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10 伯爵夫人の秘密

「ドレスも揃えたし、宝飾品と靴が届くのが楽しみだわぁ。そしたらお茶会をしましょうね」


「えっ……、は、はい」


 私は毎日の身支度に気を遣い、昼は夫人と教養の勉強やお茶、ダンスのレッスンなどをして過ごしていた。


 刺繍は好きで、ファンレターにその作品のイメージを刺繍したハンカチを同封したりしていたから、とても褒められた。ダンスは……、まぁ、今までデビュタント以外で踊らなかったこともあり、猛特訓の末、今では座っている姿勢や立ち姿も変わりつつある。


 しかし、人見知りの私にお茶会はまだ早いのではないだろうか。とはいえ、断る度胸もない。


 落ち込みながら、はい、と返事はしたけれど、私が夫人のお友達との会話についていけると思えないし……。


「心配しなくて大丈夫よ。——『顔をあげなさい、貴女に恥じるところが無いのならば。胸に一つの信念という針を持つ貴女の美しさを、貴女の作品で示すのよ』」


「……! 夫人も、お好き、なんですか? アレックス・シェリルの『お針子の作法』ですよね」


「好きよ。だって、私が作者だもの」


「へ……?」


 私はニコニコ笑う夫人の顔をジッと見つめて、真っ白になった頭に、釣書に書いてあったシャルティ伯爵家の名前をなんとか引っ張り出してきた。


 ケイト・シャルティ伯爵と、アレクサンドラ・シャルティ伯爵夫人、そして、パーシヴァル・シャルティ次期伯爵。


「まさか……ええ?! は、発売日に全部買っています! ファンです! ファンレターも……あっ……そのハンカチ……」


 笑顔の夫人が膝の上にふわりと乗せたのは、今引用したお針子の作法をイメージして図案にした、光沢のあるシルクに金糸と薄桃色で私が刺繍したハンカチだ。


 とても大事に使われているのが分かる。今も夫人の滑らかな手で撫でられているが、それがまさか、こんな風にもう一度目にするとは思わなかった。


「いつもファンレターありがとう。あのね、貴女の手紙からはいつも、本への好きが溢れていた。言葉選びも、文字もとても丁寧で女性らしくて、同封されるハンカチのファンになったのは私よ。……だからね、貴女にお嫁に来て欲しかったの。部屋にも全部の本を持ってきてくれて嬉しかったわ」


 夫人の……、いえ、大ファンの作者であるアレックス・シェリル先生の言葉、いや、やはりアレクサンドラ様? もうダメだ、興奮して頭が働かない。


 とにかく、私は知らない間に見染められていたらしい。パーシヴァル次期伯爵ではなく、伯爵夫人に。


「え……? では、何故、最初は姉を指名したんですか……?」


「その話は、私とパーシヴァルも交えて話そう。中に入りなさい、二人とも」


 私の大きな声を聞いて伯爵と次期伯爵がサロンに来ていた。今はテラスでお茶をしていたが、促されるまま中に入る。


 一体、私のこの結婚は、何がどうなっているの……?

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