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49:婚約書の提出



 本堂の祭壇の前で、シャルロッテとグレイソン皇太子殿下の婚約書の記入が始まりました。

 両家の代表が見守るなか、大神殿が用意した書類にお互いの名前を記入し、その場で提出。そしてマザー大聖女とイライジャ大神官によっての祝福、という流れです。淡々と進みました。


 我がハクスリー公爵家からは、皇都を離れられない父に代わってアーヴィンお義兄様が立会人となっていますが、皇室側からはなぜかラズー領主様が立会人となっていて、わたくしはそれが少しだけ不思議でした。

 領主様は現皇帝陛下の弟君にあたるので立会人として不足はないのですが、皇帝陛下が皇都から離れられなくても、皇后陛下がラズーへいらっしゃることは出来なかったのでしょうか。皇太子のご婚約ですのに。

 皇后陛下もよほどお忙しいのでしょうか。


 シャルロッテとグレイソン皇太子殿下の婚約が無事に結ばれると、大きな拍手が鳴り響きました。


 わたくしも祝福を込めて両手を叩きます。

 先程は嫌な胸騒ぎもしましたが、グレイソン皇太子の隣で照れ笑いを浮かべるシャルロッテを見れば、ただ純粋に幸せになってほしいという気持ちだけが残りました。


 グレイソン皇太子はこれから上層部のお二人と一緒に移動して、皇城からの書状を渡したり、話し合いがあるそうです。その用事が終わったあとは、シャルロッテと共に大神殿の見学をする予定です。

 皇太子の用事が終わるまでの間、シャルロッテや立会人たちは休憩になりました。





「ペトラお姉様っ」

「婚約おめでとう、シャルロッテ」


 グレイソン皇太子が本堂から退室すると、シャルロッテがしずしずとこちらにやって来ました。

 改めて祝福すれば、シャルロッテはふにゃふにゃと幸せそうに微笑みます。


「ありがとうございます、ペトラお姉様。私、グレイソン様が優しくてとても大好きなので、本当に嬉しいです」

「グレイソン皇太子殿下をお支えし、あなた自身も幸せになってくださいね、シャルロッテ」

「はい」


 シャルロッテの後ろから、アーヴィンお兄様とパーシバルご兄弟がやって来ます。彼らはすでに打ち解けた雰囲気でした。

 たぶん昨夜領主館へ宿泊した際に仲良くなったのでしょう。パーシバルご兄弟と図画工作して遊ぶの、楽しいですものね。


「こんにちは、パーシバル2世様、3世様。

 そしてお久しぶりです、アーヴィンお義兄様。長旅お疲れさまでした」


 わたくしがあいさつすれば、パーシバルご兄弟が「やあ、ペトラ嬢!」「今日もおうつくしいですね、ペトラじょう!」と元気良く返事をしてくださいます。

 お二人はわたくしのすぐ側までやって来ると、


「グレイソン様に先を越されたよ……」

「グレイソンさまに、春がきてしまいました……」


 と、憂い顔でおっしゃいました。


「ペトラ嬢、あんなに可愛い妹さんが居るなら、グレイソン様より先に僕に紹介してくれても良かったじゃないか。しかも僕と同じ九歳だし!」

「そうおっしゃられましても、皇都からラズーの地は遠いですから……」


 もともと父は皇室にハクスリー家の娘を嫁がせたかったので、皇弟殿下のご子息であるパーシバル2世様がどれほど素敵でも、まずは皇太子のグレイソン殿下にシャルロッテを勧めたでしょう。


