そうして終る、一度目の人生
「お姉さま、死んでちょうだい」
邸宅のバルコニーから庭を眺めていたフローレンスは、そんな物騒極まりない妹の言葉を耳にして驚いて振り返ろうとし……たけれど、ドンと背中に強い衝撃を覚えた。
(……え?)
ふわりと身体が浮いて、何が起こったのかわからなかった。
しかしすぐに、手すりから身を乗り出す妹の姿がみるみるうちに小さくなっていくのを見て、フローレンスは自分がバルコニーから落ちたことを知る。
けれども、驚くどころか無様に自分が落ちていく様を嘲笑うリコッタを見て、フローレンスは落ちたのではなく意図的に落とされたことに気付いた。
(どうして?......ねえ、どうして?)
心の中で呟いたそれは、怒りも、憎しみも、悔しさも、悲しみも無い、至極単純な問いだった。
けれども、その答えは絶対に貰えない。
なぜならフローレンスは、その瞬間に地面に叩き付けられてしまったから。
今まで感じたことの無い強い衝撃が全身を襲う。花壇のレンガの端に頭部が当たり、グシャリと潰れる感触がやけに鮮明だった。しかし、不思議と痛みは感じない。
(ああ、私......死ぬのね)
誰に教わったわけでもないのに、フローレンスは己の死をしっかりと理解した。
ぼやけていく視界の中で、そよ風に揺られるハツユキソウが美しかった。
でも、その一部はきっと鮮やかな赤に染まっているだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、フローレンスはたった18年の人生に幕を下ろした。
......はずだったのだが、気づけば10歳の自分に戻っていた。
それは第二の人生───いわゆる、死に戻りの人生の始まりでもあった。