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33 まさかのウエディングドレス

「ミモザちゃん~! ウエディングドレスができたの、ちょっと試着してみてくれない?」


 それはある日の昼下がり、結婚式の準備で忙しくしていた夫人からの唐突な提案だった。


 私はといえば、式と披露宴の出席者の名前と貴族名鑑を突き合わせて覚えるのに必死な所だったのだが、急にウエディングドレス、と言われて、結婚というのが社交行事ではなく自分の一大事だとはっとした。


 ウエディングドレス……ドレスを買う時に私の採寸は済んでいるし、完全にお任せにしていたけれど、一体どんなものができてきたのだろう、と緊張した。


「は、はい!」


 夫人に答えると、部屋の外にいた侍女が2人掛かりで大きな箱と、他に靴の箱や装飾品の箱を持ってきた。もう一式出来上がっているらしい。


 私は自分の服飾のセンスには一切の自信が無いのでなんら問題が無く、夫人に任せておけば大丈夫、という気持ちでいたので純粋に箱から取り出されるドレスが楽しみだった。


 そうして出て来たのは、まっさらなプリンセスラインのウエディングドレス。パフスリーブで肩が柔らかく膨らんでいる。式は秋口なので長袖だが、袖口まできっちりと綺麗に作られている。襟ぐりは開いていて宝飾品を目立たせるのだろうが、下品な所は一切ない。


 ただ、少しだけ首を傾げる思いだった。生地も縫製もしっかりしているが、装飾が一切ない。ただの真っ白なドレスで、地味な私が着たら本当に地味なウェディングドレスになりそうだなと思った。


「ふふふ……、これはね、ノートン子爵がずっと娘2人分と貯めていたミモザちゃん用のウェディングドレス代で造ってもらったの。デザインは私、これにね、ミモザちゃん、刺繍しましょう」


 私はまず、お父様が私のウェディングドレス代を貯めてくれていたことにビックリした。カサブランカの分は……もしかして、浪費代の半額、その上ドレスや宝飾品をそのまま持ち帰らせた、というのは、お父様の情なのだろう、と思う。


 朝から晩まで、休む日も無くずっと働きながら、ちゃんと家族の望みは叶えて、その上貯金していてくれたのだと思うと、目頭が熱くなった。


 宝飾品や靴は伯爵家が用意してくれていて、豪奢というよりも華奢な装飾を連ねて繊細で大きなアクセサリーにしているので重たさは無い。


 この定番のドレスに、私が針を入れる……どんな意匠がいいだろうか、と思うけれど、自分のイメージで刺繍をしたことはそういえばなかったなと思う。


 イメージする程自分というものを意識してこなかったし、未だに自分がどんな人間なのか分からない。


 でも、刺繍は……私が唯一人に贈り物として渡せるものだ。自分のドレスに刺繍するのを恥じるのなら、贈り物にはできない。


「わ、私……やってみます。時間も無いので、さっそく取り掛かります」


「出来上がったら一番に見せてちょうだい。そうそう、ドレスは式本番までパーシーに見せられないから、立ち入り禁止にしておくからね。存分にやって頂戴」


「はい!」


 お茶目に笑ってウインクしていった夫人と侍女たちを見送り、私は針箱を開いた。刺繍糸を色々と合わせてみるが、ウェディングドレスを派手な色で刺繍するのはもったいない気がした。


 悩んだ末に、侍女を連れて、私は糸を買いに行くところから始めた。

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