義理の妹の最後の悪あがき
宣戦布告を受けたフローレンスはリコッタから視線を外すと、すぐ隣にいるラヴィエルに身体ごと向き合った。
「ラヴィエル様、妹はそう言っております。両親も妹の言葉を信じております。……ですが、ラヴィエル様、貴方の目に映るわたくしは、どうですか?」
悲痛な表情も、哀れな表情でもなく、穏やかな笑みを浮かべてフローレンスは、婚約者に問いかけた。
そうすれば、ラヴィエルは困ったように顎に手を当てる。
「さぁ、そんなことを言われてもわからないな」
思いもよらないラヴィエルの言葉に、フローレンスはわずかに唇を震わせた。
そしてリコッタは勝ち誇ったように高笑いをする。
「あはっははっははは。ほらっ、私の言った通りじゃないっ。ねえ、お父様、お母様、私は被害者よっ。あいつに嵌められそうになったの!!酷いでしょっ」
壊れたように笑い転げるリコッタは、公爵家嫡男の前だというのに、誰がどう見ても伯爵令嬢とはかけ離れた品の欠片もない態度だった。
しかし、それを窘める者は居ない。
「フローレンス、お前という奴はなんてことをしたんだっ」
「ちょっとフローレンス、あなたリコッタに謝りなさいっ」
アールベンもヴェラッザも、この世で最も醜いものを見る目でフローレンスを怒鳴りつける。
しかしここで、ラヴィエルが再び口を開いた。
「ま、婚約者殿が私に対してどんな気持ちでいたって、私はフローレンス嬢を妻にしたいという気持ちは変わりませんよ」
そう言ってラヴィエルは、強引にフローレンスを抱き寄せた。
次いでよろめくフローレンスの耳に唇を寄せる。
「ったく、私の気持ちを試すようなことをするなんて、悪いお嬢様だ」
「……恐れながら、先程のは」
「ああ。秘密主義の君に、軽い意趣返しをさせてもらったよ。悪く思わないでくれ」
「……貴方は、結構良い性格をなさっているのね。……知らなかったですわ」
小声で会話をするフローレンスとラヴィエルは、傍から見たら互いの愛情を確かめ合っているようにしか見えなかった。
そんな光景を目の当たりにして、もっとも憤りを感じたのはリコッタだった。
「ちょっと!!ねえ、これどういうこと!?」
世界中の人間から理不尽なことをされたような顔をしたリコッタは、目を剝いてフローレンス達の元に近づく。
そして寄り添う二人を引き剥がしながら、声を荒げた。
「ちょっと、信じられないっ。どうしてラヴィエル様は私よりこんな奴の言うことを信じるの!?おかしいじゃないっ。私の方がラヴィエル様の婚約者に相応しいわっ」
金切り声を上げながら、リコッタはフローレンスの腕に爪を立てた。
見てくれだけは必要以上に整えるリコッタの爪は、長くとがっている。そんな凶器と言えるそれは布越しであってもかなりの痛みを伴うもの。
しかしフローレンスは顔を顰めながらも、あえて強く抗うことはしなかった。