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【書籍2巻&コミカライズ企画進行中】悪役令嬢ペトラの大神殿暮らし ~大親友の美少女が実は男の子で、皇室のご落胤だなんて聞いてません!~(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第5章 神託の能力者の成長(14~16歳)

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84:親友の居ない日々

明日の更新はお休みします。

代わりに本日2話更新です。



 ベリーが西の領地マルブランへ旅立ってからも、わたくしの日常は続きます。

 朝のお祈りをして、午前の授業を受けて、午後からは治癒棟で四時間勤務。

 今日は半年前にも治癒した伯爵家の方が、また虫歯になったのでやってきました。この方はかなりの甘党でしょっちゅう虫歯になり、毎回大金をかけて治癒棟に来る上客です。次は冬が開けた頃に、また虫歯で治癒棟に来るのでしょう。


 巨大組織である大神殿は、その運営のためにとにかくお金が必要です。貧困層への炊き出しや大神殿にいる学者たちの支援、わたくしたち特殊能力者の保護など、役割がたくさんあるのですから。綺麗事など言わずに、高位貴族や富裕層からお金を巻き上げなければならないことは分かっています。

 けれど、軽症者ばかりが続くのもちょっと……、という気分です。

 そろそろ重症患者も治癒して経験値を上げたいな、と思っていると、アンジー様から声をかけられました。


「ペトラちゃん、出張組ほど遠くじゃないんだけど、泊まりがけの仕事に行ってみない? 隣の領地にある神殿から重症患者の連絡が来たんだけど、これもいい経験になると思うから~。あ、勿論あたしも同行するよー」

「! はいっ、行きますわ!!」

「よし。……というわけでスヴェン君、お留守番はきみに託した!!」


 アンジー様の言葉に、スヴェン様はミントグリーンの髪をぐしゃぐしゃとかき回します。


「もういい加減、ラズーに籠ってんのも飽きたんですけど。俺、いつ頃出張組に戻れますかね、アンジーさん……」

「ゼラさんの采配だからねぇ。本人に聞いてみたら~?」

「だってゼラ神官、『幽閉組』じゃないっすか。俺、あの人怖いんすよぉ」

「大丈夫。『幽閉組』は倫理観おかしい人ばっかりだけど、犯罪行為は封じられているから、一緒に居ても身の危険はないよ!」

「倫理観がおかしいのが問題なんすよ!」


 気持ちはわかりますわ、スヴェン様。


 同情しつつ、わたくしとアンジー様はスヴェン様を励まし、留守番をお願い致しました。





 経験値アップのために隣の領地へ、アンジー様とプチ出張へ出掛けます。

 隣の領地と言っても、片道五日ほど馬車に揺られました。人が住んでいる町や村の間には牧草地や農地がたくさん広がっていますからね。


 今回わたくしが治癒する患者さんは、遺伝的に心臓病の多い家系の女性でした。

 彼女は臨月を迎えた妊婦さんでもあり、大神殿へ来るのは確かに難しい状況でした。そのためわたくしたちが呼ばれたのでしょう。


「私の父や姉妹も、胸の痛みが原因で亡くなりました。階段や坂道などを歩くとすぐに、胸が締めつけられるような痛みを感じて、数分耐えると症状が緩和する。そんなことを繰り返しているうちに倒れて、亡くなってしまったんです。

 妹なんて、一歳にもなれずに亡くなってしまいました。

 そして私にも、だんだんその症状が出てくるようになってきました」


 彼女は自分の大きくなったお腹を撫でながら言います。


「お願いです、見習い聖女様。自分の子供に、同じ欠陥のある心臓を持って生まれさせたくないのです。どうかこの子の治癒をお願いします……! 出産に耐えきれず私の心臓が止まってしまったとしても、この子の心臓が丈夫である確信が持てなければ、死んでも死にきれません……!」


 治癒して欲しいのは彼女自身ではなく、お腹の中の赤ちゃんだったようです。


「ですが、貴女も心臓病の症状が出ているのでしょう? 貴女の心臓を放っておいたら、出産の前に亡くなってしまうかもしれないのですよ? お子さんの心臓はまだ、病気と決まったわけではないのですから。またお金を貯めて大神殿に診てもらえば……」

