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70:浄化石作り



 ベリーは作業部屋の中央に、アスラー・クリスタルを置きました。

 梱包用の布をすべて外し、ふたたび彼女が水晶に触れると、倉庫の時と同じように光り輝きます。ベリーがおっしゃっていた『共鳴』です。意味はまったくわかりませんが。

 不思議なことに、この作業部屋では発光する水晶を直視しても、眩しいとは思いませんでした。目を細めずとも普通に見ていられます。


「じゃあ始めるね」

「はい」


 わたくしは邪魔にならないよう少し離れたところに立ち、彼女の作業を見守ります。


 ベリーは水晶に触れたまま、短い祈祷を唱えました。


「《All》」


 ベリーが祈祷の句を唱えた途端、燃え盛る炎のような赤い光が彼女の手のひらから溢れ出ました。

 赤い光は小さな作業部屋中を燃やし尽くすように広がり、弾け、踊ります。そしてゆっくりと水晶の中へ光が流れ込み、水晶が置かれた黒い床にも吸収され始めました。


 真剣な横顔を見せるベリーのこめかみから、汗がポタポタと流れ落ちていくのが見えました。

 ハンカチで汗を拭って差し上げたい、という気持ちが湧きましたが、少しでもわたくしが余計な動きをすれば彼女の集中力を途切れさせてしまう気がして動けません。

 ただじっと、彼女の作業を見守りました。


 しばらくすると、ベリーの力を吸収した黒い床の方に、変化が起こりました。

 黒い床が波打つように少しずつ動いていきます。

 スライム状に柔らかくなった床へアスラー・クリスタルが少し沈んだかと思うと、今度は柔らかくなった床ごと長方形の物体となって伸び始めました。

 長方形の物体は床と同じ黒い水晶で出来ており、不思議な紋様がびっしりと刻み込まれています。もうこの段階で、ラズーの川の中洲にあった『浄化石』とほとんど同じものに見えました。

 ベリーが作った物の方が、真新しいせいかキラキラ輝いてきれいですけれど。


 長方形の物体は、いえ、ベリーの『浄化石』は、五十センチほどの高さまで伸びると自然に床から切り離されました。しばらく空中に浮かんでくるくると回り、最後にコトリと音を立てて床に着地します。


 ベリーがアスラー・クリスタルから手をゆっくりと離すと、光が収まります。

 いつの間にか神託の赤い光も消えていました。


「……ふぅ」


 ベリーの小さな溜め息が聞こえた途端、わたくしは彼女に駆け寄って抱きついていました。


「ベリー!! ベリー!! すごいですわ、ベリー!!! 本当に中洲にあった『浄化石』とそっくりですわ、これ!! 天才です!! ベリーは初代皇帝陛下と同じくらいすごい神託の能力者ですわ!!!」

「…………ごめん、ペトラ」


 大興奮するわたくしの腕の中から、ベリーの弱々しい声が聞こえてきます。


 ハッとして彼女の顔を覗き込めば、肌が紙のように真っ白になっていました。


「……私、限界みたい……」

「能力の使いすぎですわね!?」

「寝るね……」

「《Heal》!!」


 慌てて治癒をかければ、貧血状態は治ったようでベリーの顔に血色が戻りましたが、彼女はそのまま瞼を閉じて眠りについてしまいました。


「力を使いきるまで能力を使って、わたくしへの贈り物を作ってくださってありがとうございます、ベリー」





 力尽きて眠るベリーの体を、わたくしはどうにか床へと横たわらせることに成功しました。

 すごく身長が伸びたとは思っていましたけれど、ベリーったら体重までこんなに……。いえ! 女の子に体重の話はタブーですわ!!

 忘れましょう。


 ベリーが眠ってしまうと、わたくしは手持ちぶさたになりました。

 わたくし達が入ってきた時の扉が存在しているので、もしかしたら大神殿に繋がっていて帰れるかもしれないと思い、念のため確認してみました。でも扉の向こうに広がるのは“砂漠”で、ベリーを寝かせるベッドは無さそうです。諦めて、この不思議な作業部屋で彼女の目が覚めるのを待つことにしました。


 わたくしは眠るベリーの傍に腰を下ろしました。

 案の定、床はひんやりと冷たくて固く、座り心地が悪いです。スカートに包まれたお尻の体温を奪っていきます。

 これでは床に横たわっているベリーも、相当寒いのではないでしょうか。ベリーはハイネックの上からストールを巻くような極度の寒がりに成長してしまったので、すごく心配です。

 わたくしもストールや羽織物の一枚でも持っていれば、ベリーの体にブランケット代わりに掛けてあげられたのですが……。

 この神秘的な作業部屋には、ブランケット代わりになりそうな物どころか、そもそも人工物が無いです。

 それにしてもベリー、この部屋を作業部屋と呼んでおりましたけど、この部屋そのものが『浄化石』の材料でもあったのですね。


 仕方がないので、わたくしはベリーの隣に寝転びました。

 そしてぴったりと彼女の体にくっつきます。せめてわたくしの体温で、ベリーの体を冷えから守りましょう。


 彼女の肩に鼻を寄せると、衣類に残る石鹸の香りと、作業中にかいた汗のにおい、そして木や植物の香りがしてきます。

 ベリーは庭園の植物のなかを分け行って歩くことがあるから、香りが移ったのかもしれませんね。


 そのにおいを嗅いでいると、だんだん目がウトウトしてきます。

 大自然に抱き締められているような心地で、とても安心してしまい、体から力が抜けていきます。すごくすごく気持ちがいい。


 ベリーといっしょに眠るのは久しぶりだな、と思ったのを最後に、わたくしも眠りの中へと沈んでいきました。


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