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43 拗らせた幼馴染

 その日の夜、きっと疲れて眠いだろうに、パーシヴァル様が寝間着にマグを二つ持って、部屋を訪ねてきてくれた。


 ソファに並んで座り、定番になったカモミールティを飲みながら、パーシヴァル様が改めて幼少期の話をしてくれる。


「君には怖い思いをさせてしまって本当にすまないと思っている。フレイ殿下は1年前まで海外にいらして……戻ってからも外交関係の仕事を中心に任されていたから、紹介する暇も無かった。まぁ、紹介するのはもっと落ち着いてからでいい、という気持ちもあったんだけど……」


「あの……お友達、なんですよね?」


 王太子殿下をフレイ殿下、と名前で呼ぶくらいには親しいようだけれど、執拗に幼馴染という言い回しをするので、確認してみた。


 マグカップに口をつけて蜂蜜の甘さが溶けたカモミールティを一口飲むと、パーシヴァル様は少し考えるようにして視線を遠くに投げる。


「友達……、では、無いかな。少し自信過剰なことを言うならば……向こうが私をライバル視しているんだ」


「殿下の……ライバル、ですか?」


「そう。小さいころは私はまるまる太っていて、勉強はまぁできたけれど、運動の面では素早さは無かったし、見た目も好かれるようなものではなかったし。家系として、そういう鍛え方、育て方、という方針だから我慢できたけれど……罵られることも無くはなかった。が、騎士団に入ったら今度は身体づくりの第二段階だ。私は痩せて、そして背もフレイ殿下を超えたからね。その頃から、ライバルというか……何かと勝負を仕掛けて来るというか。ちょっかいをかけてくるというか」


「……不敬罪を承知で申しますけれど、大変迷惑なのでは?」


 パーシヴァル様は、殿下の事を賢く聡明と言っていたけれど、本当なのかしら、と私が眉を寄せたのを見て、パーシヴァル様は面白そうに笑った。


「私以外に実害は無いからいいんだ。それに、別に圧力をかけて来るとかではないし、コテンパンにのしても懲りずに勝負を仕掛けて来るところは愛嬌だと思う。実際、守られるばかりの王というのはいただけないしね。とはいえ、護衛の関係上いずれは剣の腕では私に適わないと思い知って頂くつもりで……まぁ、それが今回の武闘会なのだけれど。しかし、政治方面に優れ、外国の事情を肌で感じて理解し帰って来た殿下は、それなりに優秀に働いている。海千山千の貴族の中で、私と同い年の青年がと思えば……賢い方だと思うし、聡明でもあると思う。今の所、若さに任せて怒鳴り散らしただとか、権力を笠に着てどうという話は一つも耳に入ってこない」


 そう聞くと、たしかに賢く聡明な方なのだろうとは思う。


 小さいころには見下していて、今後はその見下していた相手に守られるというのが、情緒の面でうまく育たなかった部分なのだろう。それを周りに当たり散らさずに、パーシヴァル様が拒否しない範囲で、勝負をしかけて負けることで自分を納得させようとしている……と思えば。


 別に、王室の方が完璧な存在ならば、貴族は皆子爵でいい。そうでないから、力を持った貴族というのがいるのだし、近衛騎士団長の肩書で伯爵以上の爵位を授けられれば、王侯貴族社会のバランスも崩れるだろう。


 そして、パーシヴァル様はいよいよ、国王陛下と王妃殿下、そのほか衆人環視の元で、王太子殿下を負けさせるらしい。守るべき人を相手に戦って勝つ……ある意味、近衛騎士団長の座には必要な能力かもしれない。いざという時に……戦闘面で、自分の命に従ってくれない護衛対象など、危なっかしい。


「けれど、今回の冗談は少々行き過ぎですので、私は私なりに仕返しをしてきます。パーシヴァル様の名誉を傷つけることはありませんので、ご心配なく」


「……母上と何か企んでるらしいとは聞いたけれど、私にも内緒かい?」


「そうですね……その日が決まったら、お知らせします。その時には見学に来てくださってもかまいませんよ」


「……助太刀ではなく?」


 私は温くなったマグの中を半分程飲むと、満面の笑みでパーシヴァル様を見つめた。


「女には、女の戦い方があるんです」


 そう宣言すると、パーシヴァル様は目元を覆って天井に顔を向けた。いつもの脳停止だ。危ないので、私は自分のマグをテーブルに置いたあと、パーシヴァル様のマグもテーブルに置いて、空いた手を両手でそっと握り締めていた。

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