第三話 ベルナルドと名無し令嬢1
辺境の屋敷に着くと馬車は止まり御者に手を引かれて降りると、一面に雪が積もりほんのりと吹く風は冷たいけれど少し暖かい感じに思えた。
眼前には出迎えが僅かにはいます、男性が2人に女性が1人。
白髪の紳士っぽい男性がいて、こちらを観察しているようです。
それもそうでしょうね、出迎えの相手が違うのですから。
戸惑いとなんだお前は?って顔してますしね。
後、私が他に従者もつけずにきてることも不審に思う気がする。
「最初に謝らせてください、私は其方から申しこまれた婚姻の姉サーラではなく、妹の名無しです。」
「......ナナシ様ですか?」
「はい。私には名前がないので、自己紹介できずにすみません。」
「は? お名前がない!?」
白髪の紳士が私の側に来てくれたので一応の謝罪と自己紹介できずにいることを詫びる。
すると白髪の紳士は私の発言に驚くも、何かボソボソと呟き思案しているようだったものの。
深く息を吐き、周囲の人達に目配せした後に寒いですからと屋敷の中へと入れて貰うことができたのでした。
時間は名無し令嬢が氷帝のベルナルドの屋敷に来る前に戻る。ベルナルドは本来ならば婚姻など無下にしておきたかったのだ。
国からの使命や任務が我が身には相応しくもある。
ただ一心に騎士道精神が強く、他の者へも厳しい性格であった。だからと言って一応なりにも異性や結婚を意識していないと言えば否と答えるだろう。
しかしこのベルナルドは女性に対しても心を許すことなどない性格であった。
交際するのも長続きなどせず、厳しくもあり表情筋が死んでるのではと思われるほどに冷たいのである。
いっさいの表情を崩すことなどないのではと周囲には感じさせるほど男女問わず凍らせる瞳をもっていた。
なので別れるのはごく普通なのだ。
このままではとベルナルドの執事セバスは考える。
下手をすればお子を見ることもできず引退などしたくないと。
セバスは何故にこれほどベルナルド様が女性に表情を崩さないのかと考えれば母君であるユリアン様のせいだと合点がいく。
ユリアン様はベルナルド様を......。
「なんだ、人のことを見て用でもあるなら言え。」
「いえ、そろそろまた...あの方から婚約者をいい加減作れと命令があったなあーって思いまして。」
「......チッ! またか。あいつこそさっさと恋人ぐらい作ればいいものを。俺は面倒なんだよ! もともと恋愛など興味ないんだからな!」
「興味ないって言いながらも幼い頃の初恋の妖精にはご執心の気が。」
つい口から滑ってしまった言葉にベルナルドが一瞬表情を曇らせている。それもそうであろう、初恋拗らせていまだに恋愛できていないのですから。
セバス自身だけはそのことを知っているせいか、ベルナルドはハアーと息を吐きつつセバスを睨む。
「あれはひとときの幻だと言ったであろう。それよりもこれはなんだ?」
バサっと書類をつくえに投げるベルナルドにセバスは小さく笑む。
「ベルナルド様の父君からいい加減にと婚約者を決めたそうです。」
「は?」
「爵位も申し分なく、社交界にも黄金の妖精とまで言われている美貌の持ち主、名前をサーライド。人柄も良く落ち着いた女性であると報告が上がっております。」
「....強制か? 余計なことを......って妖精だと!!」
「はい、とても美しい女性であると。」
「......わかった。その婚姻進めてくれ。」
「はい。」
妖精という単語にベルナルドが少々嬉しそうであるのを感じたセバスは、善は急げと急ぎ用意をしたのであった。
だが、そのことにより運命は回り始め。交じり合うことのなかった二つの歯車が重なり合うとは、この時のベルナルドもセバスも考えてはいなかった。