表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/121

108:独白(グレイソン視点)

後半にペトラ視点があります。



「ハクスリー公爵が急病?」


 従者から告げられた言葉に、僕は眉間にシワを寄せた。


 数日前から、ハクスリー公爵からの連絡が途絶えていた。本日の面会の時間になっても皇城に現れなかったので怪訝に思い、公爵家へ従者を遣ったが、跡継ぎのアーヴィンに「閣下は急病のため療養している」と言われたらしい。


 この忙しいときに、まったく。だらしがない。急病など自己管理が出来ていない証拠じゃないか。使えない男だ。

 シャルロッテの父親でなければ、急病だろうと這いつくばってでも皇城に来いと言ってやるのに。


「もういい。分かったから、僕の前から下がれ」


 従者を部屋から下がらせ、僕は執務机の上に広げられた書類に視線を落とす。

 シャルロッテの姉との婚約発表について書かれたものだ。

 本当ならこの段取りをハクスリー公爵と話し合う予定だったのだが。


 シャルロッテとの婚姻ではないから、すべてがどうでもいい。

 わざわざ大神殿へ行って婚約書を提出する気もないし、もうすべての儀式を端折って、婚姻だけ済ませてしまいたい。

 シャルロッテとの結婚式ではないなら、婚礼衣装製作や披露宴のメニュー決めといった馬鹿らしいことも、したくないんだ。


 姉ペトラはシャルロッテとまったく同じ薄紫色の髪に銀の瞳を持っていたから、身代わりにするのにちょうど良かった。

 世継ぎを生ませるために抱かなければならないが、あの女ならシャルロッテを腕に抱いているような気分になれるだろう。他家の令嬢を娶るよりマシだ。

 それに姉なら、シャルロッテを寵妃として皇城に入れても、女としての嫉妬をシャルロッテに向けてくることはないと思った。

 シャルロッテも昔から姉を慕っていた。僕の方が嫉妬してしまうほどの愛らしい笑みを、姉に向けていた。

 心を病んでしまったシャルロッテには、姉という慰めが必要だろうとも思ったんだ。


『シャルロッテが何故グレイソン皇太子殿下を認識できなくなったのか、分かる気が致しますわ。ーーーだってあなた、あまりに独り善がりなのですもの』


 あの女が言った嫌みな言葉が、頭の裏にこびりついて離れない。


 僕がせっかく妥協してお前なんぞを娶ってやろうと言うのに、なぜお前なんかに僕の愛を否定されなければならないんだ。


 僕はちゃんとシャルロッテを愛した。彼女の賎しい血ごと、すべてを愛してあげたんだ。

 それなのに『独り善がり』だなどと。僕の努力などお前が知るはずもないくせに!


『正解でもありませんわ。そして二人の間にある正解を、二人で模索しなかった、……いいえ、模索させなかったことが、独り善がりだと言っているのですわ』


 煩い!! 煩い!!! 煩いっ!!!!


 正解ってなんだよ。二人の関係を模索させなかったと僕を責めるのなら、シャルロッテだって一緒に模索してくれなかったじゃないか。

 何が嫌だとか、辛いとか、シャルロッテは一言も言ってくれなかった。シャルロッテは僕のモノなのに、その心を打ち明けてくれなかった。彼女の方がより悪いじゃないか。

 僕だけを責めるのはやめてくれ。


 それにもう、なにが正解だったかなんて、どうでもいいんだ。

 シャルロッテを籠の鳥にすればすべてが解決する。


 君が心の苦しみを僕に何も打ち明けてくれなかったことも、重責に負けて僕のことが認識出来なくなったことも、全部許してあげよう。

 君が僕を見れないのなら、僕が見つめ続ける。

 君が僕の声が聞こえないなら、僕が君の声を聞き続けよう。

 君が傍に居てくれさえすれば、僕はもうこれ以上なにも望まないであげるから。


「……シャルロッテを寵妃にするためにも、早く姉の方と婚姻してしまわなければ。ハクスリー公爵なんぞ居なくても、僕が一人で計画通りに実行してやる」





「ドレス選び、ですか……?」


 レオを皇城の外へ逃がしてから、すでに数日が経ちました。

 わたくしを護衛をしている間ちょくちょく近衛騎士と揉めていたレオが突然不在になったので、皇城の者たちに「彼は現在疲れが出て、部屋の奥で休んでいます」と誤魔化しているところなのですが、それもいつまで持つかは分かりません。


 そんなピリピリした状況のわたくしの部屋に皇城のメイドがやって来たので、ついにレオの不在に気付かれてしまったのかとドキドキしましたが。メイドはまったく別の用件を伝えに来ただけでした。


「ハクスリー公爵令嬢様のドレス選びの為に別室をご用意致しましたので、ご案内させていただきます。なにぶん急な催しのため、既製品のドレスをお直しさせて頂くことになりますが、ご了承くださいませ」

「急な催しとは、いったいなんなのですか?」

「グレイソン皇太子殿下とハクスリー公爵令嬢様の婚約を、上級貴族の皆様に発表するとお聞きしております」


 まずは貴族達に婚約を発表し、それから神殿へ婚約書の提出という流れでしたね。

 きっと婚約書を提出するのは、ラズー大神殿ではなく皇都トルヴェヌ神殿でしょう。わたくしを皇都から移動させるつもりはないはずですから。

 レオがトルヴェヌ神殿に向かったはずですので、あちらの神官様がわたくしの事情をすでに知っていて、婚約書を受理しないでくださるかもしれませんが。

 最悪、神殿側の承認もないままに婚姻を押し進められ、無理矢理世継ぎを生まされて事実上の后にさせられる可能性もあるので、油断は出来ませんね……。


 后教育も完了していないのに、事態がどんどん進行していきます。

 グレイソン皇太子も相当焦っていると考えれば、少しは心が慰められますが、わたくし自身の猶予期間も失われてきているということです。


 レオ、どうか無事に、そして早く、ベリーのもとに到着してくださいますように……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