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5 伯爵夫人の罠

「さ、ドレスは2着だけ残して捨てましょうね!」


 朝の支度を終えて朝食後、我が家から私の私物が積まれた馬車がやってきた。


 元々本の方がドレスの数より多い私に対して、夫人が笑顔で言い放ったのが先の言葉だ。


 薄水色と白で整えられた部屋の中には、最初から白くて大きな扉付きの本棚があり、本は全てそこに仕舞われていく。ちゃんと作者順、出版順に並べていく侍女の手際がすごい。


 その間、届いた私の衣類を見てにこやかに言い放ったのが夫人のさっきのセリフである。


 おのれたばかったな! とまでは言わないが、私は服に拘りが無かったせいで昨日のような地味なドレスばかり持っているのも事実。


 次期伯爵夫人になるなら、夫となる次期伯爵に恥をかかせない格好は確かに大事だろう。


 私の服装から、夫人はそれを即座に見抜いたに違いない。もう40も近いだろうに、若々しく綺麗でお洒落な夫人にとって、私の所持している服の見当など容易くついたに違いない。


 ベッドやソファの上にドレスを並べてみると、あらどうでしょう、この部屋の内装に見合わない地味な色と古い形のものばかり。


「そうねぇ、午後から買いに行って、それにオーダーメイドも合わせて、一応の着替えとして2着とは言ったけれど……」


 悩ましげに頰に手を当てて考えている。


「え、っと……誰のドレスを、午後から買いに?」


「ミモザちゃんのよ。だめよ、若いのは一瞬なんだから! たくさんお洒落しないと! あとはお化粧品と、美容院にも行きましょうね」


「う、は、はいっ!」


 先程、恥をかかせないためにも、と思ったものの、私のため、と言われてしまうとなんだか申し訳なさが先に立つ。


 私なんかが着飾ったってお母様やお姉様のようにはなれないのに、という……根っこに染み付いたコンプレックスが滲んでしまう。


「ねぇ、このライラックのドレスは素敵よ。あとこの、パステルイエローのドレスも。下地に花柄が入っていて可愛いわ」


 持っている中でも私が殆ど袖を通さなかった、よそ行きの2着を残し、あとは色合いや形に問題はあっても縫製や生地はよく手入れもされていたので孤児院に回しましょう、となった。


 そうして私のドレスの大半とはさよならすることとなり、私は夫人にパステルイエローのドレスを着せられ、午後から街へと繰り出すことになった。


 私が街へ行くなんて、本を買いに行く時くらいなのに!


 夫人の優しいが有無を言わせない笑顔の前では、私はただ馬車に揺られてついて行くしかできなかった……。


 伯爵夫人、恐るべし……!

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