表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/121

61:俺物語③(レオ視点)



 オッサンから教えてもらった安宿には、神殿騎士の入団試験を受けるために各地からやって来た連中で溢れていた。この時期はどこの宿もこんな状態らしい。

 俺も相部屋だがなんとかベッドを一つ借りることができ、ホッとする。


 入団試験はあと一週間後だ。

 けっこうギリギリに着いたんだな、と気付いて焦った。

 入団試験は年に一回しかねぇから、今回を逃すと次はまた来年になっちまう。間に合って本当に良かったぜ。


 俺は入団試験までの一週間、体を鍛えたり、走り込みをしたり、あと安宿で出会った入団希望の連中と空き地で組手をさせてもらったりしながら過ごした。


 安宿では飯が出ないから、腹が減ればラズーのメインストリートに出て適当に腹を満たす。

 そんなとき、店でオジョーサマの噂を聞いたりすることもあった。


「ああ、それってペトラ見習い聖女様だろ? アンジーさんが『ペトラちゃんは貴族出身だよ』って前に言ってたからな。間違いねぇ。この店にもたまに食いに来るぜ。小さい頃はうちのお子様定食がお気に入りだったなぁ」

「まじっすか、大将! 詳しく教えてくださいよ!」

「じゃあボーズ、大盛りを頼みな」

「うっす!」


 大盛り日替わりランチと引き換えに、俺はラズーでのオジョーサマのご活躍を聞くことができた。

 鉱山有毒ガス発生事件での治癒活動とか、それを領主様から表彰されたこととか、祈祷祭のパレードで目立ちまくっていたこととか。

 街に下りてきてもすげー礼儀正しくて、逆に年頃の男たちが話しかけられずに高嶺の花扱いされているとか。いろいろ。


 オジョーサマはどこに行っても相変わらずオジョーサマのまんまなんだなって思ったら、めちゃくちゃ嬉しかった。

 まぁ、オジョーサマが嫌な女に変わっちまってても、俺の恩人には変わんねぇから、騎士として守りたいって思う気持ちはなくさねぇけど。

 でも好きな人が、自分が恋したときのまま、いや、それよりももっと素敵になってたら、嬉しいじゃん。俺が好きになった人ってやっぱ世界で一番最高な人だよなって、思うじゃん。


 だから俺はますますオジョーサマに会いたい気持ちが増して、入団試験の日を心待にした。

 当日もめちゃくちゃいい状態で、試験に挑むことができた。





 試験は大神殿の敷地内にある、神殿騎士用の屋外練習場で三日間かけて行われた。

 一日目が体力測定。ここで冷やかしレベルの奴が落とされる。

 二日目は、同じ入団希望者との試合で三人勝ち抜いたら合格。

 そんで最終日に面接と、神殿騎士との一対一で剣で戦い、見込みがあると判定されれば、ようやく神殿騎士に入団だ。


 俺はハンス師匠に六年間教わったことのすべてをぶつけるつもりで、試験に臨んだ。

 一日目の体力測定は難なくクリア。これはただの自慢だけど、体力だけはマジである。長年走り込みしまくったから、長距離走では一等を取った。

 二日目の勝負も早々に三人勝ち抜いた。同世代相手なら、剣術でも体術でも負けやしねーよ。

 面接の仕方は、ハクスリー公爵家の護衛団のなかに、かつて騎士の入団試験を受けたことのある人が何人か居たから教えて貰った。聞かれることの内容はだいたい想定できていたから、つっかえずに言えたと思う。


 で、最後の、神殿騎士との一騎討ち。

 俺は刃先を潰した練習用の剣を持ち、対戦相手である壮年の騎士と向かい合う。


「両者、礼っ」


「よろしくお願いしますっ!」

「ああ、胸を貸してやる。さぁ来い!」

「はいっ!!」


 この試合に勝ち負けは関係ないーーーどうせ騎士相手に入団希望者が勝てるわけがないと、端っから思われているのだ。だから現段階でどれだけ剣術の腕があるのかを見せるための試合だ。


 実際、相手の騎士の体はかなり完成している。鎧の上からも、肩幅の広さや胸板の厚さ、腕や脚の筋肉の太さがよく分かる。すべて日々の鍛練で鍛え上げられた厚みだ。

 対する俺はまだ、十六歳の育ちきってない体だ。まぁ、伸び代があるってだけの話だ。


 俺が今、騎士相手に勝負になるのは、体の軽さを生かしたフットワークくらいだろう。

 俺はさっそく騎士の懐へと接近し、騎士に向かって剣を繰り出そうとしてーーー案の定、相手から防がれる。

 騎士の剣捌きは重く、威力がある。弾き飛ばされてしまいそうな剣を手放さないために、俺は素早く後退して威力を逃がす。


 体勢を立て直し、再び騎士に剣を打ち込んでは、相手から凪ぎ払われる前に素早く後退し、また踏み込む。これをひたすら繰り返す。

 俺の動きは単調だが、騎士に休憩する暇を与えないよう、とにかく速さに特化する。

 うまく相手の死角に入って剣を振るえば、騎士の鎧にガンッ! と当たった。


「……っ、ちょこまかと……!! 剣の威力はまだまだだがっ、動きがいいな、きみ!」

「ありがとうございますっ!」


 騎士からの誉め言葉に、相手の剣を避けながら礼を言う。

 俺の動きの素早さは、ハンス師匠からもお墨付きをもらっているんで、けっこう自信があるんだ。


 最後のさいごに、相手に防がれて俺の剣が吹っ飛んじまって試合終了しちまったけど、騎士が俺の両肩を叩いて笑いかけてくれた。


「見込みがあるな、きみ。名前はレオだったな」

「はいっ、レオっす!」

「面接の結果と合わせて、評価する。明日の合格発表を待ちなさい」

「はい。ありがとうございました!」

「お疲れさん」


 こうして翌日神殿騎士団の掲示板に貼り出された合格発表に、無事、俺の名前が書かれてあった。


 すっげー、嬉しい!

 これでオジョーサマに、胸を張って会いに行けるぞ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