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53 大迫力のコロッセオ

「う、わぁ……!」


「すごいでしょう? 王都以外からも家族の応援だとか、人がとっても集まっているのよ」


 私とお義母様はパラソルというよりも、厚手の布で作った天井の下に置かれたふかふかの長椅子に座っているが、正面を見れば、確かに麦わら帽子等で日よけをしながら野ざらしの作り付けの座席に座る平民の姿が見える。


 どうも、円形のコロッセオの貴族側の入り口は見学人数は決まっており、それに合わせて特設された席らしい。円形なので地続きかと思えば、貴族側の席の両側には片方にお手洗いが、反対側には冷たいお茶を共するための場所が設置されており、平民とはあくまで隣接しないようになっているようだ。


 これだけ日よけされ、冷たいお茶と少し塩味の効いたビスケットを用意されていても、コロッセオを包む熱気に当てられる。涼しい素材のドレスで来たものの、もう少しコルセットは緩めにしてもらえばよかったかもしれない、と思う程だ。


「具合が悪くなったらすぐに言うのよ? ちゃんと救護室もあるからね」


「はい……、いえ、でも、私はパーシヴァル様に見ていてと言われたので。大丈夫です」


 これだけの熱気と日差しの下で、近衛騎士の人たちは鎧を着て剣を打ち合う。


 パーシヴァル様も変わらない。これだけ気を遣われてもてなされている私が、見ていて、というパーシヴァル様の言葉を裏切るわけにはいかない。


 私とお義母様が座って間もなく、高らかなラッパの音が鳴った。


 コロッセオの中心に立ったのは、近衛騎士団長のお義父様だ。鎧姿に、お義母様が刺繍したマントを翻して歩いてきた。


 その気迫は、こんなに遠くにいるのに、私にまで届く。


 コロッセオの向かいに座っている平民たちの騒がしい声も、何の声も発さずとも消えていく。針を落としても音が聞こえそうな程静まり返ったコロッセオの中心で、お義父様が剣を引き抜き天に掲げる。


「我々近衛騎士団は、王室を守ることで国を守る騎士団である! 一度戦となれば辺境にでも派兵されよう! 厳しい訓練を潜り抜け、今日30名の騎士たちが剣を交え、己の誇りと命を賭け、栄誉ある騎士団の力を皆の目の前に示す! 全ての騎士への敬意を、身分の上下を問わず私は求める! どんな職であろうと、共に国を守る同胞(はらから)として! 先鋒を切り、殿を守る近衛騎士団の鍛錬の成果をどうか見守りたまえ!」


 そうして剣を胸元に構えたお義父様……いえ、近衛騎士団長は、私たちの上の方に座っている国王陛下と王妃殿下に向って忠誠を誓う礼をした。


 これだけでもう、私の心臓はドキドキとうるさい。これが数多の兵を率いる人の迫力で、口上で、まるで私まで兵の一人になったかのように気分が高揚する。


 お義父様が剣を鞘に仕舞い、深く一礼をしてから捌けていった。この後は、陛下と王妃様の近くで見学するらしい。


「……お義父様、すごい迫力でしたね」


「そうなの、とってもかっこいいでしょう? ……本当に……、素敵な人なの」


 俄かに盛り上がり始めた会場の中で、お義母様に顔を寄せて小さく囁くと、いつも飄々としたお義母様が複雑そうな顔で、それでも微笑んでお義父様が立っていた場所を見詰めながら呟く。


 戦場にいるお義父様の姿をきっと想像したに違いない。私でさえ圧された、強いプレッシャー。命を賭ける、愛しい人の姿。


 剣の刃は潰してあるという。それでも、お義父様の口上だけでも、戦う人の迫力というものをその身に感じる。


 パーシヴァル様も、いずれあのようになろうと頑張っている。そして、今も。


 誇りと命を賭けて……武闘大会だ、本当に命を奪われる事は無いだろうけれど……今から戦いが始まる。

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