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102 ついうっかり

 翌日。ホッジス王国行きの準備の一環で武器の習熟度を見る為に、ミエラとアビーさん、レインの三人と共に「荒野」に転移して来た。この後、パルとピルル、じいちゃんを除く皆を屋敷に迎えに行き、武器の性能を封印して咢の森で連携の確認を行う予定である。


 ミエラはここに来た事があるが、アビーさんとレインは初めてだ。


「え? ここ何もねぇけど?」

「ん? こういう場所じゃないと思い切りやれないでしょ?」

「やるって、何をでござる?」

「そりゃ勿論、武器の全力攻撃」

「「え?」」


 アビーさんとレインが首を傾げている。


「ちょっと待ってくれ、アロ。レーヴァテインは確かにすげぇ剣だが、それはあくまでも近接戦の話で」

「グングニルも素晴らしい槍でござるが、相手が居ない所で振っても」

「え?」


 今度は俺が首を傾げた。何だか話が食い違ってる……俺達、同じ武器の話をしてるよね?


「レーヴァテインもグングニルも遠距離攻撃出来るけど?」

「「え?」」


 あれ? 俺、言ってなかったっけ? そう言えば、魔素を集めて出来上がったディスク(円盤)も渡してなかったような……。


「アロ……私も初めて聞いた」


 おぅ。ミエラも知らないって事は言ってなかったみたいだ。


「あの、二人とも、武器を見せて頂いてもよろしいですか」

「何だよ急にそんな喋り方。気持ち(わり)ぃ」


 そう言いながら、レインがレーヴァテインを、アビーさんがグングニルを見せてくれた。うん、いつ見ても良い武器だよね……って違うわ!! やっぱり所定の位置にディスク(円盤)は嵌ってない。これじゃ普通よりちょっと良い剣と槍だよ……。


「二人とも、申し訳ございません」

「「おおぅ!?」」


 腰を深く折り、二人に向かって頭を下げた。


 いや、おかしいとは思ってたんだよね。龍神の試練から戻ってきた時、アビーさん達はあの強化魔人? 黒い奴に囲まれて苦戦してるっぽかった。俺が戦ってみたところ、それ程強い敵とは思わなかったし、武器を使いこなしていれば問題なかった筈だと思っていた。


 それが実は、俺がちゃんと使い方を教えてなくて、ディスク(円盤)も渡してなかった事が原因だった。おれのうっかりミスで皆を危険な目に遭わせてしまったのだ。


「本当に申し訳ございませんでした」

「な、何か良く分かんねぇけど、別に構わねぇぞ!」

「右に同じでござる!」


 二人はあまり気にしてないようで良かった。いや、事情を説明してないから当然か。


「よし、二人には、その武器の真の力を教えよう」

「「真の力?」」

「レイン、ちょっとレーヴァテイン貸して……ありがと。ここにこいつをセットして、と。じゃあ行くよ?」


 近くに誰も居ない事を確認して、レーヴァテインを海の方に向かって軽く振る。


――ズゴォォオオオー!!


 底が見えないくらい深く岩場が抉れ、海面に大きな波柱が百メートル先まで走った。


「「「ふぇ?」」」


 レインは勿論、アビーさんとミエラからも変な声が出た……。それも仕方ないだろう。ミストルテインに勝るとも劣らない威力だから。


「えーと、魔力を衝撃波にして飛ばしました」

「「「ええぇ!?」」」


 うん。まさか「剣」で遠距離攻撃まで出来るとは思わないよね。


「レイン、威力の調節が出来るようになれば近接でも衝撃波を出せるし、遠距離は見ての通りだよ」

「まままマジか」


 レーヴァテインは通常の魔力の他、神聖力、精霊力を切り替える事が出来るが、勿論それぞれ衝撃波を飛ばせる。ただ、相当な威力だから仲間の安全には十分気を付けて欲しい。


「じゃあアビーさん、グングニル貸してくれますか?」

「あ、はい」


 アビーさんが「ござる」を忘れちゃったよ。穂の根元にディスク(円盤)をセットしてっと。


「じゃあ行きますよ、ほい!」


 同じく周囲を確認してから、海に向かってグングニルを突き出す。


――ちゅどぉぉおおおーーーん!!


