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32:パーシバル1世・2世・3世



「ペトラ嬢、ここが私の家だ! ゆっくりと寛ぎたまえ」


 領主パーシバル1世様に連れてこられたのは、結局住居の方の応接間でした。

 使用人相手にごねていたアンジー様も、さすがに領主相手では無理だったようです。……諦めてくださって本当に良かったですわ。


 皇族の住居に相応しい格式高い応接間には、すでに二人のご子息と奥方様がいらっしゃいました。

 領主様が豪快に手招きしますと、三人がいそいそとこちらに近寄ってきます。

 同時にアンジー様の警戒レベルが上がりました。


「私の家族を紹介させてくれ、ペトラ嬢。これが私の家内だ」

「ようこそいらっしゃいました、ペトラ嬢。私はイヴと申します」

「そしてこの二人が私の自慢の息子たちだ」

「初めまして、ペトラ嬢。僕はパーシバル2世です。どうぞお見知りおきを!」

「ぼくはパーシバル3世です。よろしくおねがいします!」


 ふくよかな領主様とは真逆に、奥方のイヴ様はとても背が高くてスレンダーな女性です。

 目鼻立ちがハッキリとした華やかなお顔立ちで、そこに立っているだけで場が明るくなるような美人でした。


 ご子息のパーシバル2世様と3世様は、領主様とイヴ様の容姿のいいとこ取りで、くるくるの金髪とくりくりの水色の瞳が愛らしいお子さま達でした。将来はかなりの美青年になりそうな顔立ちです。


 ちなみにアスラダ皇国の皇族には、前世の日本の皇族と同様に名字がありません。

 なので三人のパーシバル様にも、イヴ様にも、ファーストネームに続いて長い長いミドルネームが存在するのですが、九歳のわたくしを思いやって端折ってくださったようです。


「領主様、ご家族様、お招き頂きありがとうございます。わたくしはペトラ・ハクスリー見習い聖女です」


 ずいっと、アンジー様が前に出ました。


「領主様、イヴ様、ぼっちゃま方、お久しぶりです! あたしとペトラちゃんに特別功労賞を頂けると聞いて領主館に来たんですけど、まさか住居にお招き頂いた上にご一家お揃いでお出ましとは、これはこれは大変驚きましたっ!」


 お願いです、アンジー様。

 もうわたくしを守ろうとするのは止めてくださいませ。

 いつ不敬罪で捕まってしまうか、見ているこちらがハラハラいたします。


 わたくしは何度もアンジー様の服の背中を引っ張り、上司の暴走を止めようとしました。

 アンジー様はわたくしの方に振り返り『任せて☆』というようにウィンクします。

 違うのです、そうじゃないですわ!!


 しかし、領主様は楽しげな笑い声をあげました。


「ハッハッハッ! 鉱山の毒ガスで多くの領民が苦しんだと聞く。私の領民たちを治癒してくれて本当に感謝しておるぞ、アンジー聖女よ!

 というわけでこれがソチラにやる勲章だ。鉱山の村の者達からも、『アスラー・クリスタル』を渡して欲しいと言われてな。研磨されたものを持ってきた。受けとるが良い!」


 領主様のお言葉に、横で待機していた使用人が二人、進み出ました。

 一人は黄金の勲章が二つ乗ったお盆を。もう一人は『アスラー・クリスタル』をペンダントに加工したものを、運んできます。

 アンジー様がささっと受けとりました。


「これにて授与式を終えよう」

「勲章、ありがとうございます、領主様。でも授与式ってめちゃくちゃ早いんですねー。あたしとペトラちゃん、もう帰ってもいいですか?」

「続いて食事会の予定だが、今はまだ昼を過ぎたばかりだな。夕方まで待つが良い。

 おぉっと、私としたことがっ! 夕方まであと四時間もあるな! その間アンジー聖女には客間で酒でも振る舞おうではないか。

 しかしそうなると、ペトラ嬢が退屈するだろう。うむ、ではペトラ嬢には我が息子たちが話し相手になろう!」

「清々しいほど白々しいですよ、領主様! 明らかにペトラちゃんとぼっちゃま達のお見合いがメインじゃないですか!」


 一生懸命お見合いを回避しようとするアンジー様に、今度はイヴ様がお声をかけました。


「あら、アンジー。私達領主館の者は、心からあなたとペトラ嬢に感謝の意を示し、歓迎したいと思って本日お呼びしたのですよ。

 ……そのついでに、私達の息子とペトラ嬢が親しくなれればさらに素晴らしいというだけのことですのよ、おほほほほ」

「そうそう、イヴの言う通りだ! ペトラ嬢と我が息子たちは年も近い。良い友人になれるだろう。

 ついでにその友情が永遠の愛に変わったとしても、我々は大歓迎だというわけだ! ハーッハッハッハッ!」


 お二人のまったく悪びれない態度に、アンジー様は「ぐぬぬ……」と呻きました。


 そしてこっそり、わたくしに耳打ちされます。


「ペトラちゃん、お見合いをしても婚約は無理強いされない雰囲気だけど、ほんとにヤだったら言ってね。あたし、不敬罪で捕まって『幽閉組』になる覚悟は出来たから……! あたしが幽閉されたら、ペトラちゃん、地下牢に黄金のプールを作ってね!」

「黄金のプールってなんですの、アンジー様……」


 黄金のプールって、プールのなかに金貨をぎっしり敷き詰める感じでしょうか。

 前世で「金運ペンダントを買ったら宝くじに高額当選して、美女達にもモテモテ!」という感じの見出しで札束の詰まったお風呂に入っている広告を見たことがありますけれど。あんな感じですか?


 訳のわからない黄金プールはともかく。

 確かに大神殿の神官聖女は、殺人などの凶悪犯罪で死刑にならない限り、捕まっても『幽閉組』になるだけなのだな、と気付きました。

 もちろんアンジー様を『幽閉組』にさせるわけにはいきませんけれど。


「いえ、アンジー様が不敬罪で捕まったら申し訳なさすぎますわ。ご子息とちょっとお話するくらいなら、わたくし平気ですから」

「そーぉ?」


 まだ心配そうにこちらを見つめるアンジー様に、大丈夫だと明るく笑ってみせます。

 見た目は九歳ですが、自分のお見合い問題くらい、自分で上手に回避してみせますわ。


 わたくしの意気込みが伝わったのか、アンジー様は「うむ」と頷き、別室に案内されるわたくしとパーシバル兄弟を見送ってくださいました。


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