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【書籍2巻&コミカライズ企画進行中】悪役令嬢ペトラの大神殿暮らし ~大親友の美少女が実は男の子で、皇室のご落胤だなんて聞いてません!~(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第5章 神託の能力者の成長(14~16歳)

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79:大捕物と肖像画



 トルヴェヌ神殿に戻ると、なにやら会議室の方から騒がしい声が聞こえてきます。


「なにがあったんだろう?」

「アンジー様が呼び出された件でしょうか?」


 わたくしとベリーは顔を見合わせ、とりあえず会議室に向かうことにしました。


 扉を開けて室内に入ると、アンジー様やセザール大神官、トルヴェヌ神殿の神官や職員たちに、神殿騎士団の方々と勢揃いです。

 会議室には椅子やテーブルが用意されているのですが、誰一人腰掛けず、立っていました。皆さんだいぶん興奮しているご様子で何かを話し合われ、わたくしたちが入室したことにも気付いていません。

 アンジー様とセザール大神官のもとに近付くと、そこでようやく「ペトラちゃん! ベリーちゃん!」とアンジー様が気付いてくださいました。


「皆さんお集まりで、何の話し合いなのでしょう? アンジー様が呼び出された件と関係があるのですか?」

「うんっ、そうなの! いやぁ~、すごかった、貧民街で大捕物があってねぇ」

「大捕物? スリでも捕らえたのですか?」


 まさかマリリン様や、わたくしが治癒活動を通して関わったことのある方々でしょうか?


 たぶん貧民街の大多数の人間が、大なり小なり、盗みや恐喝などの前科持ちだと思います。それはもちろん犯罪行為で、騎士に捕まっても仕方のないことです。

 ですがそれは貧困に陥り、這い出せなかった者たちがどうにか今日を生きようと足掻いた結果である場合もあります。もしそうなら、情状酌量の余地があるのでは……。


 そんな想像をしてオロオロするわたくしに、アンジー様は言いました。


「貧民街の調査に向かった神殿騎士に対して、不良グループ『ポール・チーニ』の連中が現れて、「ここは俺たちの土地だ! 勝手な調査は許さねぇ!!」って抗争が起きたんだよ~。いやぁー、びっくりしたー」

「なんだか聞き覚えのあるグループ名ですわね……」


 キノコみたいな名前のグループ名を、以前どこかで聞いたことがあるような……?


 首を傾げるわたくしの元へ、レオがやって来ます。

 レオの頬や身に付けている騎士服が、なぜか煤けていました。


「『ポール・チーニ』の連中は、昔オジョーサマが俺達貧民街の連中に畑作りを教えてくれたときに、鍬や苗を売り払って遊ぶ金に変えてた連中っスよ。共同畑の野菜を盗もうとして、女帝マリリンや『銀世代』のジジババと一緒に防衛したこともあるんすよ。リーダーの奴が俺とタメなんです」


 そういえば居ましたね、そんな小悪党が。

 以前カフェに行ったときに、レオから防衛戦について聞きましたし。


「奴等、『黒獅子のレオ』である俺が貧民街に居なくなってから、デカイ顔をするようになったみてーで、騎士の中に俺が居ることに気付いて襲撃してきたみたいなんです。あいつら、昔から俺に絡んできてウザかったんすよね」

「そんなことがあったのですね。皆さん、お怪我はありませんでしたか? レオはとても煤けておりますけど……」


 ポケットから取り出したハンカチでレオの頬を拭えば、ハンカチが真っ黒になりました。

 わたくしの行動が予想外だったのか、レオは「あ、ぇ、オジョーサマっ!? オジョーサマの手が汚れちまうんで……っ! あのぉぉ!!?」と狼狽えました。


「レオ。ペトラがいやなら、私が代わろうか?」


 ベリーが横からそう言って自分のハンカチを取り出し、わたくしの代わりにレオの頬の汚れを取ろうとします。

 しかしレオは、ベリーのハンカチを引ったくりました。


「キメーことすんじゃねぇ!! 自分でやるからいい!!」


 そう言って、ベリーのハンカチで自分の顔を拭き始めました。


「それで、『ポール・チーニ』と神殿騎士たちが戦って、騎士たちが勝ったというわけなのですね?」

「いんや。騎士たちは今回戦ってないんだよね~」

「えっ……?」


 アンジー様が首を横に振りながら言います。


「実はレオくんの推薦で、貧民街に詳しいっていうマリリンさんっていう老婦人に同行して貰ってたの。

 そしたらそのマリリンさんが、「ここに居る神殿騎士たちは、お嬢さんの指示で動いている方たちだよ!! 貧民街の古強者どもよ、集結しな!!」って叫んだら、貧民街のあっちこっちからわらわらと、たくさんのご老人や子供たちが現れて、『ポール・チーニ』の連中に火炎瓶を投げつけ始めたんだよ。

 で、騎士たちは火事が広がらないように奔走し、ついでに『ポール・チーニ』の連中も捕らえたの。とりあえず業務妨害で捕らえたんだけど、取り調べたら余罪がぼろぼろ出てくるわ出てくるわで、ほんとすごかったんだよ~」

「女帝マリリンと『銀世代』のジジババは、いつもやることが派手なんすよね」


 マリリンさん……、お元気そうで何よりですが、あまり無茶なさらないでくださいませ……。

 あとレオ、『銀世代』はどなたですの……?


