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1 身代わりの花嫁

「はぁ……」


 私、ミモザ・ノートンは立派な灌木で仕切られた大きな庭の、白くて立派な屋敷を遠くに見る鉄柵の門の前で馬車を降りて、ため息をついた。


 子爵であるお父様似のミルクティ色の緩く巻いた茶髪に、良くも悪くも特徴のない顔立ち。青い目だけは綺麗だと言われないことも無いが、それは他に褒めるところがないからだと知っている。


 私はこの初めて訪れる屋敷に、あろうことか、相手と一度も顔を合わせることもなく嫁いできた。


 といっても、釣書は見ている。8年前の絵姿だったが、普通は少しでもよく見せるように描かせるだろうに、釣書にあったのはどう見ても肥満体型でまるまるとして、無い首に蝶ネクタイを巻いたむっつりと澄ました男の子の姿。


 騎士団に入る前の物しか無かったらしい。今は20歳で最近帰ってきて、17歳の私となら結婚してもおかしくない。


 問題は、このお相手の家……シャルティ伯爵家の指名は、私ではなく姉のカサブランカだったということ。


 このまま門前払いされても仕方がないが、『姉は病弱なので妹ではどうでしょう』と父が嘘の手紙まで書いて、一応は了承したらしい。


 姉のカサブランカはお母様似で、派手な金髪に緑の宝石のような目をした、本当に美人を絵に描いたような人。


 その上私はできるなら引きこもって本を読んでいたい引き篭もりで人見知りな性格だけど、カサブランカは社交的だ。どこが病弱だ、どこが。


 とにかく、門前払いされる事を祈るべきか、騎士団に入って痩せている事を祈るべきか分からないが、とりあえず門兵に来訪を告げた。


 すぐに門は開かれ、私は馬車で行くべき道をとぼとぼと歩く。とても広い庭だ。


 庭はいろんな植物が植わっていて、私は遠くを見たり近くを見たりしながら歩いていたせいで、見事に転んだ……いや、転んだと思ったら誰かが助けてくれたようだ。


「あ、ありがとうございま、す……」


 そしてその相手を見上げると、金髪が逆光でもさらさらと煌めき、青い瞳をした切長の目の、それこそ夜会でも見たことがないようなかっこよくて背が高い、眉目秀麗な男の人だった。


 鎧は着ていないが、私を片手で支えて(太っている訳ではない、私は中肉中背)びくともしない腕は、この屋敷の騎士さまだろうか。


 それにしたってラフなシャツにズボンと革靴で、こうまでカッコよく見える男性はいる? いや、見たことがない。


「君、馬車は?」


「門の前で降ろされまして……」


「そう。……一先ず屋敷までもう少しある、掴まって」


「は、はいっ……!」


 エスコートするために差し出された腕に手を重ねて歩きながら、私の興味はすっかり隣の人に移ってしまった。


「名前は?」


「失礼しました。ミモザ・ノートンです。こちらに嫁ぎに来ました」


 聞いてきた青年は私が立ち止まってトランク片手に簡単な礼をすると、驚いてから嬉しそうに笑った。


「そうか、よく来たね。申し遅れたけれど、君の夫になる、パーシヴァル・シャルティ。次期伯爵だ」


 よろしく、と言われたけれど、私は釣書の少年と目の前の人が結びつかず、首を傾げたまま固まってしまった。

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