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9 可愛い、なんて初めて言われた

「ただいま。ねぇ、あの人とパーシーは仕事中かしら?」


「いえ、サロンにいらっしゃいます。……まぁ、ミモザ様、とても素敵です」


「あ、ありがとう」


 出迎えてくれたルーシアが、馬車から使用人によって運び出される箱の山を見た後、私に目をやって驚いたように目を見開いた。


 お世辞じゃない、とさすがの私でも分かる。お化粧を施された顔に、綺麗に整えられた髪型、持っていた中でも一番可愛いドレス。鏡に映った私を見て、私もとても驚いたくらいだし。


 夫人は上機嫌で私をサロンに連れて行った。ルーシアはドレスの片付けを任されて、一礼して下がっていく。


「あなた、パーシー、見て。ミモザちゃん、とっても素敵よ」


 サロンに入るなりの第一声に、伯爵と次期伯爵が振り返った所におずおずと入って行った。


 見慣れない姿を他人に見せるのは、勇気がいる。昨日の地味な私はここにいないので、地味で芋っぽい、という自己評価には守ってもらえない。


 仕方ないので、ぐっと背筋を伸ばして緊張した顔でサロンの中に入った。


 最初に驚いてから笑ってくれたのは伯爵だ。


「とても素敵だ。君にはこういった身形がとても似合うね。可愛らしいよ」


「……」


「パーシヴァル様……?」


 何故だか口元を押さえて眉を顰め固まってしまった次期伯爵に恐る恐る声をかけてしまった。


 伯爵にお礼を言うのが先だったかと後で気付くが、何故かそのままがくりと項垂れて額を押さえている。え、お好みでは無かった?


「ミモザちゃんごめんね。パーシーはね、気に入った物を見ると暫く脳停止するの。ね、あなた」


「すまないね。息子は男の中にいたから女性慣れしていないのもあるが、ちょっと刺激が強すぎたらしい。心の中では可愛いを連呼して声にならないだろうから、晩餐の時にまた見せておくれ」


「お、お褒めにあずかり光栄です……! あの、パーシヴァル様、……また、後で」


「………………あぁ」


 これで一旦のお披露目は終わったので、私と夫人はそれぞれの自室に戻ろうとサロンを出た。


 その背中に「何ですかあれは!」「可愛くしすぎなのでは?!」「王太子殿下にでも目を付けられたらどうするのです!」という、的外れな賛辞が聞こえてきたので、伯爵と夫人の言ったことは間違いがなく、次期伯爵には可愛いと思われているらしい。


 よかった、と思って胸を押さえると、夫人が「アクセサリーや靴を忘れていたわ」と言い出したので、とりあえず今は! と、何とか店に引き返そうとするのを押し留めた。


 私の持っている装飾品は、よく言えば古骨董、悪く言えば時代遅れなものばかりだ。お父様のお母様から譲っていただいた物ばかりである。


 必要だとは思うが、さすがに疲れたので、今日は晩餐まで部屋で休ませてもらう事にした。


(可愛い、だなんて初めて言われた……)


 今まで興味なんてありません、と思ってきた物たちは、実際は私のコンプレックスで遠ざけていた物たちだったようだ。


 明日からも、可愛いと思ってもらえるように、ちゃんと身支度をしようと気持ちを改めた。

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