 パーシバルご兄弟は手を取り合って嘆きました。


「ああ、素敵な女の子から先にどんどん他人のものになっていってしまうんだね。悲しいねぇ、パーシー……」

「シャルロッテじょうも、かわいくて優しい方でした。ぼくはあんな素敵な女の子にこそ、お兄さまのお嫁さんになってほしかったです」

「もちろんパーシーに似合う女の子も、優しくて可愛らしい子に決まっているよ!!」

「ありがとうございます、お兄さま……!!」


 相変わらず仲のよろしいご兄弟の後ろから、アーヴィンお兄様が現れました。


 アーヴィンお兄様は優しく微笑みます。


「一年ぶりだね、ペトラ。初めてきみの見習い聖女姿を見たけれど、とても様になっているよ。本当に立派だ」

「ありがとうございます、アーヴィンお兄様。お兄様も最後にお会いしたときよりも、ずっと凛々しくなられましたわ。妹として鼻が高いです」

「そうかい? ペトラの自慢の兄でいられるよう、これからも頑張るよ。

 それで、大神殿でのきみの暮らしはどんな感じだい? なにか嫌なことがあったり、不便な思いはしていないかい? 手紙では聞いているが、君の口から実際に教えてほしい」

「皆様、大変良くしてくださいますわ。ここでの生活はとてもやりがいに満ちていますの」


 わたくしたちは話をするために、本堂から中庭の東屋へと移動しました。

 お天気も良いですし、本堂で緊張に凝り固まった心と体をほぐすために、外の空気を吸いたかったからです。パーシバルご兄弟は単に『いい感じの枝』を拾いたいみたいでしたけど。


 わたくしとアーヴィンお兄様、シャルロッテの三人で東屋のベンチに腰掛け、離れていた時間を埋めるようにお話をしました。


 わたくしは友達になったベリーのこと、変わった人が多いけれど尊敬出来る治癒棟の方々のこと、特にアンジー様にお世話になっていること、ラズーの街の話など。


 アーヴィンお兄様は父や義母のこと、ハクスリー公爵家のこと、わたくしが特に気にかけていたメイドのリコリスや護衛のハンスについても話してくださいました。


 シャルロッテからは、グレイソン皇太子ののろけをたっぷりと聞かされました。


「それで、グレイソン様がそのお店で私が素敵だなと思って見ていたオルゴールを、デートの終わりにプレゼントしてくださったのです。私、一言もほしいとは言いませんでしたし、グレイソン様がいつご購入されたのかもわからなかったのに。本当に魔法みたいに、パッと私に差し出してくださったんです」

「まぁ、それはとても嬉しいですわね、シャルロッテ(攻略対象者ありがち行動ですわね)」

「はいっ。私、とてもとても嬉しくて、お礼を伝えるときに変にどもってしまいました……お恥ずかしい……」

「大丈夫ですわよ、シャルロッテ。きっとグレイソン皇太子殿下なら、そんなあなたのことも可愛らしいと思ってくださったはずですよ」

「どうしてわかったのですか、ペトラお姉様!? 恥ずかしがる私に、グレイソン様がそうおっしゃってくださったのです!」

「ふふふ、なんとなくですわ(ありがち……ありがち……)」

「ペトラお姉様は男性のお心もお見通しなのですね。さすがです」

「そういうわけでは、ないのですよ……」


 途中からアーヴィンお兄様はパーシバルご兄弟に誘われて『いい感じの枝』探しに巻き込まれてしまいましたが、シャルロッテの恋バナはまだまだ続きました。


 ……やはり、二人が並んでいたときに感じた不穏な感じは、わたくしの勘違いだったのかもしれません。

 シャルロッテから聞くグレイソン皇太子の話は、乙女ゲームそのままのように恋のときめきに溢れていました。


「……あら」


 ふと中庭の方に視線を向けると、白いヴェールを被った見習い聖女の姿が木々の間から見え隠れしていました。ベリーです。


 あの子ったら、もう。きっとアンジー様とスヴェン様を撒いて来たに違いありません。


 ベリーはひっそりと佇み、わたくしの方に視線を向けていました。ヴェール越しなのに熱い視線を感じるって、すごいですわね……。


「ペトラお姉様? いかがされましたか?」

「ごめんなさい、シャルロッテ。少し、席を外させていただきますわ」

「はい、わかりました」


 ベリーをシャルロッテやアーヴィンお兄様に紹介するのもいいかもしれません。


 わたくしはそう思って、ベリーを連れて来るために東屋から離れました。


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