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66:3人で遊びに行こう



 神殿騎士となったレオと再会してから、彼と何度かお話ししました。

 と言ってもレオはまだ入団したばかりなので、まだ時間の余裕が無いようです。

 わたくしの休憩時間とレオの休憩時間が重なることは殆どなく、偶然神殿内で会っても挨拶やちょっとした立ち話で終わってしまいます。ハンスやマリリンさんたちの近況もまだ詳しく聞き出せていません。

 生活リズムが違うとどうしても遊ぶ時間が合わなくなるのは、仕方がないことですけどね。


 そんなわけでレオと再会してからも、わたくしの交遊関係は相変わらず狭いまま、二週間以上が経ちました。


「あの、オジョーサマ! 俺、今週の休息日に休みが貰えることになったんですけど、もしオジョーサマの予定が空いてたら、どっかで話でもしませんか!?」

「あら、まぁ」


 騎士の休日は変則的です。早朝勤務もあれば夜勤もあるので、一般的な休暇とは重ならないことが多いです。

 そんなレオの休日が、ついに神官聖女の休日と重なりました。

 ぜひとも遊びのお誘いを受けたいところなのですが……。


「ごめんなさい、レオ。その日はベリーと先約がありまして、街へ出掛けるつもりなんです。せっかく誘ってくださったのに、本当に申し訳……」

「じゃあ、レオも来る?」


 わたくしがレオにお断りを入れている途中で、横からベリーが声をあげました。


 ベリーは背の高いレオを見上げ、首を傾げて尋ねています。レオはそんな彼女を見下ろし、ちょっと嫌そうに眉間にシワを寄せました。

 ……うら若き青年が嫌がる要素が、ベリーのどこにあるのかさっぱりわかりません。上目遣いのベリー、最高に可愛くないですか?


「よろしいのですか、ベリー?」

「うん。レオ、いい人だし。私、レオが好きだよ」

「まぁ、まぁぁぁ……っ!!!」


 ラブですの? ベリーったら、レオにラブですの!?


 ベリーも年頃の少女ですし、異性が気になるようになるのはごく自然な事です。

 ベリーとレオはまだ出会ったばかりですから、もしかしたらまだ恋という程しっかりとした好意じゃないかもしれませんが……。


 ですが、小さくとも、ベリーが初めて異性に好意を示したのです。

 親友の恋の予感を応援しないわけにはいきませんわ!


「レオ、ベリーもこう仰っていますし、休日は三人で遊びませんか? お話もたくさん出来ますし、わたくし、ラズーの観光案内もいたしますわ」

「あ、いや、その……っ」


 レオは悩むように視線をさ迷わせましたが、じ~っと見つめていればついに折れました。


「わかりました。オジョーサマと……そこの人と、一緒に街へ出掛けます!!」

「嬉しいですわ。とっても楽しみです。ねぇ、ベリー?」

「うん」


 ならばさっそく、ベリーの為にも最高のデートコースを調べてさしあげなくてはっ。

 次の休日、もともとベリーとのお出掛けは楽しみでしたけれど、さらに楽しみになりました。





 さて、初めてベリーとレオの三人で遊ぶ休日がやって参りました。


 今までわたくしとベリーが街に下りるときには、神殿騎士が何人か目立たないところからこっそりと護衛してくれていました。神託の能力者であるベリーの安全を守るためです。

 ベリーが小さい頃は乳母のマシュリナさんも付き添ってくれていましたが、彼女が成長するにつれて同行しなくなりました。ベリーはもう一人でお買い物も出来ますし、お店の人に質問したり注文したり、なんでも出来るようになりましたもの。マシュリナさんも「これならもう大丈夫ですね」と安心してくださったのです。


