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8 浅はかな真似(※パーシヴァル視点)

「……やれやれ」


 ミモザ宛に届いたカサブランカからの手紙を読んだ父と私は、母が今日すぐに彼女を外に連れ出してくれたことに感謝するしか無かった。


 まさかこんなに早く、ミモザに対してこのような真似をするとは、と。


 この婚姻はそもそも、私とミモザの婚姻で最初から話は進められている。


 元はカサブランカの予定だった。社交界に顔が利くというのは、近衛騎士団長である我が家の役割として、夜会に出られない以上、必要な能力だからだ。


 だが、その前に身辺調査をしたところ、とんでもない事実が発覚した。ただ、それだけなら他の家から嫁を迎えればいいだけだった。


 そして、ミモザを選んだのにはもう一つ理由がある。それはまぁ、今はいいだろう。


 汚い字で綴られた嫌味にもなっていない罵詈雑言と上からの物言い。こちらが『何も知らない』と思っている浅はかさ。


 もちろん、この話はノートン子爵本人とシャルティ伯爵家の仕込みである。子爵夫人は知らぬ事だが、それも込みでミモザが我が家にくるように『わざと』釣書の絵を子供時代のものにした。釣書の絵など、1日あれば描き上がる。


 第一の目的はミモザをシャルティ伯爵家へ迎え入れる事。


 第二の目的はカサブランカを社交界から一時的に締め出す事。その間にミモザの評価を高くしておく事だが……そこは、ミモザを一番気に入っている母上がなんとかしてくれるだろう。


「今後、カサブランカからミモザへ宛てた手紙は全て私の元へ。ミモザの耳に入れる事も禁止だ」


 執事長が畏まりましたと父に一礼する。


 ノートン子爵とミモザにとって、あの子爵夫人と姉は害毒以外の何者でもない。


 それでもノートン子爵は実の子ならばと……いや、それもまた、今はやめておこう。


 最初に彼女を見かけた時のことを思い出して思わず口が微笑んでしまう。


「男の思い出し笑いは嫌われるぞ」


「いえ、彼女は可愛らしい人だな、と」


「それは認める。性質の良さも伝わってくる、他者に攻撃されても己で消化できる、嫌なことを心の内で乗り越える。……若干の諦めもあるのだろうが、強い子だ」


「見た目や教養は母がどうにかしてくれます。そういった元の性質の良さは……本人が育てる部分ですから」


「我が妻ながら慧眼だ。人見知りとはノートン子爵に聞いていたが、思っていたよりは社交的でもあった」


「ふふ、あの緊張しいな所もいつか無くなってしまうのでしょうか。実に初々しく、愛らしい」


 私の少し意地悪な可愛がり方に、父上が片眉を上げる。


「……あまりいじめるなよ?」


「私は彼女に惚れ込んでいますから、虐めたりはしませんよ。可愛がるだけです」


 父上は諦めのため息を吐くと、少しよく分からないことを言った。


「……お前も、そのうち尻に敷かれるようになる」


 そうなのだろうか? でもまぁ、あのくらいの軽さなら、敷かれてもいいかもしれない。


 私は手紙を証拠として自室にしまっておくために、父上の前を失礼した。

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