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55:2世の婚約披露パーティー



 冬真っ盛りの時期に、パーシバル2世様の婚約披露パーティーが領主館で開かれることになりました。

 ラズーでは雪が降りませんが、ほかの領地では雪で街道が通れなくなるので、ごく内輪のパーティーになるようです。わたくしやベリーにも招待状が届きました。


 わたくし達のほかにも、マザー大聖女を始めとする上層部や、アンジー様たち神官聖女もパーティーに呼ばれています。なので大神殿の馬車数台に分かれて、領主館に出発することになりました。


 わたくしはベリーとマシュリナさん、護衛騎士と一緒に馬車に乗り込みます。


「2世様の婚約者がどのような方か、お会いするのが楽しみですわね、ベリー」


 礼服として見習い聖女のワンピースを身に付け、冬用のブーツを履いたわたくしは、同じ服装のベリーに話しかけました。


 ベリーはちょっと首を傾げ、


「ペトラが楽しみなら、私も嬉しいよ」


 と答えました。

 2世様へのお祝いの気持ちや、婚約者に対する興味などはまるっとないようです。


 2世様と婚約者のご令嬢が婚約書を提出するために大神殿に訪れたのは先月のことだったのですが、グレイソン皇太子殿下とシャルロッテのときのような大神殿総出の出迎えはありませんでした。

 あれはグレイソン皇太子殿下が特別であっただけで、皇族や高位貴族なら毎回そうなるわけではないのです。

 ですからその日、わたくしは普通に治癒棟で勤務していました。


 アンジー様やスヴェン様から聞いた話によると、2世様のお相手はドゥラノワ辺境伯爵家の末娘だそうです。

 わたくしは一度もお会いしたことのないご令嬢ですが、ドゥラノワ辺境伯爵家が建国から続く名家であることは、実家で習いました。


 ドゥラノワ家初代は、初代皇帝陛下が国土を広げていく中で騎士として仕え、多くの功績を残した英雄です。

 その功績から初代皇帝が公爵の位を与えようとしたところを、『蛮族から皇国を守るため、国境の領地をもらう』と初代ドゥラノワが断って、最終的に辺境伯爵の位に収まったと聞きます。

 なのでドゥラノワ辺境伯爵家は、我がハクスリー公爵家であっても決して無礼な真似をしてはいけない一族なのです。


 ドゥラノワ家が抱える辺境騎士団は、アスラダ皇国三大騎士団のひとつに数え上げられるほどの武力を持っています。

 ちなみにもう二つは、皇城所属の近衛騎士団と、大神殿が抱える神殿騎士団です。

 騎士になりたい少年たちは、『皇室を守るための近衛騎士団』と『神の名のもとに戦う神殿騎士団』と『皇国の地を守るドゥラノワ辺境騎士団』のどれが一番格好いいか、よく討論していたりします。


 そのような素晴らしき騎士団を抱える名門家系のご令嬢にこれからお会いすると思うと、やはり緊張してします。

 令嬢生活からもう二年も離れてしまいましたし、失礼がないように気を付けなければなりませんわ。

 そしてもし気が合えば、2世様のご婚約者様とお友達なれたらいいな、とわたくしは密やかに思いました。





 パーティーの会場に到着すると、さっそくパーシバルご兄弟を発見しました。

 くりくりの金髪を格好良くセットし、皇族らしい煌びやかな衣装に、胸ポケットにハーデンベルギアの花を飾っています。

 2世様のお側にはまだお相手のご令嬢の姿はありませんが、デレッデレの表情をしているのが遠くからも見えました。


「あ! ペトラ嬢、ベリー嬢、今日は僕の婚約披露パーティーに出席してくれてありがとう~!!」

「ようこそいらっしゃいました、ペトラじょうっ、ベリーじょうっ!」


 兄弟揃って、こちらに早足で向かってきます。

 彼らの頬は薔薇色に上気し、瞳は星のように輝き、鼻息がとてつもなく荒くなっていました。


「本日はお招き頂きまして、誠にありがとうございます。パーシバル2世様、ご婚約おめでとうございます。心よりお慶び申し上げますわ。……さぁ、ベリーも2世様にお祝いを申し上げて?」