「私はもう臨月です。出産前に亡くなったら、腹をかっさばいてでも我が子を取り上げてくれるようにと、産婆さんに頼みました。

 それに、我が家には大神殿へ支払えるお金が一人分しか出せません。またお金を貯めようとしても、どれだけの年月がかかるか……。私の妹は一歳にもなれずに亡くなったんです。私の子供が同じようにならないとは言えなません。怖いんです。私か子供のどちらかなら、子供に治癒を受けさせます」


 彼女の側には旦那さんも寄り添っていて、「僕も覚悟を決めています。一人親でも立派に子供を育てて見せます」と頷きました。


「……わかりましたわ」


 お腹のなかに居る赤ちゃんに治癒をかけるのは初めてなので、うっかり、妊婦さんと赤ちゃんの両方の心臓を治癒してしまっても仕方がないですよね。


 そんな気持ちでわたくしがアンジー様に視線を送れば、『うん。間違えて二人治癒しても仕方がない、仕方がない☆』というようにウィンクしてくださいました。


「《High heal》」


 というわけで、治癒はうっかり失敗しました。

 妊婦さんの心臓は出産にきちんと堪えられますし、赤ちゃんも健康に生まれてくるでしょう。


 治癒が終わると、アンジー様と一緒に観光も楽しんでから、大神殿に戻りました。





 大神殿に戻る頃にはちょうど、ラズー祈祷祭が開催されました。


 今年のパレードに『美しすぎる見習い聖女ベリー』が居ないことと、獣調教のセザール大神官がいらっしゃらないことにガッカリする信者も居たようですが、例年以上の盛り上がりを見せました。


 その理由は皇都貧民街に設置した『浄化石』です。


 大神殿が『浄化石』について公表し、「ここ数ヵ月で皇都の水質が劇的に良くなったのは、大神殿が新しく製作した『浄化石』のおかげだ」と言ったために、大神殿の評判は鰻登りなのです。


 貧民街にも観光客がやって来るようになり、マリリンさん達が共同畑で育てた野菜を『浄化石の効力が付与された有り難い野菜』として高値で売り始めたと、レオから教えてもらいました。

 その野菜を食べれば心身ともに浄化され、美人になってお金持ちになって長生きできるという謳い文句なのですって。

 ……完全に詐欺じゃないですか。

 捕まらないでくださいね、皆さん……。


 その祈祷祭のパレードに出たせいで、スヴェン様が不倫騒動(?)に巻き込まれたのも記憶に新しいです。

 パレードに出たスヴェン様のお顔の良さに、今度は既婚女性から秋波を送られました。そしてその方の旦那さんに待ち伏せされ、スヴェン様は襲撃されかけたのです。

 神殿騎士が守ってくださったお陰で大事には至らなかったのですが、それ以来スヴェン様はすっかり意気消沈しております。


「なんで俺ばっかり、変な女に狙われるんですかね……? 俺だって昔は、将来優しい嫁さんを貰うんだって思ってたんですよ……うぅ、将来……」


 仕事中も突然泣き出すので、かなりメンタルがやられているみたいです。

 これには上司のアンジー様もお手上げでした。


「言いながら泣かないでー、スヴェン君ー!」

「もう俺、二十八なんすけど、将来ってヤツはいつ俺の元にやって来てくれるんですかね、アンジーさん……」

「あたしに聞かれてもなぁ~」


 なんでこんなに女運が悪いのでしょうかね、スヴェン様は。もうそういう星の下に生まれたとしか思えません。


「いいなぁ、若いっていいなぁ、ペトラ……。まだ夢を現実にする体力があるもんなぁ……」

「スヴェン君、ペトラちゃんに絡まない!」

「やっぱペトラも将来結婚したら、ラズーに家建てるんだろ? 俺のマイスイートハウス(永遠に仮)の近所になったら、よろしくな。俺の将来の嫁さん(永遠に仮)と仲良くしてやってくれよな……」

「いえ、まだ結婚どころか恋人も居ないですわ。スヴェン様と同じですから」

「十四歳の恋人無しと、二十八歳の恋人無しを同列にすんのやめてくんない? 俺の心がさらに死ぬよ。……あれ、嘘、お前って俺の歳の半分なのかよ……あぁ、打ちのめされる……」