 一瞬も間を置かず、百メートル程離れた海面に隕石でも落ちたかというくらいの波柱が立った……さっきといい今といい、この辺を泳いでいた魚達には災難だろう。……ごめん。


「えーと、雷を放ちました」

「「「ええぇ!?」」」


 反応がさっきと同じじゃん。


「アビーさん、グングニルの場合は近接ではあまり威力が出ません。いや、アビーさんが槍として使う分には十分強いと思いますけど……今みたいに、遠距離の敵に一瞬で雷属性の攻撃を放てます」

「まままマジでござるか」


 あ、「ござる」戻って来た。


 それからレインとアビーさんは、新しいオモチャを手に入れた幼子のように、目をキラキラとさせながら海に向かって極大攻撃を放っていた。……この辺りの海の生き物達、ほんとごめんよ。

 あの様子を見ると、龍神の試練を受ける前にこの使い方を教えなくて正解だったかも知れないなぁ。調子に乗ってディスク(円盤)の魔力を使い果たしそうだもの。


 一時間もすると、さすがはこの二人だ。遠距離攻撃もかなり使いこなすようになった。この攻撃方法は、言ってみれば隠し玉みたいなものである。思ってもみない攻撃を繰り出して、あわよくば当たったらいいなーくらいに考えている。これでアドラメレクを倒せるとは思わないが、あれだけの攻撃を喰らえば少なくとも隙くらいは出来るだろう。その僅かな隙が勝機に繋がるのだ。


 ミエラには、ミストルテインの更に進化した使い方を教えた。放った矢の軌道を途中で変える技だ。敵をずっと追跡する事は出来ないが、避けたと思った矢が曲がって当たれば? これも隙を作るのに十分役立つ。


 どれも、相手がアドラメレクでなければ一撃必殺……というか過剰な攻撃力だ。前世でイゴールナクとその眷属達と戦った時より戦力はかなり上がっている。それでも全く安心は出来ない。相手はクトゥルス様と眷属龍達が倒しきれなかった化け物なのだから。





 咢の森にもこんな場所があったんだなぁ。


 屋敷に戻る前に、ミエラ・アビーさん・レインの三人で先に咢の森にやって来た。ミエラ達はこの森のかなり奥まで進み、多頭蛇(ヒュドラ)まで倒したと言う。その辺は激闘の跡が残り、だいぶ開けた場所になっていた。


 ああ、こんな場所「があった」んじゃなくて、こんな場所「になった」んだね。


 ここより奥には行った事がないと三人から聞いた。せっかくなので、ここをスタート地点にして更に先に行ってみようと思う。ここより手前だとあまり強い魔獣が出ないから訓練にならないだろう。


「じゃ、一旦屋敷に戻って皆を連れて来ようかな。三人はどうする?」

「ここで待ってるわ」

「その辺の魔獣と遊んで待ってるぜ」

「もう少しグングニルの感触を確かめたいでござるよ」


 と言う事で、俺だけ屋敷に転移。今回はコリン、サリウス、グノエラ、ディーネ、シル、そしてヤミちゃんを連れて行く。

 じいちゃんにパルとピルルを任せ、万が一の時には以前作った「セーフルーム」に退避するよう念を押した。障壁の魔法具でガチガチに固めたあの部屋だ。そしてもし敵の襲来があった場合、ピルルとパスが繋がっている俺には危機が分かる、とペリリオーレから聞いたので、より安心して出掛ける事が出来る。


