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72:お礼のお肉です



 後日、改めてベリーとレオの三人で街に下りました。


 今回はお互いの空いている時間をどうにか合わせて、短時間の外出です。前回のように丸一日時間があるわけではないので、時間短縮のために乗り合い馬車ではなく馬で訪れました。

 こういうとき、乗馬を習っていて良かったと本当に思います。選択肢が増えますからね。

 レオは騎士団で乗馬の訓練がありますし、ベリーは動物から愛されるヒロイン体質なので、馬の方から勝手に彼女の言うことを聞いてくださいます。

 そんなわけで三人無事に、メインストリートに到着しました。


「今日はわたくしの奢りなので、たくさん食べてくださいね、お二人とも!」


 レオには、前回予定を変えてすぐに大神殿に帰ってしまったことの埋め合わせに。

 ベリーには『浄化石』を作っていただいたお礼に、わたくしは張り切ってそう言いました。


 二人とも「そんなこと気にしなくていいのに」と言ってくださいましたが、気になるものは気になります。


「何が食べたいですか? アンジー様とスヴェン様から美味しいお店をいろいろ教えていただいたので、魚介でもお肉でも麺類でもスイーツでもなんでもいいですよっ」

「お肉がいいな」

「肉でお願いしますっ!!」


 ベリーとレオの答えが図らずも一緒だったため、お肉料理のお店に決定です。食べ盛りに男も女も関係ありませんものね。





 アンジー様に教えていただいた、炭火焼きの鶏肉料理が有名なお店に二人を案内しました。

 ここは観光客向けのお店らしく、古代風の石造りの建物でした。内装も青いタイル画やラズー硝子のランプが飾ってあったり、小さなアスラー大神像が置いてあったりと、大神殿を意識している感じがバリバリ伝わってきます。

 メニュー表を見ると『名物・鶏肉の古代焼き定食セット』というものが一番上に大きく書かれていたので、つまり郷土料理のお店なのでしょう。


「この古代焼きというのが、たぶんアンジー様おすすめの料理だと思うのですが。ベリーは大盛りに変更しますか?」

「うん」

「オジョーサマ、俺、こっちの三人前食ってもいいっすか?」

「え。もちろん構いませんけど……」


 あきらかにシェア用の大皿メニューでしたけど、一人で食べきれるだなんて凄いのですね、レオは。

 体力勝負の騎士ですから、やはりたくさん食べなきゃ体がもたないのでしょう。


 ほかにもいろいろ注文をして、料理が出来上がるのを待ちます。


「それで、『浄化石』とかいうやつ、完成したのかよ?」


 レオがベリーに質問を投げ掛ければ、彼女は「うん」と頷きます。


「ちゃんと完成したよ」

「おおっ、すげー。それ、いつ頃貧民街に設置出来るんだ?」

「問題はそこなのですよねぇ……」


 現在『浄化石』は、わたくしの部屋に保管されています。

 これをどうやって貧民街へ運搬し、そして設置するか。

 設置する際には、ベリーに祈祷していただかなければなりません。つまり彼女もいっしょに皇都へ行ってもらわなければならないのです。これには上層部からの許可が必要でした。


 それにわたくしも、休暇が取れるか分かりません。

 ラズーから皇都まで行くのに、馬車で往復二ヶ月かかります。前世の例えで言うと、東京から沖縄くらい離れているんです。

 最低でも二ヶ月の長期の休暇を申請して、果たして通るのでしょうか。大神殿はとってもとってもホワイトな職場ですけど、さすがに難しい気がします。

 冬場なら治癒棟が暇なのですが、今度は雪道の問題があります。前世は雪だろうと旅行に行けたのですけどねぇ。

 そもそも新幹線や飛行機があれば、ラズーと皇都間を一日二日で移動できると思います。


「ベリーが大神殿を往復二ヶ月も離れることが許可されるのか、分かりませんし……。ベリーの移動には絶対に護衛の騎士が必要です。今だってどこか離れたところから護衛してくださっていますもの」

「あ。料理が来たよ、ペトラ。食べよう?」

「……はい」


 熱した石のプレートの上に、タレに長時間漬け込まれていた鶏肉を炭火で焼いた料理がジュワジュワと音を立てていました。湯気も立っています。

 ……美味しそうな食べ物が目の前のテーブルに並ぶと、少しだけ悩みごとが遠ざかるような気持ちになりました。


 ベリーやレオが食べ始め、「美味しいね」「うまっ!! オジョーサマ、これスゲーうまいっす!!」と喜んでいるのを見ると、わたくしも嬉しくなり、フォークとナイフを手に取りました。

 鶏肉を一口齧れば、果物が入った甘辛いソースと炭火焼きの香ばしい味が肉汁に混じって、とても美味しいです。大神殿に帰ったらアンジー様にお礼を伝えないと、と自然に思いました。

 セットのパンやスープ、ほかに頼んでいた揚げ物や炒め物も、どれもしみじみ美味しいです。


「『浄化石』の設置の件だけどね。心配しなくていいよ、ペトラ」


 パンに鶏肉を挟みながら、ベリーが言います。


「私が全部なんとかするから」

「……全部とは?」

「ペトラは皇都に出掛けるために、荷物の準備をしててね」


 まさかベリーが上層部の権限を振りかざして、わたくしの長期休暇をもぎ取ってくださったりするのかしら……?

 それはそれで、結構ダメなことでは……?


 そんなわたくしの疑いさえも解決するように、後日ベリーは上層部に話をつけて、皇都への『出張』をもぎ取ってきてくれることを、この時のわたくしはまだ知りませんでした。


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