二度目の死と、復讐の始まり①
ユーナに小さな願い事をしたフローレンスは、それから朝食を摂るためにダイニングに移動する。
既に両親は着席しており、フローレンスは何食わぬ顔をして自分の席に座る。と同時に、給仕メイドが手早く朝食を並べ始めた。
そしてあらかた準備を終えた頃、ようやっとリコッタが姿を現した。
「─── あら、私が最後だったのね?」
定刻より15分も遅れてやってきたリコッタは、悪びれる様子も無く席に着こうとする。
しかしフローレンスが纏うドレスを見て、忌々し気に顔を歪めた。
「ねえ、お姉さま。そのドレス、あまり着ないようにしてちょうだい。すぐに私が着ることに」
「リコッタ、早く席に着きなさい」
諦め悪く、未だにラヴィエルから贈られたドレスを欲しがるリコッタに、継母が尖った声を出す。
「でも、お母様。これ」
「リコッタ、お前にはもっと可愛らしいドレスを贈ってあげるからお座りなさい」
納得できない様子でいるリコッタに、今度は父であるアールベンが心底くだらない提案をする。
物で釣る方法以外、娘を大人しくさせる方法が無いなんて我が父ながら情けないと思うが、フローレンスは困った笑みを浮かべるだけ。
そして、渋々ながらリコッタが着席したと同時に、朝食が始まった。
─── 昨日と何も変わらない風景だった。
リコッタは相変わらずナイフやフォークを不器用に扱いカチャカチャと不快な音を立てるし、好き嫌いもはっきり口に出して言う。それを両親は見て見ぬふりをする。
給仕メイドもリコッタのテーブルマナーの悪さに慣れているようで、カトラリーを落とす度に素早く新しいそれをリコッタの前に置く。
本当に、いつもと何も変わらない朝食風景だった。
そんな中、一人強い殺意を抱えている者がいるなんて、誰も気づかないだろう。フローレンスとて一度目の生では、まったく気付けなかった。
けれど死に戻った自分は違う。不貞腐れた表情を浮かべるリコッタの瞳の奥に切羽詰まった殺意をしっかりと感じ取っている。
(間違いなくリコッタは、今日、私を殺すわ)
はっきりと殺害予告を受けたわけじゃないけれど、フローレンスは予感ではなく確信を持っていた。
朝食を終えたフローレンスは、一度目の生と同じようにバルコニーに直結している居間に移動する。
日差しがふんだんに入るここで、婚約者に贈るハンカチに刺繍を刺すのがあの頃のフローレンスの日課だった。
そして一区切りついたところでバルコニーに出て庭を眺めようとした際に、リコッタに突き落とされてしまったのだ。
無論、復讐の場は自分が突き落とされたこの場所にするとフローレンスは決めている。
そしてドレスの胸元を開けて、隠し持っていたある物を取り出し、然るべき場所に設置する。それが、復讐の最後の準備でもある。
「……じゃあ、始めましょうか」
一度目の生と同じセリフを吐いてフローレンスはソファに座ると、予めテーブルに用意していた手芸箱の蓋を開けて、ゆっくりと刺繍を刺し始めた。