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22 いや、やっぱりパーシヴァル様は可愛い(再確認)

 セルクセス書店で結構な量の本を買ってしまった。それを二重にした紙袋に入れられ、パーシヴァル様は片手に軽々と持っている。


 私なら両手で抱えて帰る量だけれど、図書館で借りた本でも面白くて、でもお小遣いでは手が届かなかった泣く泣く諦めた本も、今はパーシヴァル様の手にある。お金は気にしなくていいから、とおすすめを紹介させて貰えたのは嬉しいけれど。


 引きこもってばかりだったから、同じ本を誰かと共有できると思っていなかった。さすがに男性にロマンス小説は避けたけれど、それでも面白い本は沢山ある。


「あの……全部、おすすめなので、……お忙しいとは思いますが! その……、息抜きにでも読んでくださったら、……感想が聞きたいです」


「もちろん、全部読むよ。君のおすすめは本当にどれも面白そうだと思ったから買ったんだ。必ず感想を伝えるからね」


 ホッとしてパーシヴァル様を見上げたまま、抱かれた肩の力を抜いて微笑むと、ギクっと手が強ばるような感触がした後に横を向いて深呼吸している。


 脳停止しかけましたか? しかけましたね? が、ここは問い詰めない。言動が止まらないだけ頑張っている。その調子ですよパーシヴァル様!


「意外と時間を取ったし、お昼を食べに行かない?」


「はい。……あの、私はアテが無いんですが」


「大丈夫。昨日すぐに使用人に聞いて……あ。コホン、知ってる店があるから」


 赤い顔で咳払いをしても、しっかり聞いてしまいましたが。


 どうしよう、やっぱりパーシヴァル様は可愛い。見た目や所作はとてもかっこいいのに、本当に……撫でたくなってしまう。でも、殿方の髪に往来で触るのはダメかな。


 うずうずしてしまうけれど、ドキドキもしている。知らない感覚が私の中で渦を巻いていて、なんだか私まで照れてしまった。反面、少し大胆にも。


「では、あの……そのお店まで、手を繋ぎませんか?」


「! もちろん、喜んで」


 弾けるように笑って肩に置いてあった手が私の手を握る。普段は剣を握っている硬い手が、私の手を優しく握る。その温かさと優しさが嬉しい。


 ランチのお店は今の私たちの姿でちょうどいい、令息令嬢も使用人がお洒落して入るのにもちょうどいいカフェだった。


 テラス席に通され、荷物置きの籠に買ったばかりの本を置くと、向かい合って座った私たちは各々メニューを見て、私はオムライスに、パーシヴァル様は意外と……というか騎士だとこの位食べるのかな? という数のメニューを注文して、出てくるのを待った。


 ふと、さっきチラリとアレックス・シェリルの本に目をやった時のパーシヴァル様を思い出す。昨日釘を刺されたことといい、唐突に手を握ってきた辺り、もしかして、と思って聞いてみる。


「あの、パーシヴァル様……、間違っていたらすみません。夫人が先日の晩餐で話した話……」


 と、そこまででほぼ確定だ。赤い顔を逸らして、口許を手で隠している。


 この人、自分のお母様に嫉妬してる。


「……そうだよ。私は君に紅茶をかけるなら私に、なんて言わせたい訳じゃない。その代わりに筆を折る、なんて宣言もしない。私は代われるなら君のために紅茶を被るし、王室を守り王都や国が平和であることで君が笑ってくれるなら剣を置く気もない。けど……」


 あまりに可愛い。どうしてこんな可愛い生き物が育ったのだろう。


 私はもしかしたら、釣書のまんまに大きくなったこの人でも好きになったかもしれない。その位、いま、とても愛しさを感じている。


 だけどそれを言ったら料理が冷めて日が沈むまでずっと脳停止してしまいそうだから、これだけは伝えようと思う。


「パーシヴァル様」


「……何かな?」


「私の旦那様になるのが、パーシヴァル様で本当によかったです」


 言葉は吟味したつもりだった。うん、好きとか、愛しいとか、そういう言葉は使わなかったと思う。


 ただ、机に突っ伏したパーシヴァル様が頼んだ料理を殆ど手を付けず包んで貰い、夕方まで私はオムライスの後に温かいお茶を飲んで、パーシヴァル様が再び私の顔を見てくれるまで待つことになったのは、解せない。午後の予定が丸潰れだ。


 ……もう、好意を伝えるのがこんなに難しいだなんて知らなかった。でも、可愛いのでいいかな、と思ってしまう。そのままで居てほしいような、少しは慣れて欲しいような。


 結婚するのだから、いつか慣れてくれますよね? パーシヴァル様。

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