45 女の戦い・1
お義母様の功績については、まだ家族にも秘密にしておくべきだという事で(お義父様もパーシヴァル様も内政方面は門外漢で、関わる事があるとすれば護衛が必要になった時だという事だった)、私とお義母様は家でこっそり笑い合う事が増えた。
次の王妃様の招待は2週間後、充分に準備ができる。お義母様とお茶をする、という体で私もそこに呼んでもらう手筈だ。「愚息の非礼を謝りたい」とも付け足されていたが、なるほど、ちゃんとパーシヴァル様は王妃様に報告が上がるようにしてくださったし、王妃様自身も王太子殿下を叱りつけてくれたようだ。
私は、他の方々がそこまでしてくれたのなら、身分も伯爵家の嫡男の嫁というものだし、王太子殿下の明らかな戯れに対して仕返しをするというのは違うのかもしれない、と少しは思った。
パーシヴァル様には見学してもらうつもりで日程はお教えしているけれど、それは、半分側で見て居て欲しいという気持ちがあるからだ。
怖くないと言えば嘘になる。あの時も、とても怖かった。
けれど、思う。大事に大事にされているだけで、私が私の為に怒らない、戦わないのは、大事にしてくれた人に申し訳ないことだと。
『ミモザちゃんに私愛されてるわ事件』としてお義母様が喜んでくれたように、私も周りの大事にしてくれる人に喜んで貰いたい。何故か目を掛けてくれている王妃様や、お義父様もだし、お父様も、夜会で庇ってくれたメディア様も……何よりも、パーシヴァル様に。ちゃんと、私は大事にされていることを自覚していて、その為に戦えます、と示さなければ、と思う。
大事にされるだけが女性の役目ではないと、王妃様の最初のお茶会で知った。いいえ、お義母様はアレックス・シェリルとして本を書いている。あれだって、自己表現という戦い方で、ファンがいて、あぁいうものも……女の武器なのだと教えられた。
私が持っているのは刺繍と、そして、嫁入りしてすぐにさよならした過去の私。それは繋がっている。
お義母様と、明日は買い物に出かける。私の武器は頼りないし、情けないけれど、他人から見出されて磨かれた私が武器だ。
(言葉にしたら不敬罪だろうけれど……あの失礼な王太子殿下には、ちゃんとご挨拶しなければいけない)
パーシヴァル様が見たらぎょっとするだろうか。それでも、私は、その時の私でもパーシヴァル様は迷わず手を取ってくれると信じている。
明日からの準備に備えて、今日はもう寝る事にしよう。パーシヴァル様も夕飯の後、激しくなっている訓練で湯浴みをしてすぐ眠ってしまうし。
今のうちに、きっちり片を付けてパーシヴァル様の応援に専念したい。
心がすっかり臨戦態勢に入ってしまった私は、落ち着くために、パーシヴァル様が書いてくれた紙片を枕の下に敷いて眠った。




