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【書籍2巻&コミカライズ企画進行中】悪役令嬢ペトラの大神殿暮らし ~大親友の美少女が実は男の子で、皇室のご落胤だなんて聞いてません!~(WEB版)  作者: 三日月さんかく
第3章 ペトラ9歳と甘えん坊な美少女(本当は少年)

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44:ラズー祈祷祭④



 砂浜の向こうにある海岸沿いの道には、たくさんの出店が並んでいます。


 魚介を網の上で焼き、甘辛いタレをかけたものを出すお店や、様々なカットフルーツを食べ歩きしやすいように串で刺したものを売るお店。

 鉄板で海老と麺を炒め合わせて焼きそばに似たような食べ物を作る出店からは、鼻孔をくすぐるスパイスの香りが流れてきます。

 飴細工や木の実の砂糖掛け、ドライフルーツ、シロップ付けの果物の瓶詰め、チーズケーキや祝い菓子のクッキーといった甘味も売っていますし。布製品や『ラズー硝子』で作られたアクセサリーの出店もあります。


 観光客や大神殿の信者たちが道に溢れ、楽しそうにお買い物をしている光景が広がっていました。


「我々は一時間後には大神殿に帰らなければなりませんが、今日は街中に灯籠が立ち、これらの出店は深夜まで開かれるのですよ」

「きっと夜の時間帯も素敵なのでしょうね」


 マシュリナさんの説明に頷きながら、通りを進んで行きます。


 お祭り衣装のわたくしたちが通れば、道行く人々が足を止めて声を掛けてくださったり、拝まれたりします。

 出店の方にも「サービスするよ」と呼び込まれたので、ついでに治癒棟でお留守番をしている『幽閉組』や職員の方のためにお土産を選びました。甘いものがお好きな方には繊細な飴細工で、しょっぱいものがお好きな方には魚介の入ったお焼きみたいなものをたくさん買いました。

 自分用にも木の実の蜂蜜漬けの瓶やドライフルーツがいっぱい入った焼き菓子、ハーデンベルギアの形の砂糖菓子に、食べ歩き用にイカ焼きと揚げさつまいもの蜂蜜がけを買ってすごく満足です。あと綺麗な手鏡も見つけたので購入しました。


 わたくしばかりお祭りを楽しんでいる気がして、横にいるベリーに視線を向けます(ちなみにイカ焼きと揚げさつまいもの蜂蜜がけを味見してみるか聞いたところ、断られました)。


 彼女に気になったものはないか、尋ねてみました。


「今日はベリーの初めてのお買い物ですからね、なんでも買っていいのですよ? なにか欲しいものや、目についたものはありませんの?」

「……うーん。ない」


 ベリーは食欲、睡眠欲ときて、物欲まで無いみたいです。

 お金を使う機会のないベリーに『お買い物の仕方』というものを学ばせる良い機会でしたけれど、欲しいものがなければどうしようもありません。

 こうなったら、わたくしが「あれを買って来てください」とベリーにお金を渡して買い物の仕方を学ばせる、『はじめてのおつかい作戦』しかないでしょうか……。


 では、なにか適当に美味しそうな食べ物でも……と、わたくしが周囲の出店を観察していると。

 ベリーが声をあげました。


「あれ!」

「どうしたのですか、ベリー」

「あの赤いやつ、私、ほしい!」


 ベリーが指差したのは、お化粧用品の出店でした。


 近づいてみると、大きな木の台の上に化粧水やおしろい、口紅や香水など、様々な種類の化粧品が並んでいます。

 店先は女性たちで溢れていましたが、お祭り衣装のわたくしたちが近寄れば「大神殿の方々だわ」と場所を開けてくださいました。


「これ。これがほしい」


 ベリーが熱心に見つめているのは、小さな木製のケースに入った赤い口紅でした。


「ベリー、やっぱり口紅を付けたかったのですか? 女の子ですものねぇ」

「ううん。私じゃなくて、ペトラに塗るの」

「わたくしに?」

「これを買えば、私、毎日ペトラに赤いのを塗ってあげられるよ」

「まぁ、ベリーったら……」


 自分のものは欲しがらないのに、わたくしのために買ってあげたいだなんて……。

 思わず、じ~んと感動してしまいました。


「ですが、毎日赤い口紅は、わたくしにはちょっと使いづらいですわ」


 わたくし九歳ですし、勤め先は清潔感が大事な治癒棟なので、もっとオフィスメイクに相応しい色でお願いしたいです。


「そう? じゃあこっち?」


 真紅以外にも、三色ほど色がありました。

 前世のコスメ売り場で自分に似合う最強リップを選ぶ、という感じにはなりませんが、この三色の中ならこれが一番、仕事中でも使いやすいかな、という薄桃色の口紅の見本を手に取ります。

 手の甲に少し塗って発色を確認し、そのまま手の甲を口許に持っていって、先程購入した手鏡で自分の顔と口紅が合いそうか確認します。

 これは、美容部員さんがいないコスメ売り場でテスターを試すときにやっていた方法だったのですが、マシュリナさんが後ろで「変わった口紅の試し方ですね……」と驚いていらっしゃいました。

 確かにほかのお客さんは唇に直塗りで試していらっしゃるので、変に悪目立ちしておりますわね、わたくし。妙なところで前世の癖、というか衛生観念? が出てしまいましたわ……。


「ベリー、わたくし、こちらの色の口紅にいたしますわ。今お金を渡しますから、ちょっと待ってくださいね。そのお金をお店の方に渡すのですよ」

「ううん。いらない。ねぇマシュリナ、私のお金ちょうだい」


 わたくしがお財布を取り出そうとしている間に、ベリーはマシュリナさんからお金を受け取ってしまいました。


「ベリー様、この口紅にはこの銀貨を一枚支払うと、銅貨三枚のおつりが来ますからね。店員にお渡しください」

「うん、わかった」

「ベリー、わたくしの為のものなのですから、お金はわたくしが出しますわ!」

「ううん、ペトラは出さないの」


 ベリーはふるふると首を横に振り、頑固として言います。


「これは私がペトラに塗るものだから、私のもの」

「ですが……」

「ペトラはニコニコしてくれればいいよ」


 そこまで言われてしまえば、ベリーのお言葉に甘えるしかありません。


 ベリーが無事にお店の方に支払いするのを見守り、彼女が無事に初めてのお買い物を終えると、わたくしはお礼を言いました。


「ベリー、わたくしのために口紅を買ってくださってありがとうございます」

「どういたしまして」


 自分が塗るのだと言い張っていたので、ベリーは口紅を自分の衣装のポケットに仕舞いました。


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