第一話 旅立ち
太陽と月があるなら私はどちらになるのでしょうか?
部屋の隙間から差し込む月をぼんやり眺めて思うのです。
太陽は表に出て周囲を明るくする存在。それに相対するように月は日に影り欠けていく。
時には明るい満月になる時はあるだろうけれど、私はそんな明るく周囲を光らせる力もない。
暗い部屋に差し込む月明かり。
「私は月でもないのかもしれませんね。」
太陽でも月でもない存在意義。
それはいったい何者なのでしょう?
月を掴むように手を伸ばして淡い光を掴もうとした瞬間、ガシャリと腕にハマる鎖が鳴く。
「光を掴むこともできないのですね。」
目を瞑る、私は人であるはずなのに。
耳にする言葉は私を全否定する言葉ばかり。
生かされるだけマシなのでしょう。
その時です、部屋が開き誰かが入る気配に向くとお父様が私を穢れた汚物を見る目で見下ろす。
冷めた瞳には一切の愛情もないように。
「...おと....公爵様。」
お父様と告げようと口を出そうとするも、言おうとする瞬間には言えない空気があり敬称を告げれば、ニヤリと口角をあげ私に見下ろしたまま信じられないことを言われる。
「やっとお前の使い道が見つかったぞ、お前を姉サーラの身代わりに氷帝の貴公子ベルナルドに嫁に出すことにした。」
「え!!?」
氷帝の貴公子ベルナルドって辺境をおさめている残酷かつ冷徹で、誰もが恐れる人だと噂は聞いたことがあった。
「身代わりです...か?」
身代わりなど相手に対する侮辱行為だと思うのに、お父様は私の顎を掴むなり
「あんな冷徹な男に大事な大事な娘を渡すわけがないだろう!!
サーラは国に認められる美姫だ、それを嫁に進言するなど許せるわけがない。だから貴様のような不細工なゴミ屑ならいいかと思ってな。」
と言いながら、じっと私を観察する。
「本当に似てきたな母親のノルンに。だが白銀に赤い瞳など醜いし気持ち悪いなつくづく。サーラとうりふたつの双子なのにどうしてこんな醜いゴミ屑が生まれたんだろうな。」
顎から手を離すとばい菌でも触ったあとのように手をハンカチで拭い、私に嫁入りの準備は今日中にしてやると告げた後、鎖を使用人に外され暗い部屋を出る。
明るい廊下は慣れない目には毒だったけれど、使用人の従者に乱暴に引っ張られ無理矢理にメイドたちに色々準備させられていく。
無言だから怖い。
次々と準備が整っていくとマシな格好になっていく、鏡を見せられるも....周囲からは決して美しいとか言われるわけもない。
みんなからの視線はただ醜いものが着飾っているだけだと思っているのだろう。
私もそう思うから。
着々と全部の準備が終わった頃には外に荷物と馬車だけがあった。
「名無しお嬢様、こちらへ。」
「はい。」
御者の人に声をかけられて馬車に乗る、ての荷物など鞄一つ。
「幸せなどないんでしょうね、きっと。」
ぽつりと口から漏れる声はただ霞のように消える。
見送りのない存在の馬車は走っていく冬の雪解けに降られながら。