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そうして始まる真っ白な未来①

 廊下を出たラヴィエルはフローレンスを抱いたまま玄関ホールへと向かう。


「あ、あのっ……待って。待ってください、ラヴィ」

「お黙りなさい」


 こんなにも冷たく遮られたのは初めてだ。


 フローレンスはここで彼がとても不機嫌でいることに気付く。


(どうしよう……思い当たることが多すぎて彼が何に対して怒っているのかわからない)


 彼が怒るのは当然だ。むしろ良く自分の復讐に付き合ってくれたと感謝すらしている。


 復讐することばかりに気を取られてしまっていたが、よくよく考えれば、自分は格上の貴族を呼びつけ、目撃者に仕立て上げたのだ。ラヴィエルにとったらいい迷惑だっただろう。酷く彼のプライドを傷付けてしまったかもしれない。


 だからあの場では婚約者としてふるまってはくれていたが、実際は婚約など破棄したいと思っているに違いない。もちろん、それを拒む権利は自分には無い。


 そんなことを考えていても、自分を抱くラヴィエルの足は止まらない。


 すれ違うメイド達はどうしたことだと視線を寄越してくる。でもラヴィエルが醸し出す雰囲気で、皆、頭を下げて道を譲っていく。


「───あの……わたくしを修道院にでも送り届けてくれるのですか?」


 ラヴィエルから断罪された両親は自分を受け入れることはしないだろう。


 そして自分も、もうこの家には居たくない。さりとてラヴィエルを怒らせてしまった今、自分にはどこにも居場所はない。


「冗談なら笑ってあげましょう。しかし本気で言っているなら、今すぐ教会に行って結婚誓約書を書かせますよ」

「……っ」


 苛立ちを滲ませてそう言ったラヴィエルは、フローレンスを抱く腕に力を込める。


「逃げる気があるなら今すぐその気持ちを捨ててください。……私だって貴方に手荒な真似などしたくはない」


 とんでもなく脅し文句に聞こえるが、取りようによってはどんな愛の言葉よりも重く熱い。


 フローレンスは信じられなかった。醜い家族の姿を見せて、しかも彼を利用したというのに、まだ自分を婚約者として扱う彼の気持ちが。


「婚約……破棄はしないのですか?」

「当たり前です。……フローレンス嬢、本気で私を怒らせたいのですか?」

「まさか」

「なら黙っていてください。馬車に乗ったら幾らでもお話ししますから」


 これ以上怒らせないためにも、淡々と告げるラヴィエルの命令をフローレンスは聞かなくてはいけないとわかっている。


 しかしそうもできない。


 なぜなら彼は、自分をバファラ邸に迎え入れる気なのだ。身一つで。


 こんな形で両親と決別してしまった今、花嫁に不可欠な持参金など用意してくれるわけが無いというのに。


「ありがとうございます。ですが」

「……婚約者殿。この期に及んで何か私に言いたいことでも?」


 苛立ちを隠そうとしないラヴィエルにフローレンスはびくりと身を竦ませる。


 でも、どうしたって譲れないものがあり、それはさして難しいお願いではないはずだと確信を持っている。


「馬車に乗る前に私の部屋に立ち寄ってください。母の……たった一つの形見だけはどうしても手放したくないのです」


 ラヴィエルの襟をそっと撫でながら懇願すれば、溜息が降ってきたと同時に彼は進む方向を変えてくれた。

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