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90:レオと秘密の特訓(ベリスフォード視点)



 例年と同じように燦々と降り頻る陽光。

 直射日光が当たった土が熱を発し、カラリと乾いた風が吹き抜ける。

 いつも通りのラズーの夏だ。


 ペトラが欲しいと言った『天空石』は、結局ラズーの地を冷夏から守る結果となった。

 ラズーは観光業に漁業、鉱山などといった特定の産業が目立っているけれど、農業と畜産業もかなり多い。人口が多い分、食料自給率が大切なんだと2世が言っていた。

『天空石』のお陰でラズーの農作物は例年並みか、それ以上の収穫高が予想されているらしい。『豊穣石』を設置したマルブランの方でもかなりの量が収穫されているので、今年のアスラダ皇国の冬の餓死者は当初推定した人数よりも減るだろうとセザールが言っていた。


 まぁ、私はペトラやマザー達が望んだから作っただけで、特に深い考えはなかったのだけど。ただ虚しく死んでいく人が減るのは良いことだと思う。


 私はそんな夏の大神殿の庭園にある岩に腰掛けて、人を待っていた。

 庭園に植えられた草木は真夏の日差しを浴びて、葉の表面を煌めかせている。

 アスラーのハーデンベルギアたちも自由に咲き乱れて、ピンクや紫色の花弁を広げていた。……神力が宿った花だから、花弁が閉じたところを見たこともないけれど。


 そうやってぼんやりと岩に腰掛けていると、ガサガサと植物を分け入ってくる人の足音が聞こえてくる。

 音のする方へ視線を向ければ、待ち人が見えてきた。

 神殿騎士の制服の襟元を緩めながら、レオがこちらに向かってくる。


「こんにちは、レオ。前回から二週間ぶりだね」

「テメーと俺の時間が合わねーんだから仕方がねぇだろ。それよりテメーのせいで、また神官どもに囲まれて大変だったんだよ……」


 レオがうんざりとした表情で言う。


「また神官たちから意地悪されたの?」


 私の信奉者である神官たちが、私と仲の良いレオに意地悪なことをするらしい。


「私から注意しようか?」

「余計酷くなるからソレはやめろ。別に神官どもからネチネチネチネチ小言言われるだけで実害はねーけどさ、

『ペトラ様×ベリー様の間に男が割って入らないでください。解釈違いです』

『美少女達の秘密の花園に、男という穢れた存在が近付くことは赦されない。我々に配慮しろ』

『ハーレムなら他を当たれ!! 推し二人を男にNTRる苦しみが、君には分からないのか!? 血も涙もないクソ野郎め!!』

 とかなんとか、うるせぇーし、言ってる意味もわかんねーし。男なら暴力で解決しようぜ」

「暴力に訴えた時点で負けだって、昔ペトラが言ってたよ」

「さすがオジョーサマ!! お心清らかな平和主義者だぜ!!」


 ペトラの話題を出すとレオがすぐに元気になって復活するので、良かった。


「今日はどれくらい時間があるの?」

「三十分。小休憩だ。終わったら訓練に戻んなきゃなんねぇ」

「そっか。じゃあすぐに始めよう」

「よし、わかった」


 こうしてレオにエスコートの仕方を教えてもらうようになってから、まだ片手の指くらいの回数だ。時間もあんまり取れていない。

 レオと私の休日が重なる日はつまりペトラとも重なる貴重な日なので、三人で過ごしている。そうするとエスコートの勉強は休日以外に時間を見つけなければならないので、結局あんまり時間が取れないんだ。

 まぁぼちぼち、ゆっくりやっていこうと思う。私は男であった時間がなかったので、色んな所作に問題があるから、初めから長期戦であることはわかっていた。


 まずは男性のお辞儀の仕方をレオから習う。騎士服のレオが見本としてお辞儀をしただけで、その男らしい動作に私は見惚れた。すごく格好いい。

 私も一生懸命真似をしてみる。


「だ~か~ら~! もっとグワシッ! って感じにすんだよ!」

「ぐわし」

「違ぇ! テメーの動作じゃ『へにょり』って感じだろ! もっと背中の筋肉を意識しろっ」

「ぐわし!」

「足もなんかフラついてんぞ! 下半身もビシッとしろ! 格好悪りぃぞ!」

「ぐわし!!」


 何度練習しても、レオからダメ出しの連発だった。むずかしい。

 続いて、跪き方を練習したけれど、それもたくさんダメ出しを食らった。


「ベリー!! お前はまず筋トレだ!! 背ばっかり伸びてひょろひょろのくせに、体を支える体幹がなってねぇ!! お前、体鍛えたことがねぇーだろ?」

「うん。ない」

「いいか、ベリー。オジョーサマをエスコートする為には、男の中の男を目指さなくちゃなんねぇ。

『本当にいい男ってのは背中で語るもんだ』って、女帝マリリンが昔言ってた。意味は背筋を鍛えろってことだと俺は思う。背筋を鍛えるためには、結局全身の筋肉を効率よく鍛えなきゃなんねぇ。つまり筋トレしてねぇ奴に男を語る資格はねぇんだ!!」

「なるほど。わかった」


 ただお辞儀をするだけでもレオの方がピシッとしていて格好良いのは、筋肉が鍛えられているからなんだね。

 ペトラよりは力持ちだとは思っていたけれど、それは単純に男女差で、鍛えたことのない私の筋肉は格好良くないようだ。レオといると勉強になる。


 レオの休憩がもうすぐ終わってしまうので、次会うときまでに走り込みをしろ、と指示を受ける。筋トレについては次回までにメニューを作って、詳しく教えてくれるとのこと。


「ありがとう、レオ。これで私もレオみたいな格好いい男になって、ペトラに男として見てもらえるかなぁ」


 私がそう言うと、レオは苦い顔をした。


「レオ? どうしたの?」

「……俺の真似をしても、別にオジョーサマから男として見られるわけではねぇーぞ……」

「え、なんで? レオはこんなに格好いいのに、どうしてペトラから男として見てもらえないの?」

「俺の心を……抉るな……!!」

「レオはとっても格好いい男だよ。私が保証するよ」

「ベリーなんかに保証されたってなんの慰めにもなんねーんだよ……!!!」


 レオはそう言って、走り去っていった。

 去り際のレオから、何か水滴のようなものがキラキラと輝いて散ったように見えた。急いでいたから、汗かな?

 支給されている時計を確認するとすでにもう二十五分が過ぎていたので、騎士団に戻る時間だったのだろう。


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