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100 アドラメレク

100日連続投稿、達成しましたー!

 屋敷に戻った後、王城から使者が来てニコラスさんからの手紙を受け取った。内容を簡単に要約すると、「王城爆破未遂犯についての捜査は一旦中止する」という事だった。まぁ内乱が起こるって話だし、しばらくそれどころではないだろう。


 さて、取り敢えず急ぎの用が無くなったから、残り二か所の宮殿(パレス)にでも行くか……。実は、あと二つの宮殿(パレス)に置いてある物は、今の面子にはそれほど有用じゃないんだよね。どうしても取りに行かないといけない訳ではない。それなら皆と模擬戦でもするか? いや、少しの間ゆっくり体を休めるっていうのもアリだな……。


 こういう時は皆と相談しよう、そうしよう!


「という事で、何かやりやい事がある人?」

「何が『という事』なのか分からねぇけど、アロに戦闘を見てもらいてぇな」


 ほうほう。レインは真っ先に模擬戦を言い出すかと思ったけど、客観的な意見が欲しいんだね。


「拙者もそうでござるな……連携も見ていただきたいでござる」


 ふむふむ。言われてみれば、皆と二年間離れてたからなぁ。戦い方も変わってるかも知れないもんね。


(わらわ)は……アロ君と二人きりで過ごしたいのじゃ……」


 サリウスは……ま、まあ意見としては聞いておこう。


「パルは海! 海を見に行きたい!」


 うんうん。パルは海が見たいのかー。


「私は……アロとお買い物に行きたいかなー」


 ミエラは買い物っと。


「ボクはご飯食べに行きたい!」


 コリンは食事……一応意見としてね。


「あ、そう言えば、城である人物について聞いたんだけどさ。どこかで会ったような気がするんだけど思い出せなくて……。黒い髪で、目が細くて、十四~十五の見た目、名前がアドラって言うんだけど。誰か覚えてない?」


 軽い感じで尋ねたのだが、レインが腕組みをして考え始め、ヤミちゃんが何かソワソワし始めた。精霊三人の様子もおかしい。俺とパルを交互に見て、何かを言いたそうな顔をしている。


「あれ……どうしたの、みんな?」

「アロ、ちょっと黙っててくれ……ここまで出掛かってる」

「すみません」


 自分の喉を示すレインに怒られた。


「ヤミちゃん?」

「……後で話すのです」


 いつも元気一杯のヤミちゃんなのに歯切れが悪い。


「グノエラ? ディーネ? シル?」

「えっと、後で話すのだわ」

「「後なの」」


 何なの君達まで。


「アロ、思い出したぜ! いやしかし、そんな筈は……」

「何だよレインまで。後で話すのはナシにしてよ?」

「俺が知ってる『アドラ』、黒髪で目が細いあいつは、お(めぇ)も会ってるよ、ブルンザの街で」

「ブルンザの街……?」

「あっ! レイン……いや、レイラと初めて会った場所でござるか?」

「そうだよ、忘れもしねぇ。あいつ、俺達を騙して、人間族と争わせようとしてたじゃねぇか」

「あっ」


 思い出した。それは前世で、俺とアリーシャ、カイザーが獣人族の領域、ブルンザの街を訪れた時の事だ。


 人の良さそうな笑みを浮かべ、シュタイン・アウグストスに「精神操作(マインドコントロール)」の魔法を使おうとした、あの少年。艶やかな黒髪が顔の周りを縁取り、目は開いているのか分からないくらい細かった。彼は獣人族と人間族の双方に「精神操作(マインドコントロール)」を掛け、お互いが争うように仕向けていた。


 彼の名は「アドラ」だった。確かレイラから聞いた筈だ。


「……しかし、あれはもう千六百年くらい前の事だよね?」

「そうだな。だから同一人物とは思っちゃいねぇ。ただ、特徴と名前を聞いて思い出したのが奴だったって事だ」


 偶然の一致にしては出来過ぎてるよなぁ。せめて顔を見たら――。


「ねぇレイン。顔を見たら分かるかな?」

「ああ、今でもはっきり覚えてるぜ」


 そうか。俺も何となく顔を覚えてるから、見れば同じ人物か分かると思う。いや、もし同じなら「人」ではなさそうだな。ホッジス王国の国王達を操り、リューエル王国に悪意を向けたのが事実なら、いずれにせよ放ってはおけない。それなら、ホッジスに居るのがはっきりしている今、顔だけでも見に行くか。


 と思ったら、クイクイと袖が引っ張られた。


「ん? どうしたヤミちゃん?」

「アロ、二人で話がしたいのです」

「分かった。皆、ちょっとヤミちゃんと話してくるよ」


 二階の私室でヤミちゃんと二人きりになった。


「ヤミちゃん、どうしたの?」

「さっきアロが言ってたアドラという男……クトゥルス様とヤミ達がずっと探している『アドラメレク』かも知れないのです」

「アドラメレク?」


 ヤミちゃんがこくこくと頷く。


「ヤミは……勝手に話して良いか分からないのですよ。だから、一緒に龍神様の神殿に行きたいのです」

「それは別に良いけど……今から行ったら遅くなりそうだから、明日の朝でも良いかい?」

「……今からでも行きたいのです」


 ヤミちゃんから必死さが伝わる。そうか、ずっと探してた人物なら、直ぐにでもクトゥルス様に報告したいよな。


「分かった。皆に一言断ってから、今から行こう」

「はいなのです!」


 リビングに下りて、今から龍神の神殿に行ってくると皆に伝える。何人か一緒に行きたそうだったが、ヤミちゃんが「二人で行くのですよ」と言うのでその意思を尊重する事にした。まぁ行くと言っても転移するから一瞬なんだけどね。


 直接祭壇の傍に転移した。


「おおっ!? ……なんだ、アロか。びっくりしたじゃない!」

「ごめんメイビスちゃん。龍神様に用事があって」

「そ、そう? じゃあいいか…………ふむ、アロとヤミか。どうしたのだ?」


 何か物凄く簡単にクトゥルス様が憑依するんだけど、これってメイビスちゃんの体に悪影響とかないよね?