「もうすぐ十五歳ですわ」

「あんま変わんねぇ……」


 スヴェン様は書類が積まれた机の上へと、顔からダイブしました。

 それからすぐに「あ」と声を上げます。


「そういえばペトラが神殿騎士の一人と良い感じだって聞いたぞ。メインストリートでデートしてたって」

「ああ。それ、レオのことですね。ただのお友達です」


 ベリーがマルブランに旅立ってから、たまにレオと遊びに行っています。

 レオとは若者らしくダーツカフェとかで遊び、買い物したりご飯を食べたりしていますが、デートという感じはまったくないですね。

 レオは昔わたくしに治癒されたことにずっと恩を感じてくださっているらしく、なんでも奢ろうとしてくださるのですが、


「俺の給料はオジョーサマへの上納金だと思ってください!」


 と、まるで舎弟のようなことを言ってきます。上納金って……。怖過ぎて毎回きちんと割り勘しています。

 普通に友達扱いしてくださればいいのに。


「レオはベリーとの方が仲良しですよ。わたくしに対するよりも、ずっと気安い態度で話していますもの」

「なーんだ。ベリーの方か。……いや、どっちにしろ羨ましさは変わんねぇな……」


 わたくしとスヴェン様が話し合う向かいで、アンジー様がガッターン!! と椅子から転がり落ちました。


 急に何があったのでしょう?


「大丈夫ですか、アンジー様?」

「急に椅子から落ちるってどうしたんすか、アンジーさん?」

「ペトラちゃん!! 絶対に絶対に約束して!! 無神経にベリーちゃんとレオ君の関係を応援したりしないことを……ッ!!!」

「え? ですが、ベリーとレオは実際お似合いですわ?」

「それっ、絶対にペトラちゃんの主観でしょー!? 二人からそれぞれ聞いた訳じゃないでしょうっ!?」

「え、ええ……。まぁ……」

「ベリーちゃんとレオ君本人から直接、お互いへの恋愛感情を聞かない限り、二人の関係を無神経に応援しない!! いいね!?」

「はい……。わかりました」


 ベリーとレオ、素敵なカップルになりそうなのですけどね。


 でも確かにアンジー様の仰る通り、外野が何を言っても無意味でしょう。恋愛は当事者同士で暖めるものですからね。


 アンジー様は何故か「ふぅ……。ベリーちゃん、いつかあたしに感謝してくれ……」と額の汗を拭っていました。





 ラズーにそろそろ冬の気配が近づく頃、獣調教のセザール大神官が操る鳥が一通の手紙を運んできたそうです。


 西の領地マルブランの穀倉地帯に無事『豊穣石』を設置し、稼働したこと。

『豊穣石』の効果はすさまじく、例年よりも植えた麦の状態が良いこと。

 そしてマルブランの地に例年よりも早く冬が到来し、雪が降り始めてしまったので、雪解けの春を待ってから大神殿に帰還すると、書かれてあったそうです。


 イライジャ大神官付きの職員が、見習いでしかないわたくしに手紙の内容をわざわざ教えに来てくださいました。


「……お知らせいただき、ありがとうございます」

「帰還が遅れるのは実に残念ですが、新たな『豊穣石』の稼働は歴史に残る偉業ですよ。これでまたアスラー大神様の御心がアスラダ皇国の地に広がります」

「ええ。その通りですわね」

「アスラー大神様のご加護があらんことを」


 職員さんは満面の笑みでそう言って、立ち去っていきました。


 ベリー、離れていても頑張っているのですね。

『豊穣石』の慶事に大神殿が沸いていますよ。皆さん、とても嬉しそう。

 もちろんわたくしも、とてもとても嬉しいです。貴女の頑張っている様子が知れて、嬉しい。

 春まで会えないのはやはり寂しすぎるけれど、ちゃんと我慢して貴女の帰りを待っていますわ。

 だからどうか、ベリーが無事に帰ってきますように。


「アスラー大神様のご加護があらんことを」


 わたくしはそっと呟いて、神様にお願いしました。



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