 今日も護衛の騎士が離れた場所に居ますが、側にレオも居てくれるのでさらに安全です。どんな時でも一番大事なベリーを優先してくれるでしょう。


「ではまずは、新しく出来たパティスリーに行ってみませんか? カフェスペースもあってお茶をすることが出来ると、スヴェン様からお聞きしたんです」


 大神殿前から発車した乗り合い馬車で、ラズーの街の中心メインストリートで下車すると、わたくしはさっそく二人をお茶に誘いました。


「ペトラが望むなら、どこへでも行こう」

「……ぱてぃすりー? とか良くわかんねーっスけど、オジョーサマが行きたいとこなら、俺もお供します!」


 私服姿の二人が相槌を打ちました。


 本日のベリーは、黒いハイネックワンピース姿です。

 見習い聖女のワンピースはもっと透け感のある生地を何枚も重ねたものなのですが、今日のワンピースはとてもしっかりとした生地で、一枚で着てもまったく透けません。スカート丈も足首が隠れるほど長く、貞淑な雰囲気です。

 アクセサリーは着けていませんが、わたくしが昔あげた青紫色の髪紐と合鍵をペンダント代わりにぶら下げています。そしてさらに首元に薄手の白いストールを巻いています。

 少々首に負荷が掛かりすぎなファッションですが、絶世の美少女であり、モデル体型のベリーが着るととても似合っています。綺麗な人が身に付けている物って、すべてが高級品で流行最先端に見えてしまうんですよねぇ。

 ベリーもいつの頃からかお化粧をちょこっとするようになり、美人度がさらに上がっていました。


 レオはシンプルな白シャツとズボンでしたが、貧民街で暮らしていた頃のボロを纏う彼の姿を覚えているので、それだけで感動しました。本当に立派になりましたね……。

 それに、レオは少々鋭い目付きですが青みがかった黒髪と同色の瞳が綺麗な男前なので、シンプルがとてもよく似合います。足の長さや、袖から覗く腕の筋肉なども男らしくて素敵です。素材の良さが際立っていました。


 ちなみにわたくしはブラウスとスカートで、良いところのお嬢様風です。以前特別功労賞を頂いたときの『アスラー・クリスタル』のペンダントもぶら下げています。水晶なので何にでも合わせやすいのです。

 大神殿に持ってきた服はすべて成長によって着れなくなったので、今のわたくしが着ているものはすべてラズーで購入しています。

 ラズーの洋服は皇都の色使いと違う、明るい色彩が多いので、着ているとリゾート気分になりますわ。もう初夏ですしね。


 髪型はいつも通りポニーテールですが、長年愛用していたシャルロッテお手製のリボンがくたびれてきてしまったので、最近はこだわりなく色んなリボンや髪飾りを着けています。

 シャルロッテのリボンはこれ以上ボロボロになってしまわないよう、小物入れに保管中です。


「では、パティスリーへ行きましょう」


 スヴェン様から地図も描いて頂いたので、場所はばっちりです。

 わたくしはさっそく鞄から地図を取り出し、「あちらの方向です」と二人の案内を始めました。


 わたくしがこうやって先頭に立って案内することで、背後のベリーとレオが二人で会話し、自然に仲良くなるという魂胆です!


「私にも地図を見せて、ペトラ。一緒にお店を探そう?」

「え」

「あ、オジョーサマ、今俺たちを追い越した観光客っぽい集団が『新しく出来たぱてぃすりーに行こう』って言ってましたよ。あの集団に付いていけば大丈夫じゃねーっスか?」

「え」


 わたくしを間に挟んで、ベリーとレオがパティスリー探しに協力してくれます。

 とても有り難いのですが……。計画と全然違いすぎますわ……。


 右を見れば、優しく微笑む可愛いベリー。左を見れば、観光客を指差し、ご主人様に褒められたい大型犬のように瞳を輝かせているレオの姿があります。


 ……まぁ、今は三人で楽しむのでも充分ですわ。


 ベリーの恋の予感だと、わたくしが勝手にはしゃいだだけですし。

 わたくし、先走りすぎましたわね。反省です。


「あ、あの看板のお店じゃない、ペトラ?」

「さっきの集団が店のなかに入っていきましたよ、オジョーサマ!」

「スヴェン様の地図通りですね。きっとあのお店でしょう」


 私たちは三人仲良く、お店まで向かいました。


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