「クトゥルス様! アドラメレクを見付けたかも知れないのです」

「……アロ。お主に幽界の鍵を授ける。お主なら鍵があれば転移出来る筈だ。ヤミと共に来い」

「あ、はい」


 気を失うメイビスちゃんを抱き止めて、いつも通り裏に寝かせに行く。その時には、既に幽界に転移する方法が理解出来ていた。これがクトゥルス様の言った「鍵」なんだろう。


「じゃあヤミちゃん、行こうか」

「はい、なのです」


 ヤミちゃんと手を繋ぎ、幽界の家の前をイメージして転移した。クトゥルス様の魔法陣を使って初めて幽界に行った時と同じように、足元から吸い込まれる感覚の後、足の裏が草に着地した感触があった。目の前には、二年間を過ごした石造りの家。ここを去ってまだ二週間くらいなので、懐かしいという感じではない。


「来たな、二人とも」


 後ろを振り返るとクトゥルス様が立っていた。促され、家の中に入って腰掛ける。いつも食事を摂っていたテーブルだ。


「アロにアドラメレクの事を聞かせても良いか分からなくて……お聞きしにきたのです。それと、アドラメレクらしき者は、地上のホッジス王国に居ると思われるのです」

「そうか……ヤミ、ご苦労であった。アロには我から話そう」


 そう言ってクトゥルス様が俺の目を見つめた。


「アドラメレクとは、地上に現れた『悪魔王』だ」

「悪魔、王?」

「お主も知っているだろう。悪魔には下級から上級が居る事を」

「はい」

「それら全ての悪魔を統べる悪魔王七十二体のうちの一体だ」

「なるほど?」

「奴が現れたのは、およそ二千五百年前の事である――」


 その頃、クトゥルス様の眷属龍達は自由に地上と幽界を行き来していた。ある時、闇龍――ヤミちゃんに接触した少年が居た。実際には全ての眷属龍に接触しようとしたのだが、相手にしたのがヤミちゃんだけだったようだ。

 人の良さそうな笑顔を浮かべるその少年は、艶やかな黒髪が顔の周りを覆い、目がとても細く、見た目は十四~十五歳くらい。ヤミちゃんに「魔法を教えて欲しい」と頼み込んできた。今と変わらず当時も純真だったヤミちゃんは、親切心から彼に魔法を教えてあげた。


 闇龍魔法は、隠蔽、幻惑、精神操作が特に優れている。性別転換魔法、なんて変わり種もあるがそういうのは特例らしい。

 少年は魔法に関して稀有な才能を持ち、闇龍魔法を習得していった。ヤミちゃんは凡そ百年に渡って闇龍魔法を教示した。その間少年が全く老いなかった事に疑問は感じなかった。俺が開発した「老化遅延魔法(アサナトス)」のような魔法が他にあってもおかしくないしね。


 だが、その頃のヤミちゃんは、少年から「精神操作(マインドコントロール)」の影響を受けていたのだ。少年は、ヤミちゃんに教わる前から「闇魔法」を使う事が出来た。ヤミちゃんに気付かれないよう、極小の魔力で、百年掛けて少しずつ自分の影響下に置いていったのだった。


 少年の目的は龍闇魔法の習得ではなかった。彼の本当の目的は、自分が地上を支配するに当たって邪魔になる、クトゥルス様とその眷属龍の排除だった。

 当時、幽界に転移する「鍵」を持っていたヤミちゃんを巧みに騙し、彼は幽界にやって来た。そして、そこで初めて悪魔王の本性と能力を曝け出したのだ。そして彼は、自ら「悪魔王の一体、アドラメレク」と名乗ったのだと言う。


 相手が彼一人なら、クトゥルス様は苦戦しなかっただろう。しかし彼はヤミちゃんを盾にした。自分の子供同然のヤミちゃんを盾にされて、クトゥルス様は本気で攻撃出来なかった。そこへ異変を察知した他の眷属龍が駆け付け、ヤミちゃんを奪い返して何とか幽界から撃退した。

 その後、ヤミちゃん以外の眷属龍達は、地上にアドラメレクを追撃に向かう。瀕死の重傷を負った筈のアドラメレクだったが、必死の捜索にも関わらず見付ける事が出来なかった。その後クトゥルス様によって、ヤミちゃんの「精神操作(マインドコントロール)」は解かれた。


 ヤミちゃんじゃなくても、他の眷属龍でも同じように操られただろう。だが、責任を感じたヤミちゃんは、それ以来龍の姿に戻る事を自ら封印し、幽界に出入りする「鍵」もクトゥルス様に返上した。


「その後アドラメレクはハトホル神の眷属に近付き、同じようにハトホルの幽界に入り込んだ。今度は本性を露にせず、長い時間を掛けてハトホルを闇に堕としていった。そうして生まれたのが、お主達が『イゴールナク』と呼ぶ邪神だ」

この連載を始めて100日、3ヵ月以上経ちました。夏の盛りに初めて、もう季節は冬一歩手前……早いものですねぇ。


今作は、あと9話ほどで完結する予定です。

完結まで毎日投稿しますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!!

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