「アロ君、ここは……?」

「あー、前にヒュドラと戦ったんだろ? その場所だよ」

「前はここに来るだけで物凄く疲れたのじゃ」

「訓練の前に疲れたんじゃ意味ないからね」


 コリンとサリウスはヒュドラ戦の時に一緒に戦ったので、森の辛い行軍を思い出したようだ。二人はバリバリの後衛だからね……ミエラも後衛だけど、彼女は幼い頃から俺と一緒に森を駆け回ってたからなぁ。後衛には森を歩くだけで結構負担になると思う。


「ミエラさん達、走るんだもん……」


 森の中を走ってこの二人を連れ回したのか……そりゃあ疲れるだろう。アビーさんとレインの二人は戦闘狂(バトルジャンキー)気味だからなぁ……。


「アロ様! この森は結構いい感じなのだわ!」

「精霊がいっぱい居るの!」

「居るの!」


 そうかそうか、それは良かったね。精霊達は咢の森を気に入ったらしい。


「ここは……ヤミも来た事があるのです。美味しい魔獣が結構居るのですよ」

「そ、そうなんだ……ハッ!? もしかして、試練の間の食材って、ヤミちゃんが獲って来てくれてたの?」

「クトゥルス様が数日おきに地上に送り出してくれて、獲ってたのです!」

「そうだったのかぁ。ありがとうね、ヤミちゃん」


 スイリュウさんがサラっと出していた魔獣もヤミちゃんが捕獲してたのかもなぁ。いや、そうに違いない。


「ところであいつらどこ行った?」


 皆を連れて来るほんの短い間目を離しただけなのに、ミエラ達三人の姿がない。


――ズゴーーーン!!

――ちゅどーーーん!!

――ドゴォオーーーン!!


 東の方で轟音が上がった。


「コリン! 皆を集めて障壁を!」

「分かった!」


 「飛翔(フライ)」で木々の上まで飛び、音がした方を見ると土煙が上がっている。二百メートル程の距離を、全速力で飛んだ。

 その地点に到着し邪魔な土煙を風魔法で散らすと、何やら粉々になった肉片と三人の姿が見えた。ミエラ達の無事にほっとしながら地上に降りる。


「えーっと、何してんの?」

「いや、地竜がいたんだよ! ちょっかい掛けたら襲って来やがったから返り討ちにしてやったぜ!」


 この肉片は地竜か……。地竜とは、全長三十メートルを超える巨大な蜥蜴だ。蜥蜴と言っても鋼鉄並みの鱗で覆われ、大木のような尾を振り回し、前足に生えたロングソードくらいある爪で襲って来る。冒険者の間では間違いなく「災害級」、軍隊で討伐するのが常の強敵である。


 それがこの有り様……。こいつら、遠隔攻撃を動く標的で試したかったんだな? こんなバラバラになっちゃ素材としての価値もありゃしないよ。過剰殺戮(オーバーキル)も甚だしい。


「三人とも、集合!」


 ちょっと加減というものを教えなければ。そう思ったのだが、俺の前に並んだ三人はキラキラとした瞳で俺を見つめている……これはアレだ。褒めて欲しい子犬と同じだ。そんな瞳で見られたら怒れないよ……。


「あー、たった三人で地竜を倒したんだね、よくやった」


 三人は少し照れたような、でも誇らしいような笑顔になった。まぁ、加減を教えるのは後でいいか。俺は人を褒めて伸ばすタイプだ。自分が褒められて伸びるタイプだから。

 しかし、この辺まで来れば地竜が居るんだね。連携を見るには良い相手かも知れない。勿論油断大敵だけど。


 この後皆と合流し、アビーさんとレインには遠距離攻撃禁止を言い渡して、俺とヤミちゃんを除いた全員で地竜を倒してもらった。戦い方を少しずつ修正し、三体目を倒す頃には余裕が出来ていたよね。


 全く、本当に頼もしい仲間達だ。

危ない……ついうっかり更新を忘れるところだった……汗

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