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24 夜会前夜

 カサブランカに書いた手紙の返事はすぐに届いた。


 私は今までの手紙の内容には触れないように『お姉様、体調はよろしいの? こんなに手紙をくださって嬉しいわ。今度、大きな夜会が王城で開かれるらしいのです。伯爵は近衛騎士団長として警備に当たられますが、私が結婚するパーシヴァル様と一緒に出る初めての夜会です。もし、お体の調子がよろしいようなら、招待状を送りますのでお返事をください』と書いて送っただけだ。


 内心、私がカサブランカからの手紙で落ち込んでいたり、白豚な次期伯爵との『みじめな』結婚に落ち込んでいながら強がっていると思っているのだろう。


 だが、姉がまさか手紙でシャルティ伯爵家を敵に回し、ノートン子爵家の情報の脆弱さを物語るような恥を喧伝してまわっているとなれば、もはや時期を早めるしか方法はない。


 パーシヴァル様と結婚してから父親は別れを切り出す気だったのは、私が結婚するまでシャルティ伯爵家にとっても傷となりかねない事実を先に公表したくなかったからだろう。もっと身分の高い方からの婚約の申し込みなど山ほど来ているはずだ。ロートン伯爵令嬢のように。


 夫人もパーシヴァル様自身も、私を選んでくれた。伯爵は身辺調査をしたうえで、私を嫁にもらう決意をし手を回してくれていた。


 まさかカサブランカに変な誤解をされるとは思わなかったのは、私と父と伯爵家のだれもがそうだったに違いないだろう……、婚姻前に動くのは怖くもあるが、私は今更パーシヴァル様以外とちゃんと政略結婚でも結婚できる気がしない。


 見た目がいいからじゃない。私を見て、私もパーシヴァル様を見て、知り合ってしまったからだ。まだ清い関係であったとしても、お互いにきっと……強く後悔する。……と、思う。パーシヴァル様の心までははっきりとは分からないけれど……少なくとも、気持ちが無ければ午後一杯の時間を私の言動で無駄にする程の方では無い筈だ。


 そんなこんなで、王室主催の一番近い隣国の大使を迎える夜会が明日に迫っている。もちろん、カサブランカからは是非行くわ、と返事が来た。きっと、お父様もお母様も来るだろう。


 隣国の大使がいる眼前でこの国の末端の貴族とはいえ、恥をかかせる真似はしたくない。夜会ではパーシヴァル様を紹介するだけにして、後日話し合おうという事には伯爵とお父様の間ではなっている。


 ドレスも夫人が素敵なものを用意してくれた。ダンスや礼儀作法、姿勢の矯正も頑張った。私にできるのは、明日の夜会でパーシヴァル様の隣で恥ずかしくないように堂々と立っている事だけ。


 それでも不安で寝付けない。明日は朝から準備をするというのに。


 深夜だというのにノックの音がした。私は驚いて扉に近付くと、足音を聞いたのか扉の下から紙が差し込まれた。


 不思議に思いながら中を開くと、そこに書いてあった文に、私は泣いていいのか笑っていいのか分からなくなった。


 『騎士は守る者がいる時、それがどんな場であれ、どんな苦境であれ、手の中に剣が無いとしても、心に剣を持っている。守る者がいるから、心に剣を抱ける。一人では騎士ではあれない、どうか側に。』


 私が勧めた女騎士の物語の、随分後半の方の引用である。


 男らしくも綺麗な流れるような字で綴られた一文に、パーシヴァル様を感じて嬉しくなる。


 騎士として私を守ってくれる、でもそれは、私がそこにいなければできない。


 ならば、私は恐れずに明日の『社交界』という戦場に挑もうと思う。


 温度の無い筈のその紙がとても暖かく感じられて、私はその紙片を抱いて眠りについた。

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