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61 旅行準備

 翌日から一月という期間の旅行に向かう為に、持っていく衣服や靴、他にも様々な小物を用意しようと侍女たちと複数の旅行鞄を広げていたのだが、それを見たお義母様が驚いた声をあげた。


「あらぁ、こんなに……どうしたの? もしかして、パーシーから何も聞いてない?」


「え、えぇ、はい。あの……一月の旅行ですので、洗い替えするにしても着替えや靴を色々ともっていかなければいけないかと……」


「そんなに要らないわよ。行きの道中の着替えだけで充分だから、そうね、何かあった時の分を考えても一週間分でいいわ」


 お義母様の言葉に驚いて手を止めた私と侍女たちが顔を見合わせる。


「どういう、意味でしょう……?」


「だって、王家が別荘を『貸し出す』のよ。王家が家臣のために衣類から食事まで全て用意するわ。それに、どこに行くかパーシーは言わなかったでしょう? つまり、向こうの地形や気候に合わせたものが既に今、ミモザちゃんとパーシーのサイズで用意されているわ」


「え、……っと、その、衣類や靴やらは、その後は……」


「もちろん、下賜されるわ。クローゼットの隙間を作る必要はあっても、旅支度はそんなに頑張らなくても大丈夫よぉ」


 頬に手を添えてにこにこと笑うお義母様に対し、私はひきつった笑みで身体から血が引いていく感覚にふらつくのをなんとか立たせておくことで精いっぱいだった。


 お義父様のお話では、確かに今後長い休みも取れなくなるだろうし、忙しくもなるだろうけれど、まさか好きな直轄地を『貸し出す』という言葉の中にそんな意味が入っているだなんて少しも思わなかった。


「ど、どうしましょう……わ、私、わた……えぇ? あの、余りにも豪華すぎる副賞では、ないでしょうか……いえ! あの、パーシヴァル様が頑張ったことに対しての対価としては、も、もちろんそうなのですが……私は、何もしていないのに……まさかそんな……えぇ……?」


「ミモザちゃん、落ち着いて。さぁソファに座って、ね」


 お義母様に言われるまま長椅子に座った私の両手を、お義母様が優しく握る。


「あのね、これは王室の権威を示すためでもあるのよ。近衛騎士という王家と、国を背負った最も誉れ高い騎士団の、年に一度の催しの優勝者を労う。それは、王家から近衛騎士団への信頼の証。これを受け取らないというのは、王家からの信頼を受け取らない、ということになってしまうわ。それは、ミモザちゃんにとっては大きなプレッシャーかもしれないけれど……パーシーは受け取るのだし、一緒に受け取ってあげてくれないかしら」


 言われていることには納得もいくし、そういう見方をするなら私がここで「身に余る光栄に過ぎて頂けません」などとは間違っても口にできない。誰に聞かれてもまずい、これは不敬罪にすらあたる。


 何より、王妃様からの信頼を受け止めないというのは私に無い選択肢だし、これが一番大事なことだが、パーシヴァル様の何かを損なうような真似は私はしたくない。


 一緒に背負って欲しい、と言われればもう、それを拒絶する理由も気持ちもなく、私は体に血を巡らせるために深呼吸するとお義母様の瞳をまっすぐ見詰めて頷いた。


「わ、わかりました。あの、パーシヴァル様の妻として……がんばり、ます」


「そんなに緊張しないで。おもてなしを受けるだけよ、それに大半は2人きりでのんびりできるわ」


「そうですよね、のんびり……しに、行くので……はい。パーシヴァル様と、のんびり思い出を、作ってきます」


「そうよ、その意気よ……! だから、行くときの着替えだけ選びましょう。道中も旅は楽しいものよ、ミモザちゃんは何も考えずにパーシーとの新婚旅行を楽しみにすればいいの」


「わ、わかりました……!」


 とても楽しむ、という顔ではない決意に満ちた顔で拳を握って頷いた私に、お義母様は苦笑を零すと荷造りを手伝ってくれた。馬車での長旅になるのは避けられないので、コルセットを締めないワンピースやスモックにスカートという恰好を勧めてくれた。


 侍女たちとお義母様と一緒に馬車の旅にだけ思いを馳せていたけれど、果たしてどんな場所に行くのかはやはり気になる。パーシヴァル様に聞いてもきっとここまで秘密にしていたのだから、教えてはくれないだろう。


 だとすれば、もうこちらで用意することの無駄を受け容れるしかない。砂浜を歩くのに山歩きをするブーツは不向きだし、都会を歩くのにサンダルは品に欠ける。


 どんな場所で、どんな風にもてなされるのかが楽しみになってきたのは、旅行鞄2つに荷物を詰め終わった頃で、私はそんなに手回しがいい王妃様(と、お義母様)がもう一つ準備していることなどこの時は全く知る由もなかった。

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