54 第一試合のパーシヴァル様
「えっと、30名ということは、最初は15試合あるのですか?」
「そうよぉ、ほら、これが組み合わせ表」
手元にあった紙に気付かなかった私は、お義母様に勧められるまま一枚の紙を手に取った。
一番初めの試合がパーシヴァル様で、私は驚いて目を見開いて固まってしまった。
あのお義父様の迫力を受けて、すぐの試合がパーシヴァル様の試合だなんて心臓がもつかを真剣に心配してしまった。
そして、一番最後の試合にフレイ殿下の名前がある。なるほど、これは確かに決勝まで当たらないはずだ。
「1試合5分で、延長はないわ。決着がつかなければ、どれだけ相手に打ち込んだのか、真剣ならば本来どうだったのか、という判定が行われる。武闘大会は近衛騎士団の中で、志願しただけでは参加できない。志願者を推薦する人が必要なの。だから、パーシーは出場できる、とちゃんと推薦されている。簡単には負けないわ、心配しないで」
「は、はい……っ!」
私は胸元で手を祈るように組んで、強く握った。
またラッパの音が鳴る。鎧姿でも分かる、左手から入って来たのがパーシヴァル様だ。
右手からは同じように鍛えられた体躯の騎士が入ってくる。パーシヴァル様が見た目には少し薄いような気がするが、身長は同じ位だろうか。同じ紋章を胸に刻んだマントの無い騎士同士が、コロッセオの中心で向き合うと歓声があがった。
その歓声も気にならない。パーシヴァル様は前だけを見ている。私がここにいる事も分かっているだろうけれど、それはきっと今のパーシヴァル様の頭にない。
ただ、目の前の相手を倒す。それだけを考えているのが、分かる。
互いに剣を鞘から抜き、それぞれに構える。パーシヴァル様は片手で剣を構えて、刃と身体が一直線になるように横に身体を開いて構えている。
対して相手は、剣を引いて逆の手を拳にして前に構えている。
私は戦いに関しては素人もいい所だ。フィクションでしか知らないが、この構えがいったいどういう風に有利でどういう風に不利なのかも分からない。
『見ていて』とパーシヴァル様は言っていた。私は、一瞬も見逃さないように息を呑み瞬きを忘れてパーシヴァル様だけを見詰めていた。
歓声で聞こえなかったが、審判のような人がはじめ、と言ったのだろう。
パーシヴァル様と、対戦相手が、一斉に距離を詰めるように動いた。
相手の拳がパーシヴァル様の兜に向って殴るように迫る。見ているこっちが悲鳴をあげたくなるような速さだ。
パーシヴァル様は構えの時からそれを読んでいたのだろう。危なげなく避けたが、その先に相手の剣が突きを繰り出している。悲鳴を堪えるために自然に口元を手で押さえたが、パーシヴァル様の方が一枚上手だったようだ。
剣を体より先に構えていたパーシヴァル様は、避ける動作と同時に相手の兜と鎧の隙間すれすれに剣を突き出していた。
相手の剣が体の後ろから突き出された時には、パーシヴァル様の胴に剣が届く前に、相手の兜をパーシヴァル様の剣が大きく弾き飛ばす。それに驚いて、相手は体勢を崩し尻もちをついた。
「勝者! パーシヴァル!」
試合の間、観客の誰もが息を呑んでいた。一瞬で勝負がついたが、その一挙手一投足を皆が固唾を飲んで見守っていた。
その静寂に審判の声が掛かる。
大歓声の中、パーシヴァル様は剣を納めて相手に手を貸している。
暑いのか、兜を脱いだパーシヴァル様は、やっと私の方を向いて笑顔で手を振ってくれた。
私は、涙目になりながら、この恐怖ともちがう心臓の煩さと目の奥が熱くなる感覚に、こくこくと頷くことしかできなかったのだけれど。