「2世、おめでとう」


 淡々と言うベリーにお祝いの心はまったく見えませんでしたが、2世様も3世様もまるで気が付きませんでした。


 ニヤニヤの表情で、2世様が頭を掻きます。


「いやぁ~、二人ともわざわざありがとう! 苦節九年、婚約者はおろか彼女も居なかった僕ですが、ついにこんな僕でも好きだと言ってくれる、とっても可愛い女の子に出会ってしまってね。婚約の運びとなりました……ふへへ」

「さすがはお兄様です!! やはりお兄様が世界で一番かっこいいお兄様です!! ぼくもお兄様を見習って、素敵な彼女をゲットできるようにがんばりますっ!!」

「いやぁ~、パーシーも実にいい男だよ。もうすこし大人になればパーシーも、僕のように最高に可愛い女の子と恋しちゃえるはずさ。

 ただね、いついかなる時も努力を怠らないことが肝心だよ。僕のこの言葉を忘れず、出会った女の子には即アタックし、優しく尽くし続けたまえ」

「はいっ、お兄様!!」


 キャッキャと楽しそうな会話をするパーシバルご兄弟の方へ、近付いてくる小さな足音が聞こえてきます。そのとたん、2世様が後ろへ振り向きました。


「この可愛い足音はモニカだね! あんまりに可愛い足音だから、近付いてくるだけで君の足音だって気が付いたよ、マイハニー♡」

「まぁ……♡ パーシバル様はわたしの足音まで覚えてくださったの? モニカ、嬉しい……っ!!」

「ははは、当たり前じゃないか。愛する女性の足音を聞き分けるのは、紳士として当然のマナーだよ」

「好き……!! パーシバル様、だぁい好き……!!」


 2世様は婚約者と思われる少女と抱き合ったまま、こちらに体ごと振り返りました。


「ペトラ嬢、ベリー嬢! 僕の婚約者を紹介するよ!」


 天使のような2世様の腕のなかに居たのは、水の精霊のように美しいご令嬢です。

 緩やかにウェーブする青い髪がふわりと揺れ、頭上に乗せられた重たそうなティアラが日の光に当たってピカピカと輝きました。

 ティアラは巨大なブルーサファイアとエメラルドを中心に、数千個近いメレダイヤが取り巻いた、とてつもなく豪華な品です。きっと2世様が宝物殿の国宝のひとつを、この方に贈ったのでしょう。


 ご令嬢の緑色の瞳が、こちらを凝視しました。

 わたくしとベリーを順々に観察したあと、ご令嬢はギラギラと好戦的に微笑みます。


「パーシバル様の()()()()()()となりました、モニカ・ドゥラノワです。どうぞお見知りおきを?」


 2世様から見えない角度でこちらを威嚇するご令嬢に、わたくしは一瞬固まったあと、どうにか「ペトラ・ハクスリー見習い聖女です」と挨拶を返しました。

 続いてベリーも、「私はベリー」と簡単に挨拶しました。


「僕たちはこれから挨拶回りをしなくちゃいけないから、またあとでね、ペトラ嬢、ベリー嬢」

「あとでたくさんお話ししましょうねっ、ペトラじょう、ベリーじょう!」

「……失礼致しますわ、ハクスリー様、ベリー様。

 パーシバル様ぁ♡ 次はどなたにご挨拶するのですか?」

「次はアンジー聖女たちにご挨拶する予定だよ、モニカ」

「……次は年増ね、モニカ、負けない……!!」

「ん? どうしたんだい、モニカ? 一瞬怖いお顔になっていたよ。疲れたのかなぁ?」

「いいえ、ちっとも疲れていませんっ。パーシバル様の隣はモニカのモノだと、この世の全ての女たちに知らしめるまでは、わたし、休んだりしませんから……!!」

「はははっ、僕の隣はモニカの場所に決まってるじゃないか。心配性だね、モニカは♡」

「だってパーシバル様がとっても素敵だから、モニカ、ちょっぴり不安です……」

「ああ、モニカを不安にさせる僕がいけないんだね。君の不安は僕がすべて消し去ってあげるっ、愛の力で……!!」

「まぁっ♡ パーシバル様ぁ♡」

「すごいです、さすがお兄様です!! ぼくもいつか愛の力で、彼女の不安を消しさってあげたいです!!」


 ……そんなふうに幸せそうに去っていく三人の背中を、わたくしとベリーは見送りました。


 グレイソン皇太子の時といい、わたくしには他人に喧嘩を売られやすい何かがあるのかしらと、そんなことを思いました。


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