもなく男性である。


「いや、違い過ぎるだろっ! 華奢な女の子になってるし、しかも前は『拙者』とか『ござる』なんて言ってなかったよねっ!?」

「いやいや魔王さま。魔力の質を見れば一目瞭然なのだわ」


 くっ!? 俺か、俺が悪いのか!? 地の大精霊と同じように個人の魔力の質を見抜けない俺のせいなのか!


「いえ、拙者が無理を申した。確かに、こんな見た目では拙者と気付かなくても当然でござるよ」

「いや、可愛くて良いと思うよ?」

「ほ、本当でござるか、陛下!」

「ねぇミエラ?」

「え? 私?」


 ミエラに同意を求めるが、アビーさんが可愛いと思うのは本心だ。出来れば前世がカイザーだって事はずっと知らないでいたかった。


 アビーさんが俺にしつこく模擬戦を申し込んでいた理由は、魔力量から俺が転生した魔王ではないかと思ったかららしい。手合わせしたら確信が持てると考えていたようだ。

 あと、拙者・ござるの喋り方は幼い頃に一緒に過ごした人間の影響で、癖になってしまったそうだ。


 ついでにグノエラが魔族の手助けをしていた理由だが、「魔王の所に連れて行ってやる」と言われたからだって。もちろんグノエラは魔王=シュタインだと思っていたようだが。

 精霊には人間や魔族の「善悪」という概念がないから、自分の望みが叶えられると思って手伝っていたらしい。

 奴らの言う「魔王」は現魔王(クソ親父)の事だろうが、結果的に俺と出会えたのでグノエラの望みは叶ったと言える。


 前世で共に戦ってくれた仲間が二人。とても心強い筈なのに、何故だかとても面倒臭い気がしてならない。

 これはアレだな。純粋過ぎるグノエラと、ギャップしかないアビーさんの事がいっぺんに降りかかったからだろう。


 うん、大丈夫。面倒なんて事はない。気のせい、気のせい。


 グノエラが召喚を解除したので全てのゴーレムが消えた。これでワンダル砦南側の問題は片付いたので、俺達は砦に戻る事にした。

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