近付く復讐の時
シナリオ通りに、フローレンスは前の生と同じように生活する。
気付けばフローレンスは、アカデミーに通う14歳になっていた。ここで、2年間社交界デビューするための淑女教育を受け、卒業後は華々しくデビュタントの一員となる。
アカデミーに入学して早々、フローレンスは大変優秀な生徒だと講師たちは口を揃えて褒め称えた。
といっても、元々優等生であったフローレンスが二度目の授業を受けるのだからそれは当然のこと。ただ、敢えて優秀さを前面に出したのは、理由があった。
それは授業中も手袋の着用を認めさせるため。
デビュー前の女性は普段は素手で生活をする。手袋は一人前の淑女になった証でもあるから。
しかしフローレンスは好成績を収め続ける生徒には、他の生徒と差別化をして手袋をはめさせてみてはと提案したのだ。
レースや絹の美しい手袋は、大人の象徴であり少女の憧れである。それを一足早くアカデミー内で着用できるとなると、より一層勉学に励むことができるという気持ちから。
講師たちはその提案をあっさりと受け入れた。そして、フローレンスを含めた数名が手袋を着用して、授業を受けることになった。
─── それ以外は、最初の生と何も変わらない生活をフローレンスは送った。
身に着けるものは片っ端からリコッタに奪われ、食事中は隣からの不快な食器音に心の中で舌打ちして、目を合わせない継母に気付かないフリをして、父の底なしに要求してくる課題を楽々こなして。
そうしてフローレンスは、二度目のアカデミーも優秀な成績で卒業した。
と同時に、社交界デビューの為の準備に追われる毎日だった。
社交界にデビューする最初の舞踏会は、必ず王城内の一角にある国立ホールでと決められている。
普段は外交の為の夜会や式典に使用される場であるが、この日だけは特別に門を広く開け、白いドレスや新品の夜会服に身を包んだデビュタントを迎え入れる。
当然フローレンスも、真っ白なドレスに身を包んだ一人。そして、彼女をエスコートするのは4つ年上の公爵家の嫡男。近い将来フローレンスの婚約者になるラヴィエルだった。
「見違えたよ、フローレンス。とても奇麗だ」
邸宅の前まで迎えに来てくれたラヴィエルは、ドレスアップしたフローレンスに目を細めた。
「ありがとうございます、ラヴィエルさま」
前回の生とまったく同じセリフを吐いた婚約者に、フローレンスはふわりと笑う。
そしてエスコートする為に差し出された彼の腕に、己の手を置こうとしたけれど、
「……きゃっ─── し、失礼いたしました、ラヴィエルさま」
フローレンスはわざと自分のドレスの裾を踏み、未来の婚約者の胸に飛び込んだ。
「いや、気にしなくていいよ。それより怪我は?」
「大丈夫です。……本当に申し訳ございません。わたくし、思っている以上に緊張しているみたいです」
恥ずかしそうな笑みを作って、ラヴィエルを見上げれば彼は年上の青年らしい笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、フローレンス。今日は私がずっと一緒だから」
「……はい。心強いです。……とても」
頼りがいのある紳士に向け、フローレンスはうっとりとした表情を作る。けれども内心は、
(ふふっ、悔しいでしょ?憎らしいでしょ?……さぁ、もっと欲しがりなさい)
背中に痛いほど感じている義理の妹の視線を感じて、煽るような言葉を吐いていた。