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62 旅先とは

 この国は、大陸という大きな土地の中で、細長く伸びた土地の中にある、細長い国だ。


 その位の事は知っているし、四季があるというのもこの国の特徴らしい。北東から南西に向けて伸びる細長い国の三方を外国に囲まれ、一か所は内海があり、そのまま船を使って内海の反対側の国には1日で行けるようになっている。


 外国に囲まれているとは言え、途中途中を高い山に遮られ、道も関所もあるけれど、殆どの国民は国の中で過ごす。決して狭い国ではないし、私たちが暮らす王都はそんな国の中心であり、海に面した貿易港を抱えた大都市だ。


 貿易港も王城もあるだけに、仕事も多いので、必然人口も多くなる。国内の他の都市に比べたらとんでもない人口密集率らしいが、詳しいことは良く分からない。人の数は変動するものだし、それを正確に把握しているのはお城……もっといえば、お役所のお仕事だから、淑女教育でもそこまで詳しくは学ばない。


 そんな国の中心から、パーシヴァル様と一緒に(私は初めて)王都を出て向かったのは東の山間の方角だった。そちらにある直轄地に行くというのだが、どんな場所かはパーシヴァル様は知っていても私の問いには「着いてからのお楽しみ」と言って教えてくれはしない。


「でも、ミモザもきっと気に入ると思う」


「そう、なのでしょうか? 私、旅行は初めてで……父は領地によく戻っていましたが、生活は切り詰め気味だったので私は領地に行ったこともないので」


「尚の事好都合だ。それに、王家の直轄地、その屋敷、その領地というのは素晴らしいよ。それこそ子爵が管理しているものだけれど、今日行く所は領地管理の専門の文官が管理しているところだから、爵位を気にしたりしなくてもいいしね」


「まぁ、文官の方が管理される事もあるんですか?」


「そうだよ。子爵は永続的に、子に継がせてその領地を管理するけれど、文官が管理する場合は半年ごとの交代などを行って、その領地内の税金や公共事業を行う。もちろん、公共事業の決定権はないから、書類を送って陛下が決定される。まさに直轄地だね」


 元の出身が子爵家の私は、同じく子爵が管理している土地の場合少々肩身の狭い思いをするかもしれない、と思っていたので少しだけほっとした。


 それにしても、一体何がどう私が気に入るというのだろう。こうして王都の外に出るのも初めてだし、デートをしたのも街中だけで、外で私が気に入った場所と言えば本屋や刺繍糸を売っているお店、図書館に行く前に新刊をパーシヴァル様に買い与えられてしまうようになったけれど……。


 私は旅先がどこかは知らないまま、それでも王都から出て変わった景色に瞳を輝かせて外を眺めた。


 見た事も無い、小麦の黄金の波間。牧歌的な風景に、ところどころ並ぶ小さな集落。可愛い屋根の大きな樹の下にある白い家。


 ここにも生活があって、私はこの景色は想像の中でしか知らない。


「わぁ……」


「もう気に入った?」


 歓声をあげて窓に張り付いていると、くすっと笑ったパーシヴァル様に尋ねられる。


「はい、とっても素敵ですね……!」


「それはよかった。きっと、目的地まで退屈しないから、たくさん窓の外を見ているといいよ。ただ、窓を開けるのは危ないからダメだからね」


「危ないんですか……?」


 何がだろう、と思って首を傾げると、パーシヴァル様は窓に額をくっつけるようにして道を指差した。


「ここは街道だから、馬車がすれ違うことがある。この馬車のように並足がほとんどだけれど、急いでいる馬車とすれ違うこともあるから、窓の外に手や顔を出すと危ないよ。だから、ガラス越しで我慢して欲しい」


 それは確かに恐ろしいかもしれない。今はすれ違ったりはしないけれど、急に馬車が横を通りすぎたら絶対にビックリして固まってしまう。


 私はパーシヴァル様の注意に真剣な顔で頷くと、彼はまた少しおかしそうに笑って、ほら、と窓の外を指差して遠くに見える稜線から続く、きらきらと日差しを浴びる川を見せた。


 私はそれですっかり誤魔化されてしまい、結局、今日泊まる予定の街に着くまで窓の外に夢中になってしまった。道中読むために持ち込んだ本は、ずっと私の座席の隣で閉じられたままだった。

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