 遠い目をしてしまうわたくしの傍へ、セザール大神官がすすっと近付いてきました。


 以前は大学院生みたいな方だなと思っていたセザール大神官ですが、年を重ねるごとに助教授っぽい雰囲気になってきました。

 セザール大神官はわたくしとベリーに微笑みかけます。


「今日の大捕物のおかげで、貧民街で大神殿の人間の邪魔をする者たちは居なくなりましたから、明日は安心して貧民街へ行けますよ。良かったですね、ベリー、ハクスリーさん」

「うん。ありがとう、セザール」

「セザール大神官、お手数をおかけして申し訳ありません。明日はよろしくお願い致します」


 ベリーの設置作業を邪魔する可能性のある人間が減ったのなら、まぁ、結果オーライですよね……?





 トルヴェヌ神殿での夕食が終わってから、ベリーがわたくしを地下室に案内してくださいました。


 ベリーは神託の能力者なので、大神殿の支部であるトルヴェヌ神殿でもその権力が大いに発揮されます。ベリーが地下室を見たいと職員に伝えるだけで、簡単に鍵が貸し出されました。


「ここに私のお母さんの肖像画が、一枚だけ残されているって聞いたんだ」


 火の灯るランプを掲げながら、ベリーが地下室のなかを進みます。

 広い地下室にはたくさんの棚が並び、日の光に当たらないように運び込まれた古い書籍や書類の束、巻物や絵画などが眠っていました。

 とても静かで、ひんやりとした空気が換気用の壁穴から流れている音さえよく聞こえます。一歩足を踏み出すごとに、踵の音が地下室中に反響しました。


 ベリーは時折、棚に貼られた番号を確かめます。

 そして、「あった、二十一番の棚。ここだよ」と言いました。


「この棚に肖像画があるんだって」

「二人で手分けして探してみましょうか」


 可燃物がない場所にランプを置き、二人で棚のなかを探します。

 肖像画はすぐに見つかりました。棚には書籍や巻物、鉱物や小動物の骨格標本などが等間隔に並び、そのなかに白い布に包まれた肖像画もただポンと置かれていました。


 近くのテーブルに移動し、そこに肖像画を乗せます。ベリーが白い布を剥ぎ取ると、美しい女性の油絵が現れました。


「わぁ……っ、とても綺麗な方ですね。小さい頃のベリーとそっくりですわ」


 前の神託の大聖女、ウェルザ様。

 ウェルザ様が肖像画に描かれた頃は、十代後半から二十代にかけてでしょうか。とても若々しい微笑みを浮かべています。

 肩につく程度の長さの栗色の髪に、青い瞳はパッチリと大きくて、鼻筋がすっと通っています。丸顔なところはベリーとは違いますけれど、とてつもなく美しい女性でした。


 小さな頃のベリーにもう一度出会えたような気持ちになって、ウェルザ様の肖像画をじっくり眺めます。

 今もベリーは可愛いですけれど、どうもウェルザ様に瓜二つというわけではないようです。ベリーは愛らしい絶世の美少女から、絶世の美女という妖艶な方向に成長中なのかもしれません。


「私にそんなに似てる?」


 ベリーは不思議そうに首を傾げます。


「小さい頃のベリーは、本当にこんな感じの美少女でしたよ。今は美女に成長中ですけれど」

「ふーん」


 ベリーの髪や瞳の色は、たぶんお父さんの方に似たのでしょう。……これ以上彼女の秘匿情報を知るわけにはいかないので、心の中で思うだけですが。

 ウェルザ様の肖像画でさえ、一介の聖女見習いが見て良いものではありませんし。


 ベリーのお母さんを見ることが出来て満足したので、肖像画を再び白い布に包んで棚に戻しました。





 地下室をあとにし、特別室へ戻ろうとするベリーに声をかけます。


「いよいよ明日が、『浄化石』の設置作業ですね」

「うん」

「わたくし、なんのお役にも立てなくて申し訳ないのですけれど……。ベリー、どうか作業の方をよろしくお願い致します」


 深く頭を下げれば、わたくしの頭頂部にベリーの手のひらがポスッと乗せられました。温かくて大きな手のひらです。

 そっと視線をあげて彼女を見上げれば、ベリーは優しく微笑んでいました。


「うん。任せて。ペトラの為に使う力を惜しんだりはしないから」


 その笑い方が、肖像画の中のウェルザ様によく似ていました。

 本当に親子なのですね。


 ……どのような方だったのでしょうか、ウェルザ様は。

 ベリーと同じようにおおらかな性格の方だったのか、それとも全然違う性格の方だったのでしょうか。


 ウェルザ様が亡くなったのは、十五年前だと授業で習いました。きっとベリーを生んですぐのことだったのでしょう。

 無念だっただろうな、と想像するだけで胸の奥が重くなります。


 ベリーが成長する姿を、どれほど見たいと望んだのでしょう。

 きっとウェルザ様が生きていてくだされば、ベリーの幼少期はまったく違うものだったはずです。


 歩むことの出来なかった『もしも』の道を思うのは、どうしてももの悲しいですね。ベリーとウェルザ様親子のことも、……アーヴィンお兄様のことも。


「ベリーなら絶対に成功させてくれると、信じておりますわ」


 わたくしはベリーにお礼を伝えて、そこでようやく自分に割り振られた部屋へと戻りました。


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