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追想②

 リコッタは母親が再婚する際に、こう聞かされていた。


「これからは大きなお屋敷で、大好きなお父様とずっと一緒に暮らせるのよ。素敵なお洋服も、美味しいお菓子も、何でも買ってもらえるわ」


 母親であるヴェラッザの言った言葉は嘘ではない。


 父親であるアールベンは、月に多くて2度ほどしか会えず、また会えたとしても夕刻には早々に帰宅した。


 それに援助を受けているとはいえ、所詮は平民に対してのお手当てに過ぎない。


 受け取った金の大半は生活費へと消え、物欲が強かったリコッタからすれば到底満たされる生活ではなかった。


 だからリコッタは、再婚する旨を聞いて驚き喜んだ。


 稚拙な表現で言うなら、毎日お姫様のような生活が送れると踊りださんばかりに舞い上がった。


 もちろんヴェラッザは、姉ができることもリコッタに伝えていたけれど、それは右から左へと聞き流してしまっていた。




 そうして始まった伯爵令嬢としての日々は、リコッタからすれば大いに期待を裏切るものであった。


 確かに生活水準は上がった。毎日絹のドレスに袖を通し、香りの良いお茶に繊細な甘さの菓子がいつでも与えられる。


 食事一つとっても、温かいものは温かく、冷たいものは皿まで冷えた状態で、最高の食材を使った料理は「美味しい」という言葉以外で表現できないほど美味だった。


 けれどもそれ以外は、苦痛でしかなかった。


 決められた時間に起こされ、分刻みのスケジュールで覚えたくもない知識を覚えるよう強要される。


 歩き方ひとつ、ティーカップの持ち方一つに一々小言を挟まれ、自分が操り人形にでもなったような気持ちにさえなってくる。


 我慢の限界を迎えて癇癪を起こせば、姉を──フローレンスを見習えの一言で済まされる。


 リコッタは、出会った瞬間からフローレンスのことが嫌いだった。


 父親であるアールベンと会える時間が少なかったのも、欲しいものを買ってもらえなかったのも、お菓子をお腹いっぱい食べることができなかったのも、全部目の前にいる奇麗なドレスを着た少女のせいだと思った。


 そして同じ屋根の下での生活が始まると、ますますリコッタはフローレンスのことが嫌いになった。


 優秀な姉を持つ妹は、理不尽だと思う場面に多々直面する。


 先に素晴らしい結果を出されてしまっているから、どんなに頑張っても良くて普通、少し苦手なものがあれば大袈裟に落胆される。


 しかし、姉が特別なのだと言ったところで、親はそれを認めない。


 特に母親であるヴェラッザはリコッタを過大評価していた。努力さえ怠らなければ、フローレンスより立派な淑女になると信じて疑わなかった。


 けれども、リコッタはどんなに頑張っても普通の枠から出ることができない。しかも努力することが苦手ときているせいで、数年経っても淑女として足りない部分が多々あった。


 さすがにヴェラッザは、そんなリコッタに対し厳しく当たるようになる。無条件に優しかった父すら、行儀作法について苦言を呈するようになった。


 だからリコッタは手っ取り早く、自慢の姉の真似をするようになった。見てくれだけでも同じにすれば、それで良いと思い違いをした。


 それはとても簡単で楽な方法で、努力嫌いのリコッタは、名案だと信じて疑わず───その結果、フローレンスの私物を片っ端から奪うようになっていった。

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